ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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22.圧倒

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「ノアに手を出したのだから当然だよね?」

 ノアの視線に気づいたブラムウェルが、ノアを抱いていないほうの手に握っていた剣をぷらぷらと振った。

 確か、少し前までは侯爵の片腕はまだ健在だったはずだが今は両方の手がぶらりといびつな方向に曲がっている。
 苦痛を我慢し脂汗も尋常ではなく、ノアどころではなくなっているようだ。

「……あれもブラムが?」

 なんと言っていいかわからず、さらに奥にいる人物たちに視線を投じる。
 元の形がわからないくらい顔がおかしい。

「ノアを殴ったのは誰かわからないから、連帯責任として懲らしめておいた」

 だから彼らの顔が腫れているのか。しかも、自分を抱きながらどうやって?
 バイロンとトレヴァーは服装でわかるが、ノアを拉致した男たちは誰が誰だかわからないくらいぼこぼこにされていた。

「一歩でも動いたら今度こそ叩き切るから」

 そのうちの一人がぜぇぜぇと息を吐き出しずりっと後退ろうとすると、すぐさまブラムウェルが反応して、男の足元まで斬撃をお見舞いした。
 振りかざした場所から見事に床が一直線へとひび割れ、男の股ぎりぎりまで届いている。

 魔法と剣の威力を前にした男が粗相する。
 周囲の者も息を呑み静かになった。侯爵も腕が動かせないと何もできないのか、ただ呻いているだけだ。

 ――圧倒的すぎない!?

 よくわからない術を使う相手であんなに怖いと思ったのに、こうも簡単に決着がつくのか。
 容赦がない。反撃の余地さえ残さない。味方でよかったが、絶対怒らせてはならない人だ。

 黄昏の獅子たちをどこか遠巻きに見ている冒険者が多いのをなんとなく理解した。受付のギルド職員は本来の冒険者の戦い方はあまり知らない。
 そこで事態を把握したバイロンがいち早く動いた。腫れた顔で話にくそうだが必死に弁明しだした。

「手荒なことをしたのは謝る。だが、もともとノアを害する気はなかったんだ。本部ギルドにはノアの力が必要だと思い」
「だからしつこくノアを付け回して嫌がらせしようと? そもそもあんたの視線はそれだけではないだろう。あわよくばノアを手籠めにするつもりだったんじゃないか」
「どうしてそれをっ」

 そこで焦るバイロン。
 もともと蛇みたいに狡猾で弱みを人に悟らせるほうではないのに、ぽろっとぼろを出している。
 この短時間でブラムウェルは一体何をしたのだろうか。

「ランドルフギルド長が警戒している理由にそれも心配していたからな」
「えっ?」

 うわぁっ。童顔趣味か。
 そんな目で見られていたなんてと冷めた目を向けた。軽蔑する。
 ドン引きしていると、ブラムウェルがしゅっと指をかざし素早く呪文を唱えた。

「その目でノアを見るな」
「うわぁ、目が、目が見えない」

 急に顔を押さえ、バイロンは瞼を持ち上げようと必死になる。
 魔法で視界を閉ざされたようだ。

「えっ。嘘っ。ちょっとやりすぎじゃ?」

 顔もぼこぼこだし過剰防衛になりすぎたらブラムウェルが悪く言われるんじゃないかと心配すると、何も感じていない表情でバイロンを見ていたブラムウェルがこちらを向き大丈夫だと微笑んだ。

「一時期だけだから。ただ、永遠にその目でノアを見ることは許さない」

 音声記録魔道具を起動させたけどいらないのではというくらい、あっという間に片付けていくブラムウェル。
 それが頼もしいとともに、ちょっぴり自分のことなのに何もできていないことに虚しくなる。
 しかも、普通なら阿鼻叫喚となっているところだが、恐怖からなのかもしかしたら何か魔法を使ったのかバイロンが視界を閉ざされてから誰も口を開けない状態のようで、うぅうぅとうなっているだけだ。

 彼らの身勝手な主張を聞く気はないので助かるが、それをさくっとしてしまえるブラムウェルの実力は底が知れない。
 絶対、魔剣士のレベルで収まらない魔法の使い手だ。
 気を取り直して、ノアはブラムウェルにうかがう。

「できれば、ここに拉致される過程の証言や僕や東部ギルドの嫌がらせについて証言取りたいのだけど」
「大丈夫だ。ここまでの経緯を自供させたし、もうすぐマーヴィンがランドルフギルド長と警備兵を連れてくる。ノアの記録魔道具とともに提出すれば言い逃れはできない」

 ノアが手を動かした時に気づいていると思っていたが、ノアが倒れている間にすべてをやってくれたようだ。

「気づいていたんだ?」
「もちろん。ノアのすることを見逃すことはしないよ。それにノアはただやられるだけの人ではないし、だからこそ早めに動こうと思って。昔から自分の危険を二の次にする人だったから」

 昔から。やっぱり孤児院で自分たちは出会っている。
 もしかしたら先ほど思い出そうとしたとても綺麗な子ではないかと、ノアはじっとブラムウェルを見つめた。
 ブラムウェルは端整な顔にうっすらと笑みを浮かべ、有無を言わせない口調で告げる。

「直接手を出したんだ。後はプロに任せたらいい。ノアは汚いものは見ないでいいからね」

 そう言うと、ブラムウェルはランドルフたちが駆けつけるまで、彼らをひとくくりにしてバスルームに押し込んだ。



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

いつもお付き合いありがとうございます!
ブラムがノアに嫌な思いをできるだけさせたくないと徹底的にノアから汚いものを排除するので、ノア視点では本部ギルド問題はあっという間に解決されちゃいました。
ノア視点で過去や真相をもっとこの時点で語りたかったのにこんなはずでは……と、ここ最近進行悩むくらいブラムの愛が強すぎた。
必要に応じて他視点入る可能性もありますが、もうしばらくお付き合いいただけたら嬉しいです。

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