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20.直感②
しおりを挟むノア自身が死の恐怖を感じたことがあるし、大切な仲間たちと永遠の別れをたくさん経験した。
それ以上の恐怖はないと思っていたけれど、それらとまた質の違った恐怖は放置しておけない。
「なぜ、いつも邪魔ばかりするんだ」
オルコック侯爵が、忌々しいと指輪を唯一していない中指をがしがしと噛む。血をだらだらと垂らしながらのその異様さは目を逸らしたくなるものだ。
そもそも侯爵とは初対面なので、ノアはこの男をどのように見ていいのかわからない。
少なくとも相手のほうはノアを誰かと重ねているのはわかったので、そこからはっきりさせていくしかない。
「邪魔しているつもりも何も、初対面ですよね?」
言いがかりはよしてくれと告げると、ぎろりと睨まれた。
「その話し方も思い出すからやめろ」
「思い出すって誰をですか?」
「お前の母親だ。俺の姉でもある。そんなに似ているのにお前は出自を知らないのか?」
「僕は手がかりとなるようなものを何も身に付けずに捨てられていたので、母親どころか父親のこともどちらも何も知らないです」
あと、それが本当なら目の前の男と血の繋がりがあるということだ。
茶色の髪と瞳が同じでもよくある色であるし、どうとでも捉えられるけれどかなり嫌だ。
それに今になって両親の何かを示されても、それがどうしたとしかいいようがない。
ノアは孤児院で育ち、今では二度と会うことはできなくなってしまったが彼らがノアの家族だ。
「まさか本当に何も知らないのか?」
「はい。なので、僕があなたの姉の子である証明もできないですよね? 向けられているものが検討違いの可能性もあり迷惑でしかないのですが」
本当に関係があるのだとしても、なかったとしても、ノアにとって迷惑でしかない。
「嘘だ。能力は受け継いだはずだ。絶対何かを隠しているはずだ。こんなにも中指がうずくんだ。お前が姉の子であることはこの中指が証明している」
「…………」
異様に中指を気にする姿に、ノアは気持ち悪くて口を閉じた。
あと、中指で証明されてもこっちは「なにそれ?」である。
何か執念に取りつかれているらしいが、聞いても無駄だし会話を交わすのも意味がない。本当のところはわからないし、わかったとしても何も生まれない。
だったら、侯爵も完全に切り離すように動くしかない。
本部ギルド長もだが、どうして知らないところでややこしい相手が絡んでくるのか。
心底うんざりする。
ノアを抱いていたブラムウェルの腕に力がこもる。
話を聞きだしたいノアの意志を優先しながらも、絶対離さないぞといった動きにまたしてもノアは勇気をもらった。
「最強でなければならないんだ。お前の力を渡せ」
「そもそも差し出せる類いのものなのですか?」
力があるかどうかもわかない。あっても封印されているかもといったのは侯爵だ。
何より、簡単に譲渡可能なものなのかもわからない。
オルコック侯爵の指輪から赤黒いものが再び漏れ出だし、ノアはまたあれが来るのかとぐっと歯を食いしばり身構えた。
だけど、さぁっと青い光が取り巻き、一瞬でそれらが断ち切られる。
どうやらブラムウェルは剣を一振りしてあっさりといなしたらしい。
「精神系だな。それ以上ノアに近づくとその腕を切る」
ひと振りでぶらんと侯爵の右腕が肘から下おかしな形で揺れる。
切らずともすでに使い物にならない腕にノアは唖然と口を開けた。
――これほどまでとは。
強いのは知っていたが、圧倒的な強さを目の当たりにすると自分があれこれ考えていたことが無駄なように感じてしまう。
高ランク冒険者の強さを目の当たりにして、ノアはまじまじと折れた侯爵の腕を見た。
「ぐあぁぁっ。何をする! だが、もう遅い!」
その言葉と同時に、ノアががくんと身体の力が抜ける。
もしかしたら、さっきのが今ので増幅されたとか? 魔法のことはわからないが、何かしらがノアの中を暗く重く包んでいく感覚がする。
「くそっ。ノア」
「だい、じょう、ぶ。そ、のまま、抱いてい、て」
先ほどの気味の悪いものが体内に巡ったが、ブラムウェルからの気がノアの思考を正常化してくれる。
『困った時ほど自分自身を見つめ信じなさい。そうすればおのずとノアの進みたい道が見えるはずだから』
今は亡き院長の言葉を思い出す。
これも困った時というのだろうか……。困ってはいるもののちょっと違うような気もするが、どうしようもない時だからこそ自分の直感を信じるしかない。
ノアはふぅっと息を吐き出し、内側へと気を巡らした。
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