ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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15.日常と予兆②

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 きらきらとそれぞれタイプの違った王子様のような見た目の二人は、ノアの現状を把握するとものすごい勢いでこちらにやってきた。
 空気が一変する。
 定期的に発生する名物のような光景にまたかと笑っていた冒険者の誰もがやばいと口を噤み、ずざざざと少しで距離を取ろうと下がっていく。

 ブラムウェルは建物の中に入った時から一心にノアを見ていた。
 さてこれはどうしようかと苦笑を浮かべると、彼はノアの目の前の冒険者に視線をやった。

 すぅっと眇めた視線はすべてを藻屑にしてしまいそうなほど嫌悪感を表し、ブラムウェルの近くにいた冒険者が逃げるようにドアから出て行った。
 横にいていつでも参戦するぞと手を構えていたウォルトが、彼らに気づきその手を下ろす。

「あぁ~、僕の出る幕なくむしろこいつにとって最悪な展開だね~。じゃ、僕は仕事再開するね。はい。次の人。ちゃっちゃっと来て」

 隣にいたウォルトからずっとイライラした気配を感じていたが、楽しげな声はこの展開にご満悦のようだ。
 ノアからすれば穏便に終わらせたかったが、こうなっては仕方がない。

「おい。聞いているのかよ」

 男は周囲の様子に気づいておらず、自分の主張が通らない怒りでいっぱいのようだ。
 マーヴィンは背後に立つと、男の肩に手を置きそのままぎりぎりと力を入れて掴む。

「おっさん、何そこでごねてんの?」
「いたっ、痛いっ。離せ! なんだよお前は!」

 そこでようやく男は彼らの存在に気づいたようだ。
 
「力がないヤツほど吠えるって言うけど本当うるさいよね。ノア。ただいま。困ってるなら外に放り出すけど?」

 ブラムウェルが冷ややかに男を見て、ノアに向けて笑みを浮かべた。

「おかえり。大丈夫だよ」

 これくらいの相手をさばけなくては冒険者ギルドの職員としてやっていけない。

「でも、こういうヤツは個人的に嫌いだから俺たちに相手させて。自分の仕事ぶりを棚に上げて偉そうなのってどうかと思うわ。な、ブラムウェル!」
「ああ。ノアが優しいからって調子に乗るなんて、この先の人生終わってもいいってことだよね?」

 声のトーンは落ち着いているのに、殺伐とした空気を作り出した二人に男はごくりと唾を飲みこんだ。
 大きな口を叩いていてもレベル差は明らかで、男は完全に委縮する。

 ノアは小さく息をついた。
 彼らはもともと介入する気満々だったようだ。ならなぜ聞いたと思いながらも、ノアの楯になることも話にあったので実行してくれているのだろう。

「彼らは黄昏の獅子の方たちですよ。ノアさんは彼らの担当だし、僕も担当してもらっています。ノアさんの素材やレベルを見る目は確実で計算も的確です。それに僕でもわかるその粗悪品を高値で売り付けようと騒いで恥ずかしくないんですかね? 新人として先輩のそういった姿は見ていて恥ずかしいです」

 そこでブラムウェルたちより後で入ってきたワイアットが並ぶ。
 三人に守られる形になったノアは、さっさと終わらせようと締めくくる。

「こちらでそれらは買い取りいたしません。どこでそのような噂を聞いたのか知りませんが今後の利用は結構です」
「なっ! そんな横暴なことしていいと思ってるのか? 俺のバックを知ったら驚くぞ」
「横暴はどちらでしょうか? バック? そんな相手がいるならぜひ前に出てきていただきたいものです」
「だそうだ」

 ノアがそう伝えると、マーヴィンが代表して男の首根っこを掴んでギルドの外へと連れだした。
 残ったワイアットが心配そうに声をかけてくる。

「バックがと言っていましたが、これって本部ギルドが関わっていそうですよね。大丈夫でしょうか?」
「どうだろうね。ここしばらく静かだしこのまま何もないってことはないと思うけど、こそこそされるよりはもう少し前に出てきてくれたほうがやりやすそうかな」
「だからって、煽らなくても」

 ワイアットが眉を寄せると、ブラムウェルが会話を遮るようにずいっと入ってきた。

「大丈夫だ。ノアのことは俺が守る」

 他人のことを眼中にない態度が常で気にかけもしないブラムウェルだが、ワイアットと話している時は積極的に話す。

「確かにあなたがいれば大抵の者は敵にもならないのでしょうが、ずっとそばで見張ることはできないですよね? 俺も協力させてください」
「……まあ、いいだろう。足を引っ張るなよ」
「僕はあなたほど強くはありませんが、大切な人が危険に晒されて見ているだけとかあり得ませんから」

 目の前で自分のことで揉められては居た堪れない。
 しかも、まるでお姫様のような扱いでこれ以上黙っていられなかった。

「二人とも気にかけてくれるのは嬉しいけど」
「ノアに何かあってからでは遅い。協力はいらないとか言わないよね?」
「ノアさん、お願いします」

 言いかけると、二人に遮られる。
 いつもノアの話を素直に聞き分をわきまえよくできた好青年のワイアットにまで詰め寄られ、ノアは腹をくくった。

「巻き込んでごめんね。そして、二人ともありがとう。心強いよ」

 ノアが担当するということは彼らも本部に目をつけられているはずなので、今さら距離をとったところで一緒だ。
 そもそもブラムウェルがノアの危機に反応しないとは思っていないし、助けを断るつもりはなかった。
 ただ、ちょっと二人に丁寧に扱われすぎて口を挟みたくなっただけなので、素直に感謝の意を伝える。

「ノアを守るのは当然だ」
「卑怯な相手に屈するわけにはいきませんから」

 二人は微塵も面倒だと感じておらず、ノアを見つめる。その二人の双眸は、その心を疑うことができないほどまっすぐだ。

 ――いい人たちだな。

 厄介な本部ギルドに目をつけられているが、ランドルフやウォルト、そして彼らと非常に心強い人たちと縁があるのでノアはそう焦っていなかった。
 日常に少し波乱の予兆を含みながら、ほかは特にこれといったこともなくこの日は無事業務を終えた。


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