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6.ご指名
しおりを挟むそれからばたばたと背後が動きだしたと思ったらあっという間にギルド長であるランドルフに話が通り、ノアは促されるまま黄昏の獅子の二人とともにギルド長室にいた。
「王都にいる間は東支部を利用する代わりに、必ずノアが君たちの担当をする。これでいいか?」
「はい。それで構いません」
「なら、この時をもってノアは君たちの担当だ」
左目に傷のある強面のギルド長と、爽やかな代表のような美形の青年が笑顔を浮かべ握手を交わした。
さくさく進んでいく内容にぽかんと開いた口が塞がらない。
口を挟む暇もなくランドルフとマーヴィンの間で話し合いが行われ、黄昏の獅子は最低でも一年は王都にしかもここに拠点を置くことになった。
その条件に自分が絡みしかも誓約書まで用意されている。
東支部は本部ギルドの嫌がらせを受け資金難に陥っているため、高ランク冒険者側から提案を持ちかけられこんな好条件をギルドとして逃すわけがない。
しかも、その条件が希望担当をつけるだけである。
場の流れに圧倒され呆気に取られていたが、久しく見ていないランドルフのご機嫌な様子にノアはそっと胸をなでおろした。
ギルドの明るい兆しに、ノアも気持ちが軽くなる。
ここしばらく販売経路に圧力をかけられ邪魔をされていたが、黄昏の獅子たちから質のいいものが入ればいずれこちらが優勢になるだろう。
ノアの意志確認はあってないようなものであったが、ギルドとしてもノアとしてもありがたい話である。
「これで俺たちは無関係ではなくなったよね」
「そうですね」
安堵の笑みを浮かべていると、この部屋に来てから短い言葉しか発していなかったブラムウェルが話しかけてきた。
切れ長の瞳は相変わらずじっとノアを見つめているが、そこに先ほど見た不機嫌さは表れていない。
そこにいるだけで緊張する相手だ。
口数が少なく見透かすような純度の高い宝石のような瞳で見つめられると、そわっと身体の奥が震える。
「だったら何があったのか話してくれるよね」
有無を言わせぬ妙な圧を感じ、その視線に囚われたまま頷いた。
黄昏の獅子がここを利用しノアが担当になるならば、絶対この件に本部ギルドが反応しないわけがない。確実に彼らに目をつけられる。
今回は実力があるので新米冒険者たちのようにはならないにせよ、妨害活動はなんらかの形で行われるだろう。
――あの蛇みたいな目を思い出すとものすごく憂鬱だ。
彼らをこちら側に引き込んだのはギルド長なので聞かなくても答えはわかっているが、ランドルフに視線をやって確認する。
「話しても?」
「話すべきだ。俺も一昨日のことには腹が立っている。君たちを利用するわけではないが、知りたいというのなら少しでもノアの楯になってくれたら助かる」
ごごごごっと背後が火を背負ったかのように握りこぶしをつくったランドルフは、昨日の冒険者の末路やノアが脅されたことに相当腹を立てていた。
それから本部ギルドとの今までの横やりや一昨日の出来事を話す。
それを聞いたマーヴァンが呆れ、姿勢を崩しソファに凭れた。
「どこにでもそういうヤツはいるんだな。だが、これまでの冒険者に関しては選択の自由と言われればそれまでだ。物資に関してはその分俺たちがいいのを下ろせば、本部ギルドと取引をしている商会はそのうち動くだろう」
「資金難は悪循環を招くから助かる。誓約書もあるので破棄されない限り、物品の横やりは入れられないだろう」
「そうだな。そういう事情なら少しでも多くいい獲物を刈ってこよう。ついでにギルド長がいない時はなるべく近くにいるようにする」
「それは助かる。だけど、何が望みだ?」
「ノアとの関わり」
最後の言葉にぎょっとする。
本当に自分と関わりを持つためだけにこのような提案をしたというのか。
驚いて目をみひらいていると、マーヴィンをはにこっと爽やかに笑った。
その笑顔は好感を持つと同時にそれ以上のことを追求するのを遮断しているようにも見えた。
何を考えているのか彼も読めない。
――……まあ、深く考えたところで変わらないか。
冒険者は一般人と常識が異なる者も多く、一つどころに拠点を置かない者は誠実ではないとは言わないが根本が違うので出会いを楽しむスタンスがうまくやるコツだとランドルフから教わっている。
彼らは自由で、力があればあるほど気まぐれに動く。
ノアにとってありがたい提案なので、その気まぐれが続く限り感謝して誠意をもって対応すればいい。
そこでじっと穴があきそうなほどノアを見つめていたブラムウェルが、目を眇めてランドルフを見た。
「なぜその男はギルド長とノアに固執する?」
「ああ。最初は単純な理由からだ。もともと王都に一つしかなかったギルドがもう一つ作られたことで、権力がそがれたと思ったバイロンの逆恨みだな。そのうえ、俺と考えが合わないから気に食わないらしい。東支部を潰して王都の冒険者ギルドの権力を自分だけのものにしたいのだろう。俺がいるとうまい汁を思うように吸えないからな」
「なるほど。東支部が目の敵にされている理由はわかった。ノアが目をつけられた理由は? 二人は上司と職員の関係だけではないのだろう?」
観察眼に驚きノアが綺麗な瞳を見つめ返すと、ブラムウェルがほんのりと口の端を上げた。
「どうしてわかった?」
「ノアがあんたを見る眼差しが上司を見るものとは違う気がした」
ランドルフがほぉっと声を上げると、ブラムウェルは淡々と答えた。
よく見ているわりに言葉からは感情が伝わってこない。
何を考えているのかわからない相手にじっと見つめられたまま一向に外されない視線に、ノアはそっと愛想笑いを浮かべた。
これから付き合いのある相手だ。少しでも関係をよくするために笑顔は大事だ。
「気がしたねぇ。まあ、ノアは俺が拾ったからな。ずっと恩人だといって慕ってくれているからそういうのも出ているのだろうな。想像つくと思うが、俺との関係があるせいで余計にあのくそ野郎に目をつけられた」
この件に関しては、相手が勝手に難癖をつけてきて絡んでくるので我慢する側の自分たちはストレスが溜まる一方だ。
これがなければあの晩飲みすぎることもなく、目の前の男とも夜と間違いなんて起こらなかっただろう。
いずれ接触するにしても、微妙に気まずい思いをせずに済みむしろ憧れの冒険者と仕事をできることに素直に喜んでいたはずだ。
何がどう影響するかなんてわからないものだなと、ノアは深々と息を吐いた。
「なるほど。ある程度はわかった。あとはノアと二人きりで話したい」
「僕とですか?」
すると、ブラムウェルがさっとノアの左胸へと視線を投じた。だが、すぐにまっすぐに見つめてくる。
ほんの一瞬のことだったけれど、ノアは妙な圧を覚えて身が竦みそうになった。姿勢を正す。
「ああ。まさか二回も逃げないよね?」
ここにきてとびっきりの笑顔を浮かべたブラムウェルを前に、ノアはこくこくと頷いた。
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