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23.自覚②
しおりを挟むランドルフの言う通り重い。
だけど、それをすんなり受け入れ納得してしまっているのは、やっぱり子供の頃のまだ思い出せないけど沁みついたものからか、短い期間だったけれど過ごした時間からか。
ノアはふっと息をついた。
「ブラムのおかげで助かったよ。だけど、なぜ先に言ってくれなかったの?」
「当時の記憶があまりないと聞いていたから」
記憶。すべてはそれに繋がるのか。だけど、言ってくれてもとは思ってしまう。
自分たちの出会い方や、その後の生活、そしてしばらく顔を見せなかったこと。そのすべてに言葉があったらまたノアの感じ方も違ったと思う。
なにより、
「あれだけべったりだったのに」
これに尽きる。
自分たちが一夜だけの関係だったらここまで気にしなかった。
あれっきりそういうことはないまでも、知人や友人というにはどこか甘い空気が流れ甘やかし甘やかされていた。
ブラムウェルの態度と過ごした時間で、ノアの中にブラムウェルの存在は居ついてしまっていた。
「態度で示すのは今の俺の気持ちを伝えるために当然の行動。だけど、言葉を発すると子供の時のこととか刺激するかもしれなかったから」
「刺激?」
「ノアへの好きは質が変っても子供の時から薄れることはないから。一度言葉にしてしまうともっと求めてしまいそうだから自重もかねて」
今までなんとなくはぐらかされているというか、ほかとははっきりと違う態度で示され優しくされていても、明確にされていていなかったものに理由があったようだ。
「記憶? 思い出したのか?」
そこでランドルフが焦ったような声を上げた。
瞳はわずかに動揺で揺れ、その反応を見て記憶に関してはランドルフに聞くのがよさそうだと確信を得る。
それと同時に、過去のことは二人である程度共有されていているのだと悟った。
さすがに一夜をともにしたことまでは知らないだろうけれど、ブラムウェルの好意に関して当然のように受け止めているところを見ると、ノアの知らないところで話し合いがあったのだろう。
――ありがたいのだけど過保護というか……
ノアのために最善だと思って動いてくれているのだろうが、自分のことなのにと思うと置いてきぼり感はどうしても感じる。
それもノアが気づいていなかった記憶によるものだとしたらもどかしい。
「いえ。記憶がおぼろげだと自覚をしたというか。侯爵が能力の封印とも言っていましたし、それと関係がありますか?」
「能力か……。正直、記憶と能力に関してどのように連動しているのか俺はわからない。ノアの能力自体を把握していないし、そのことに関して俺が語れるのはすべてが人伝いに聞いた憶測でしかない」
「そうですか」
それでも何かしらの事情を知っているということだ。
何も手がかりがないよりはいい。
「それについては侯爵の家系を調べれば少しはわかるだろう。確か先代が隠居しているはずだし、貴族相手にどこまで切り込めるかもわからないけどな。ただ、記憶については慌てる必要はないだろう。その顔、どうして記憶があまりないのかは予想がついているのか?」
「多分、僕が眠れなかったことと関係していますよね?」
そう訊ねると、ランドルフはしっかりと頷いた。
「ああ。あの頃はそうしないとノアの精神が持たなかったから、エイダに施してもらった。もともと応急処置として一時的なものではあったし、ノアが思い出すことを強く望めば解けるようにはなっていると言っていた。思い出しかけているということはそういう時期がきたのかもしれないな」
エイダとはランドルフのかつての仲間の女性である。
村から王都に来るまで一緒に行動していた人物の一人だ。同じパーティだった重騎士のミックと結婚して子供も生まれ今は地方に住んでいる。
魔導士だったエイダなら、一部の記憶を封じることは可能だろう。ランドルフたちもAランク冒険者としてかなり活躍していた実力あるパーティだった。
とても厳しくも優しい人たちで、旅の道中でゆっくりと世界と生き方を教わった。
「僕は、できるなら思い出したいです」
つらくても、大事な人たちを忘れたままなのは寂しい。
亡くなった人たちは戻らない。だけど、その思い出はノアが生きている限り自分の中で生き続ける。
多くの人があの日に亡くなった。だからこそ、生き残ったノアが覚えていられるものはちゃんと覚えておきたかった。
「『やるだけやったら、あとはなるようになるものなの』お前の母親の言葉だ。そうやって無茶をしたが、彼女の行動は結果的にノアを守った」
「母を知っているのですか?」
「下の名前だけでほかは何も知らなかったが、関りは少しだけあった。彼女のことを多く知るわけではないが、楽観的に見えて行動力があって、マイペースさは血の繋がりを感じる。詳しいことはまた今度ゆっくり話そう」
ランドルフの口から初めて母のことを聞いた。気になるけれど、ランドルフの言う通り落ち着いてからゆっくりと話を聞くべきだろう。
次にはと約束をして、ノアはブラムウェルと一緒に家に帰宅することになった。
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