ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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出会い sideブラムウェル①

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 ブラムウェルの本名は、ブラムウェル・ド・ロゴニスタ。ただし、生まれてからずっと自ら姓を口にしたことはない。
 名前からわかるように、今は滅びた旧ロゴニスタ王国の王族の血を引いていた。

 ロゴニスタは自然派として知られ、今はあまり信じられることのない精霊を崇め信仰していた。ざっくりまとめると、崇めている限り精霊が国を守ってくれるというものだ。
 それに一石を投じたのが継承権一位の国王の一人息子である第一王子だ。

 次期国王選定の際に、第一王子が精霊信仰ではなく時代に合わせて改革をしていくべきだと提言した。森を開拓し発展させて人の力で未来を切り拓くべきであると。
 内容は別として、その言い分も理解できる。変わりゆく世界に対して何もしないのは怠慢だ。
 だけど、長年根付いた信仰心はそう簡単に捨てられるものではなく、森は精霊信仰と密接に関わりがあるため国会は荒れ政力争いにまで発展した。

 結局、決着がつく前に各地で魔物の氾濫が発生しそれどころではなくなった。
 それは第一王子の発言や発展した争いやそれにおいて森が一部伐採されたことに精霊の怒りを買ったのか、それとも魔物に対して従来通りの対策だったから氾濫したのかわからない。
 今となっては国が滅びてしまったのでその事実だけが色濃く残った。

 ブラムウェルは長年続くその争いの最中に生まれた。
 当時の王弟と男爵令嬢であった母との間に生まれたが、権力争いに巻き込まれ命を狙われる可能性があったため、ブラムウェルは存在ごと秘匿とし育てられた。

 だけど、それも危うくなったため身を隠すように孤児院に預けられた。
 成長するにつれ目立つ容姿のため数か月、長くとも半年単位で転々としていたが、最後に行きついたのは辺境の地に人知れずあった村だった。

「ブラムウェル様。ここならきっと安全です」
「……」
「あともう少しです。次に迎えに来るときは隠れる生活も終わり我が息子のマーヴィンも一緒ですから。それまでどうぞ心安らかにお過ごしください」

 定期的にブラムウェルの様子を確認し、移動となる際には必ず付きそうヒギンズが馬車から荷物を下ろしながらブラムウェルに話しかけた。
 いつも小難しい顔をしていたが、この時ばかりはにこっと笑顔を浮かべる。もうすぐ継承権争いが終わるのだと、子供ながらに感づいた。

 ブラムウェルは静かに頷いた。わずかに抱いた期待をぐっと抑え込む。期待してもいいことはない。
 当時、八歳にもなったばかりであった。
 そうして流れ着いた先の孤児院。そこで出会ったのが三つ年上のノアだった。

 その日も外に出るとやたらと話しかけ世話を焼こうとしてくる女子がいるので、部屋にこもっていた。
 男子部屋と女子部屋に分けられているため、さすがに勝手にここには入ってこない。

「ブラム。またこんなところにいる。ごはんの時間だよ」
「……」
「お腹すいてないの? 僕はお腹ぺこぺこだよ。朝からだいぶ走り回ったからね」

 そう言いながらお腹をさするノアは、近づくといつもお日様の匂いがした。
 ノアが連れてきた外の匂いに、すんと鼻を動かし息を吸い込もうとしたところで慌てて止める。

 ノアはちょっとしたことでもこちらの意を汲み取ろうとするから侮れない。
 それがブラムウェルの気づいていない気持ちまで気づいてしまうこともあるので、彼がそばに来ると意識して今まで通り振る舞えなかった。

「……」
「行きたくない?」

 こちらの顔をうかがうように首を傾げ顔を覗き込んでくるノアのその問いに頷く。
 別に話そうと思えば話せるが、今までの経験上、一度話すと次々と話しかけてくるようになるのでブラムウェルなりの対策だった。

「そっか。なら僕もここで食べようかな。ブラムの分も持ってくるから待ってて」
「……」

 慣れ合いたくない。別に彼が嫌いなわけでもないし、ここにいる誰かを嫌っているわけではない。
 ただ、どうしても馴染めなくて馴染みたくなくて放っておいてほしかった。

 それからパンとシチューを載せたトレーを持ってきたノアは、ブラムウェルに渡すと少し離れたところに座り美味しそうにそれらを頬張った。
 世話という名目で話しかけてくるが、ノアはあれこれとブラムウェルを詮索してこなかった。

 生活するうえで必要なことを構い話しかけてくるだけだけれど、そっけないというわけでもない。
 ほわんと柔らかな空気を常に醸し出しているからなのか、ノアのそばは陽だまりの下でくつろぐようなのんびりした時間が流れた。

 何より、ブラムウェルが話しても話さなくてもノアは気にしなかった。
 好きなように構って、好きなように放っておいてくれる。逆にあまりにのんびりしていて、つい口を出したくなるようなこともあるくらいだった。

 変な正義感ではなく気になった時に構いに来るという気ままな動きは、ブラムウェルにとっては楽に感じた。
 そうして、拒否しきれないままいつの間にか一緒に食べることが増えた。

 昼はどこで食べても許されるが、朝と夜は必ず食堂という決まりがありその時はノアは彼を慕う孤児たちと食べるため、一人隅っこでブラムウェルは食べた。
 昼だけだったが、いつしかブラムウェルもノアが訪ねてくるのが楽しみになっていた。

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