ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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16.距離①

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 その日もいつものように仕事終わりを待っていたブラムウェルとともにノアは帰宅した。
 ブラムウェルとの暮らしは順調だった。仕事以外はずっと一緒にいるが、長年共に過ごしてきたかのように違和感なく存在に馴染んでいた。

 今日は遅番だったのですでに辺りは暗く、さらに新月なのでいつもより明かりは少ない。
 古びた木製の扉を見ると、今日も無事帰ってきたなと思う。ほっと息を吐き出し中へと入り、扉が閉まると同時にブラムウェルに後ろから抱きしめられた。

「どうしたの?」
「…………」

 問いかけても無言でさらにきゅっと拘束され、ノアは張り付かせたままダイニングへと移動する。
 仕事が終わり、待っていたブラムウェルの機嫌がなんとなく悪いのは感じていた。
 もともとブラムウェルは言葉数が多いほうではないが、帰りの道中は何か考えることがあるのかいつもより会話が少なかった。

 いつも通り討伐を済ませ帰ってきたが、その後、黄昏の獅子として彼らはギルド長のランドルフに呼ばれて話し込んでいた。
 なので、そこで何かがあったのだろうと推測しているが詳細はわからない。

「ブラム?」

 促すと、ようやくブラムウェルは口を開いた。

「どうしても一週間外せない依頼が入った」
「ああ~。重要任務かなと思ったけど、一週間か。短いのか長いのか」

 一介のギルド職員がその中身を知ることはできないので、身分の高い人からの依頼か国からの指令か、難易度の高い依頼なのだろうとは思っていた。
 場合によっては一か月ほど拘束される任務もある。だからそう言ったのだが、ノアの反応がお気に召さなかったのか、頭に顎を置かれぐりぐりと圧迫された。

「ノアは俺と離れて寂しくないの?」
「もちろん寂しいし、その間心配だよ。だけど、A級の黄昏の獅子として指名されてたんだよね? 任務を引き受けた以上こなさなければならないし、ブラムはこなすつもりでしょ? ギルド長を通しての任務は長期間拘束されることもあるから、それに比べてと思っただけだから」

 ブラムウェルたちが来て半月以上が経つ。
 これだけ実力がある冒険者がずっと日帰りの依頼だけで済むはずがないので、そろそろそういう時期もくるだろうと思っていた。

「ああ、ノアと離れたくない」
「……」

 ノアはごまかすように笑みを浮かべた。
 今のところ、ブラムウェルはこの関係に飽きている様子は見られない。
 ノアも悪くはないと思っているし、甘えられるのが好きなのだと意外な自分の一面を知るきっかけにもなった。

 だけど、どれだけ居心地がよくても他人だ。これだけ一緒にいても互いのことをあまり知らない。
 ノア、ノアと慕ってくるわりには、ブラムウェルは自分のことをあまり話さない。冒険者をしているくらいだから訳ありの者がいるのもわかっている。
 だけどここ数日、ノアはちょびっと胸にもやもやを抱えていた。

 それは数日前のこと。
 たまたま夜中にブラムウェルが出てったことにノアは気づいた。

 別にそれを責めるような、なんでもかんでも話すような関係性ではない。
 一緒に生活するにあたってのルールは、互いに迷惑をかけず尊重するというもの。ただ、眠れなくて外に出ていたという可能性もある。

 だけど、普段が普段だったから何も言われずにこそっと出ていって、翌朝は何事もなくノアを抱きしめて寝ていたのに引っかかった。
 その後もそれに触れることもなく、それきりなのか何度かこうして抜け出していたのかはわからない。

 外で何をしているのか詮索するつもりはない。
 けれど、ブラムウェルのことは冒険者としての活躍と普段の冷淡な態度、そしてノアに甘える姿しか知らないのだということに気づかされた。

 食べ物などの相手の好みは生活するうえで知ることは増え関係性を縮めているようで、深い部分には触れない。
 誰彼構わず深い付き合いをするわけではない。いつしか離れていく相手だ。
 だからそれでいいのだと思っていても、甘えられるとそのことを思い出してなんだか複雑な気分になった。

「ノア?」
「お腹空いたね。明日から任務でしょ? 早めに休息に入ったほうがいいんじゃない?」

 胸の引っ掛かりを無視して、ノアは明るく話しかけた。
 明日からの任務がどれほど危険なものなのかわからないし、本人の宣言通りならまた睡眠が疎かになってしまうのだろう。
 だったら、今日は少しでも多く休息をとってほしい。もともとそのための同居だ。

「……そうだね。離れる分、補給させて」
「別にいいけど」
「じゃ、今日のノアは何もしないでね」

 ブラムウェルは暇さえあればノアの世話を焼こうとする。
 何もするなと言われるとどこまでそれが実行されてしまうのか不安だ。

「…………」
「ノア。お願い」
「わかったよ」

 じっと期待のこもった瞳で見つめられ、ノアは頷いた。

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