ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
15 / 66

12.冷淡な冒険者②

しおりを挟む
 
「そういうことで美人さん。ブラムは僕と話しているので帰っていただけますか?」
「なんであなたに言われないといけないのよ」

 意気込んでみたものの、これくらいで引くなら最初から声をかけてこないだろう。
 ノアではなくマーヴィンだったら態度よく話しかけられたのだろうけれど、彼女にとってノアは役不足の邪魔者でしかない。

「まあ、そうだよね。僕だって君のことに首を突っ込みたくないけれど、今ブラムと一緒にいるのは僕だし」
「そこは普通は察して引くものじゃない?」

 女性だから?
 この場合、性別は関係ないだろう。

「普通ってなに? それに察してこうして間に入っているのだけど」

 言葉でも態度でもブラムウェルはあからさまなのに、優先させるべきだとの態度はこれまで男性に雑に扱われたことがなく自分に自信があるのだろう。
 あまり女性に強く当たるのは嫌なんだけどなと嘆息すると、ブラムウェルが冷え冷えとした声を発した。

「なんで勝手にノアと会話している?」
「えっ、だってこの人が話しかけてきたから」
「言われて引き去っていたらいいことだし、割り込んできて不快だ。人の邪魔をしてその態度何様のつもり?」
「何様って。それに、そいつ男じゃ」

 ブラムウェルに顔を見ずに放たれた言葉にかぁっと顔を赤くさせた女性が声を上げると、ダンッと音がし、続いてガシャンとコップや皿が割れる音が響いた。
 完全に真っ二つに割れた机から、乗っていたものすべてが落ちる。

「きゃあっ」
「ねえ。頭悪いの? ノアに向かってそいつ? 腹が立つなぁ」

 周りの空気さえ凍らせてしまうほどの声音に、女性が悲鳴を上げて後退る。
 興味本意でこちらを見てしゃべっていた者も静まり返った。

「二度と俺とノアの前に顔を見せるな。失礼な女は嫌いなんだ」

 すぱっと切り捨てるブラムウェルに、女性も黙っていない。
 そもそもブラムウェルが冷たいのは今に始まったことではないので、彼女も多少は覚悟の上なのだろう。

「そんな!? もしかして彼が相手なの? ブラムってば男もいけたの?」
「誰が愛称を呼んでいいと言った?」

 そこでブラムウェルは鋭い眼光で彼女を射抜いた。
 それはどこまでも冷たくて、こんな目で見られるくらいならノアだったら無視されるほうがマシだ。

「だって、彼が」
「そう呼んでいいのはノアだけだ。次話しかけてきたらその口縫い付けるよ」
「……ひどっ」

 彼女は目じりを濡らし、ブラムウェルを見た。
 女性が泣くとブラムウェルが悪者みたいになってしまう。
 気分が乗らないのに自信があるからと女性に絡まれて、誘いに乗るのも断るのも自由だけれど毎回相手をしないといけないブラムウェルは気の毒だ。

「ちょっとブラムの言葉悪いけど、誰だって気乗りしないのに知らない相手にしつこく声をかけられるのは不快だよね? 誘うなとは言わないけれど、状況把握はしなきゃ。僕も友人が嫌がっているのにいつまでも時間を潰されるのは困るな。引き際は大事だと思うよ」

 関係は曖昧だけど、知り合い以上だと思うのでこの場はそう言わせてもらおう。
 今後、ブラムウェルと付き合いを続けるなら舐められたままだと同じ事を繰り返すので、周囲にも聞こえるように声を張った。

 それと同時ににっこり笑みを浮かべておく。
 丁寧な態度で余裕を見せておくと、自然と周囲の印象も変わってくるので大事だ。童顔なノアが取れる処世術だ。

 ブラムウェルには冷たくされ、ノアには余裕をかまされ彼女は肩を震わせる。
 だけど、最終ブラムウェルの冷ややかな視線に後退り、赤くした顔を伏せて席を離れていった。

「はぁ。最悪。邪魔が入ってしまった。ごめん」
「ブラムが悪いわけじゃないから」

 なんとなく彼女の後ろ姿に視線を投じると、くいっと顎を掴まれ顔を戻された。

「ノアのことを無視した相手は見る価値はない。むしろ見ないで」
「もう見ないよ。そもそも彼女は僕に眼中がないし。……それよりもこの後どうする? かなり目立ってるし、家に来る?」

 机を壊してしまったし、注目を集めた今は落ち着いて話どころではない。
 女性が来るまでの会話も人目があるようなところでするものでもないし、一週間毎日誘われノアを優先する姿を見せられれば、こちらから歩み寄り今後について話し合うべきだ。
 
「いいの?」
「うん。僕もゆっくり話せるほうがいいし」

 そう伝えると、ブラムウェルはそそくさと席を立った。
 シュタッという表現が合う勢いでノアの横にくる。

「なら、早く行こう。食事もテイクアウトすればいいか。ほら、ノアも立って」

 それからのブラムウェルの行動は早かった。壊した物は弁償すると店の者に話をつけるとノアの腰に手を回す。
 注目されるなか、ブラムウェルにぴったりとくっつかれたまま店を後にした。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました

カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」 「は……?」 婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。 急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。 見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。 単品ざまぁは番外編で。 護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け

僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ
BL
 僕はロローツィア・マカロン。日本人である前世の記憶を持っているけれど、全然知らない世界に転生したみたい。だってこのピンク色の髪とか、小柄な体格で、オメガとかいう謎の性別……ということから、多分、主人公ではなさそうだ。  それでも愛する家族のため、『聖者』としてお仕事を、貴族として人脈作りを頑張るんだ。婚約者も仲の良い幼馴染で、……て、君、何してるの……? 女性向けHOTランキング最高位5位、いただきました。たくさんの閲覧、ありがとうございます。 ※総愛され風味(攻めは一人) ※ざまぁ?はぬるめ(当社比) ※ぽわぽわ系受け ※番外編もあります ※オメガバースの設定をお借りしています

同室のアイツが俺のシャワータイムを侵略してくるんだが

カシナシ
BL
聞いてくれ。 騎士科学年一位のアイツと、二位の俺は同じ部屋。これまでトラブルなく同居人として、良きライバルとして切磋琢磨してきたのに。 最近のアイツ、俺のシャワー中に絶対入ってくるんだ。しかも振り向けば目も合う。それとなく先に用を済ませるよう言ったり対策もしてみたが、何も効かない。 とうとう直接指摘することにしたけど……? 距離の詰め方おかしい攻め × 女の子が好きなはず?の受け 短編ラブコメです。ふわふわにライトです。 頭空っぽにしてお楽しみください。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

【完結】自称ヒロイン役を完遂した王家の影ですが、断罪パーティーをクリアした後に王太子がぐいぐい来ます。

竜鳴躍
BL
優秀過ぎる王太子×王家の影(失業)。 白い肌に黒髪黒瞳。小柄な体格で――そして両性具有。不出来な体ゆえ実の親に捨てられ、現在はその容姿を含め能力を買われて王家の影をしていたスノウ=ホワイト。男爵令嬢として王太子にハニトラを仕掛け、婚約者を悪役令嬢に仕向けて王太子への最終試験をしていたのだが、王太子は見事その試練を乗り越えた。これでお役御免。学園を退学して通常勤務に戻ろう――――――。 そう思っていたのに、婚約者と婚約解消した王太子がぐいぐい来ます! 王太子が身バレさせたせいで王家の影としてやっていけなくなり、『男子生徒』として学園に通うスノウとそんなスノウを妃にしたくてつきまとう王太子ジョエルの物語。 ☆本編終了後にいちゃいちゃと別カップル話続きます。 ☆エンディングはお兄ちゃんのおまけ+2ルートです。

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

処理中です...