ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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17.変化

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 女性といるところを見かけたその晩も、ブラムウェルは帰ってくる気配はなかった。
 王都にいることはわかったので、もしかしたらと気にしていたが深夜になっても姿を現さない。

 ずっと抱きしめられて寝ていたので、夜ベッドの上になるとどうしてもブラムウェルのことを考えてしまう。
 ちらりと扉のほうへと視線をやり、大きく息を吐き出した。

「ああ~、なんでこんなに気にしてるんだろう……」

 このまま帰ってこないつもりかとも考えたが、そんな失礼なことをする人物ではない。
 荷物もあるし誓約のこともあるので、このまま会わないということはない。

 それははっきりしている。
 だけど、美男美女、そのうえ気品がある二人は並んでいても違和感がなく、ノアの脳裏に鮮明にこびりついて離れない。

 そもそも一緒に住むにあたり、女性を連れ込み相手のプライベートの時間を邪魔する行為はしないという話はしてあり、双方同じ考えだった。
 だから、外で何をしていようが本来なら関係ないはずだ。

 なのに、実際に女性といるところを見ただけでなぜ気にしてしまうのか自分でもわからない。
 わからないけれど、ブラムウェルのことを考えるだけで気持ちが高ぶって眼が冴える。

 寝転がってみたはいいものの眠れそうにないので、ノアは身体を起こした。
 そこかしこでブラムウェルの気配がし、べったり甘えるように世話を焼かれたことを思い出す。

「やっぱりブラムの態度が原因かな」

 あれだけ行く前に補給と言ってやたらと構い、待っててと言ったのにどうしてと思ってしまう。
 それだけブラウェルの存在に慣れ、甘やかし甘やかされこの短期間で存在が慣れるどころか沁みついてしまった。
  
 だから、思考がなかなか離れてくれないのだろう。
 こんなことになるなんてとノアは小さく苦笑し、いつもブラムウェルが寝ている場所をえいっと叩いた。
 
 そもそもが一度会ったら忘れられない印象的な人物だ。 
 最初は高ランク冒険者のブラムウェルと知らないまま一夜の過ちというか勢いから始まり、思わぬ相乗効果があり気に入られたことから始まった。

 彼の正体を知ってからも、ノアのほうでもブラムウェルといることに利点があり、言わば互いにウィンウィンの関係である。
 なければないで今までの日常に戻るだけで、これまでそうやってきたのだから問題はない。

 なのに、ふっと胸の奥が何かに突かれたようで気分が晴れない。
 誓約のこともあるし、ブラムウェルの荷物はまだ家にあるので完全に関係が切れたわけではないのに寂しく感じる。それらに蓋をするように、ノアは大きく息を吐き出した。

 ――わかっていたことだ……

 自分たちは冒険者とギルド職員。一緒に過ごすのも特に明確な期間もなく関係は心地よくもはっきりしていないものだった。
 一つ変化があるだけで、あっけないほど簡単に距離が離れる。

 冒険者を簡単に縛ることはできない。
 ましてやブラムウェルには失っても諦めきれないほど大事に思うものがあり、睡眠という癒やしを与えることはできてもそれに変わるものはない。

 そうわかっていてもなんだかもんもんとするし、ノアは小さく息を吐き出した。
 顔を見せることや一言あってもいいよなとそこまで考えて、ああ、そうかとノアは理解した。

 別にブラムウェルが誰といようが構わないが、一緒に暮らしていて離れることを惜しんでいたのに帰ってきて一言もないことに自分は腹を立てているのだ。
 深く干渉しないと言いつつも、ブラムウェルは予定が変わったのなら伝えてくれるものだと思い込んでいたから寂しいしショックを受けているのだろう。

「本当、いつの間に……」

 いつか去る相手に深く関わるつもりはなかった。
 失うことの悲しみは嫌と言うほど味わった。また、あの時のことを思い出すだけで今も胸がぎゅうっと締まる。

 ましてや冒険者はいつどこで危険な目にあって、命を落とすかわからない。その亡骸さえ見つからないことだってある。
 深く関わればその分だけ、別れは胸を切り裂くように苦しい。

 一度に多くのものを失い虚無感を味わったノアは、自然とそうなるのを避けていた。
 ギルドで働く際に笑顔で一線を引くのはもちろん仕事を円滑にという意味もあるけれど、本当のところは彼らの存在が内側に深く入らないようにするためだ。

 入れば入るほど重くなり、その分彼らに何かあった時が怖い。だから自衛する。
 でも、ブラムウェルに関しては……

「……もう、遅いということか」

 もう引き返せないくらいノアの中にブラムウェルはいるようだ。
 そうなってしまったら受け入れるしかないよなと、諦めの境地でゆっくりと目を瞑る。

 こびりついた声や音、自分たちをかばって死んだ院長の最後、あっけなくつぶされた仲間。
 襲われた恐怖は今も思い出すだけで手が震えそうになり、それらを封じ込めるようにぎゅっと握る。

 大丈夫。ブラムウェルは強い。絶対に何かがあるわけではないし、むしろ活躍してもっともっと手の届かない場所に行くようなタイプだ。
 だから、魔物を相手にする冒険者だからといって、悪いことにはならないと言い聞かせ気持ちを安心させる。

 ふぅぅっと長めの息を吐き出し、
 次、ブラムウェルと会った時は覚悟して接していかないとなと、ノアはしばらく窓から見えるやけに明るく輝く月を眺めた。
 

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