ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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16.距離③

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 微笑を浮かべたブラムウェルにほっとノアは息をつく。
 あまり詮索するようなことはしたくないけれど、できれば知りたいと思う心は止められず話してくれるならと聞き耳を立てた。

「俺が冒険者になったのは魔物が憎かったのと、失ったものを諦めながらもどうしても失くしたことを認められなかったから。初めは自暴自棄だったけど、ある時にまだ可能性があるのではと思ったんだ。なくても情報くらいはと思ってこれまでやってきた」
「ブラムくらい実力があると、情報を得るのに冒険者はいい手段だよね」

 しかも、稼ぎながらあちこち自身で確認し動けるのだから確実だ。
 辺境にこだわったのも、失ったもの関連なのだろう。

「ああ。大方辺境の魔物は倒し捜しつくしたところ、王都に流れたかもという情報を聞いてこっちにやってきたんだ」
「そういう事情があったんだね」

 これで納得した。
 お金や身分の高い人との繋がりに拘りを見せない活動をしていた黄昏の獅子が、辺境から王都に来た理由。

 あれこれ憶測がささやかれ、一番多かったのは王侯貴族との関わりの強化ではないかと言われていた。
 だが、実際はギルドの利用も東支部とこだわりのなさ。貴族と繋がるなら、本部ギルドのほうがギルド長に気に入られれば繋がりやすい。
 依頼も目に付いたところで近場というので選んでいたので、噂とはかけ離れていると思っていたところだ。

 そこでノアは思い至る。

 ――もしかして、夜出かけたのはその情報を仕入れたからとか?

 失ったと思っても危険な冒険者になってまで捜しているもの。
 そこで、ブラムウェルは慈しむように目を細めた。

「ああ。結果、ここに来てよかったよ」

 つまり、何かしらの情報は仕入れることができたということか。

「ブラムが今まで頑張ってきた成果が繋がったんだね。よかったよ。教えてくれてありがとう」

 ノアはそこでこの会話を締めくくった。
 ブラムウェルにとって根強く残っているみたいだし、これ以上はこちらからはあまり触れないほうがいいだろう。

 それに近くにいても距離を感じる。
 愛おしそうにノアを見つめる視線はノアを通して誰かを見ているようで、すっとが頭が冷えていく。

 そりゃそうだよなと、ノアは気持ちを改めた。
 自分のことを気にかけてくれてはいるけれど、それは一夜の過ちがあったからだ。そこで睡眠効果があったことがわかって気に入られただけだ。

 ここまで慕われてそれだけとはさすがに卑屈すぎるしブラムウェルに失礼なので思わない。
 だけど、ブラムウェルの一番の目的は失ったものを探し出すこと。ノアとのこの関係性は副産物に過ぎないのだと知らしめられた。

 何か期待していたわけではないのになと、どこか落ち込む気持ちをノアは抑え込んだ。
 甘えられて、もしかして本当に自分は特別なのかと勘違いしかけていたのだろう。

 誰だってこれだけ甘やかそうとしてくる相手、そして普段とは違って甘えてこようとする相手に勘違いしてしまうのは仕方がない。
 心の内側に入れてしまう前にわかってよかったじゃないかと、ノアは言い聞かせた。

 ――楽しく平穏に過ごせればそれでいい。

 それから甘やかそうとしてくるブラムウェルに好きなようにさせた。
 さすがにバスルームに一緒に入ろうとするのは阻止したが、それ以外は大方のことを許していつも以上にべったりとそしてふわりと甘い空気のなか夜を過ごした。


 翌朝。
 ノアの出勤時間より早く出るブラムウェルを見送る。

「気をつけてね」
「ああ。たっぷり稼いで帰ってくるから待ってて」

 稼ぎはこちらに関係はないけれどと思いながらも、ギルドは恩恵を受けるしなとノアは頷いた。

「じゃ」
「また、一週間後に」

 扉の前、互いに見つめ合っているとブラムウェルがノアの前髪をかき上げる。じっと見ていると、顔を近づけてきてふわりと額に唇が触れた。

「行ってくる」

 ちょっと甘さと切なさを残して、ノアは唇の感触を隠すように手を置きブラムウェルを見送った。

 それから一週間が経ってもブラムウェルは帰ってこなかった。
 マーヴィンが依頼達成の報告にギルドに来たので、仕事が延長になったわけではないのは知っている。

 そして次の日もギルドに顔を出すことも、ノアのところにも帰ってこなかった。
 心配でマーヴィンにブラムウェルはどうしたのかと尋ねると、気まずそうに視線を逸らしたので言いにくいことがあるようだった。

 それからさらに数日経った夜。
 ノアは久しぶりにウォルトと飲みに出てその帰りにブラムウェルが女性と並んでいる姿を見かけた。
 いつもよりしゃれた服装で、まるで貴族のようないで立ちだ。一緒にいる女性も身分の高い女性だということが身のこなしからわかる。

 ――彼女が捜していた人かな?

 ここからでは表情はわからないが、馬車から下りるところを手を差し伸べてそのままエスコートする姿は様になっている。
 歩くのも女性のペースにあわせてゆっくりで、相手を気を使っているのがわかる。

「なんだ」

 そんな言葉が出た。思ったよりもショックだったようだ。
 もしかして、マーヴィンが言葉を濁していたから人には言えない困った事情があるのかとまで考えた。実際は高貴な女性相手だったから軽々しく言えなかったのだろう。
 
 ノアは視線を彼らから引きはがした。自然と唇をきゅっと閉じる。
 実際はわからないが、失ったものを見つけたのだとしたら喜ばしいことだ。なのにどこか後ろ髪をひかれる思いでその場を後にした。



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

いつもお付き合い、いいねやエールをありがとうございます(*´∀人)♪とっても励みをいただいてます。
これからってところでストックがなくなってしまい、明日から更新できない日が出てくるかもしれません。
できるだけ毎日更新をとは思っていますので、引き続きお付き合いいただけたら幸いです!

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