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25.消去拒否②
しおりを挟む考えるようにゆっくりと瞬きをしたブラムウェルがぽそっと呟いた言葉に、んっ? と首を傾げる。
「一度印をつけて起動させたら消すまでそのままだ」
「なら消したら」
言い切る前にぶんぶんと首を振りながら拒否されて圧倒される。
その勢いにおおっと逃げかけたノアの腰を掴み、ブラムウェルはぎゅむぅっと強く抱きしめてきた。
「嫌だ。また何かあるかもしれない。それだけは無理」
「……そっか」
肩口でささやかれ、熱い吐息にふるっと身体が震えた。
「ノア」
顔を上げたブラムウェルに名を呼ばれ、身動きできないまま至近距離で見つめ合う。
鮮やかな緑の瞳の奥には、ノアのすべてを取り込もうと揺らめく熱とともにちらっちらっとこちらをうかがう様子も見える。
その瞳を見ていると、どうしようもなく胸が熱くなった。
そもそも魔法のことはわからない。
あと、どうしてこんなに引き寄せられたのかもわからないが、ブラムウェルの言うことを信じるしかない。
魔法をかけた本人に消せないし消したくないと言われては、ノアにはどうしようもない。
「じゃあ、このままってこと?」
「うん」
「うんって」
さっきまで引かないかノアの様子を心配していたわりには、やけにはっきりと断言する。
呆れると、ブラムウェルはにっこりと笑った。
「大丈夫。常に見張るようなものではないから」
「だったら、どういうもの?」
「どこにいるのか意識を向けたらわかる」
「…………」
……えっ? ということはどういうこと?
意識を向けたらわかるって、それってどうとらえたらいいのだろうか。
理解できているようで理解できないとしばらく思案していると、ブラムウェルが言葉を重ねた。
「ノアの安全のためにしか使わない…………、多分」
「多分……」
数日ならと思ったけれど、それがずっとだと聞かされると意味もなく心配になる。
だけど、別に悪いことをするわけでもないし、実際ブラムウェルもそこまで暇ではないだろう。やっぱり悩むほどのようなことでもない気もする。
それもこれも無駄にブラムウェルが予防線を張るからだとちらりと睨むと、ブラムウェルは眉尻を下げた。
「今回のことは心臓が止まるかと思った。もしそれがなかったら今もこうしてノアとくっついていられなかったかもしれない」
「そう、だよね」
いろいろあった後だから、きっとノアのことを心配しすぎて不安なのだろう。
「だから追跡魔法は消さないし、保護魔法はこれからもずっとかけ続ける。ノアも安全だし俺も安心するし、安全のために手放すべきものではないと思う」
「……手間じゃない?」
自身の感情は置いておいて、ブラムウェルからしたら面倒でしかないような気がして訊ねると、なんてことを言うのだと睨まれる。
「ノアのことで手間だと思うことはない。本当はまだまだかけておきたい魔法があるけど我慢しているんだ。精神魔法への保護、少なくとも抵抗できるものは急務だけど」
「ぐぅっ……、そう、なんだ?」
腕に力をかけられて、ノアが身体に力を入れていないと今すぐにでも唇が触れてしまいそうな距離で訴えられ相槌を打つだけで精一杯になる。
精神魔法対策については絶対のようだ。
そんなことそうあってたまるかと思うけれどノアに口を挟ませる気はないようで、その様子にそれ以外に何がとは怖くてさすがに聞けない。
万が一聞いてしまったら、プレゼンされてかけようという話になりそうだ。
「ノアは忘れてしまっているけれど、村から、ノアのそばから離れたことを後悔している」
「魔物に襲われた時はいなかったんだね?」
「ああ。後で知った。永遠の別れになってしまったとずっと苦しかったけど、こうしてまた出会えた。俺はノアのことを一生離すつもりはないから。総力をもってノアを危険から守るし、もう二度と離れるつもりはない」
「……」
熱い思いだけは伝わってくる。
その気持ちを受け止めたいのに、どうしても受け止めきれないのは過去を共有できていないからだろうか。
自分でも整理しきれず黙っていると、ブラムウェルが言葉を重ねてくる。
「そもそも、追跡魔法は何もなければ起動するつもりはなかった。もしもの時の保険のつもりだったのに、ノアは危ない目に遭って起動する必要が生じた。二度と出会えないと思っていたノアと出会えたのに、また出会えなくなる、今度こそ本当に失ったらどうしよかと保護魔法をかけていても心臓は痛くて本当に怖かった」
切々と訴えられてブラムウェルの気持ちに対して何か言わなければと思うけれど、今の状態では何を言っても上滑りする気がした。
自分たちの前にある問題をまずは一つひとつ解決しようと、ノアは口を開いた。
「追跡魔法のことはわかった。保護魔法も精神魔法もブラムウェルの好きにしていいよ。ただし、今後何か僕のことでしようということは内緒にしないでくれる?」
「わかった」
こくりと頷き、その際に唇がわずかに触れる。
それに気づいたブラムウェルが嬉しそうに目を細め、もう一度キスをしてきた。
隙あらば好きを伝えようとしてくるブラムウェルにノアも身体の力を抜いた。
ブラムウェルの行動は基本にはノアのためと好きがあり、強引だけれど嫌われたくないという気持ちも働くようでそう無茶はしないだろう。
話を聞かされる前は、いつかどこかに旅立つ人だからというのがあって深入りしないようにしていた。
ブラムウェルの中でノアはずっと一緒にいることが揺るがないようなので、その思いを嫌だと思わない時点で答えが出ているようなものだ。
忘れていることが多いようだと知ったばかりの今でも、村で起こった残酷な別れは根強くノアに植え付けられ、仲良くしていてもどこかで傷つかないようにうっすらと線を引いていた。
それらは日常では気づかないほどのものだけれど、ブラムウェルはそこを飛び越えようとしてくる。
その線を越えられることは怖いけれども、ブラムウェルならとまだ掴みかねている自分の心が訴えているようで、今はとてもブラムウェルのことが知りたい。
まだまだ聞きたいことはあるけれど、そろそろ自分たちの核心の話をすべきだろう。
「約束ね。ほかの話に移る前に、まずブラムウェルの知る僕の話、そしてブラムウェルのことを聞かせてくれる?」
話を聞いているうちに思い出すのか、思い出せなくてもこの先の話をするのにブラムウェルの気持ちを、ブラムウェルのことを知っておくべきだと思った。
見つめると労わるように額にキスを落とされ、探るようにじっと見つめ合う。
余計な言葉はいらない。
再度唇を落とすと、ブラムウェルはゆっくりと口を開いた。
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