ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
44 / 66

出会い sideブラムウェル②

しおりを挟む
 
 院長たち大人とノア以外、ろくに反応をしないブラムウェルに飽きて話しかけようとしなくなったある日のこと、いつもなら昼に二人分のご飯を持ってやってくるノアがこなかった。
 ずっと待っていても姿が見えず、こんなことは初めてで午前中に何かあったのだろうかとブラムウェルは気になって食堂へと向かった。

 人を避けてひきこもるようになって初めてのことだった。
 昼時なので廊下には誰もおらず、自分の足音だけが響く。明るいのに急にこの世界に一人になったような寂しい気持ちになって、ブラムウェルは足早に歩いた。

「あはははっ。なんで引き止めるのにこちょこちょするの? あははっ。チャーリーやめなって」
「だめ。ノアがうんって言うまでやめないもん」
「ふふっ。ははっ。もうっ。三時のおやつはみんなで外にピクニックに行こうと思っていたのになぁ。こうしていたら時間なくなっちゃうかも」
「ピクニック!? 本当に?」

 楽しそうな声に食堂を覗くと、ノアは孤児たちに囲まれ話しかけられていた。
 チャーリーはノアにべったりとくっついて、頭をぽんぽんと撫でられている。とても嬉しそうだ。

「ピクニックか。そういえば最近していなかったな。いい天気だし気持ちよさそうだ」
「だよね。絶対気持ちいいと思うよ」

 ノアよりも年上組が満足そうに同意する。

「わぁい。ピクニックだ~。何持っていくの? 僕はクッキーがいいな」
「私はマドレーヌがいい」
「私はノアと一緒ならなんでもいいもん」
「ずるい。僕もノアがいればなんでもいい。嫌いな野菜でも食べるよ」

 ノアは口々に要望を告げる小さい子供たちを穏やかな眼差しで見ている。
 そこで、一時期やたらと話しかけてきた女子がノアの腕を引いた。

「みんな誤魔化されているわよ。結局、ノアはブラムのところに行くのだから」
「あっ。そうだ。ブラムばっかりずるい」
「ずるい? どうして?」
「私たちもノアと一緒にお昼を食べたいってこと。贔屓はよくないと思うの」

 その言葉に、そうだそうだと周囲の子供たちも口々に声を上げる。

「朝と晩はみんなと一緒に食べてるよね?」
「でも、ブラムはここ最近毎日ずっとノアと一緒だよ。ノアはみんなのノアなのに、新しく入ってきたからってずるいと思うわ」

 ノアは孤児たちそして大人受けもよく、非常に人気者だった。常にきゃあきゃあ言われるタイプではないけれど、誰もがノアを認め必要とし年齢性別関係なく常にノアの周りには人がいる。
 わかっていることだ。だけど、いつもよりその光景が面白くなく感じた。

「でも、僕たちの城にいるのに寂しい思いはしてほしくないよ」

 ここの孤児たちは孤児院のことを城と呼ぶ。家よりもっと特別感を持たせるための言葉。
 そう呼ぶことで仲間だと一体感を持っているようだった。

 好きにすればいいが、みんなで仲良しごっこをしているようでブラムウェルはその言葉を聞くとしらける思いだった。
 ブラムウェル自身、継承争いがなければ本当の城に住んでいたからかもしれなかったため余計に反応していたのだが、この頃のブラムウェルは自分の感情は持て余していた。

「別に放っておけばいいんじゃない? 好きで一人でいるようだし」
「そうかもしれないけど寂しい時は寂しいと思うよ。それに僕が勝手に気になるだけだし、もしそれがルイサでも同じようにしていたよ」
「ノアならそうかもしれないけど……。でも、放っておいてほしい人をいつまでも構うのってどうかと思うわ。迷惑しているんじゃないかな」

 ルイサの厚意を冷たくあしらったブラムウェルに対して、彼女があまりよく思っていないのはわかっている。
 少しは悪かったという気持ちはあるけれど、彼女に関してはしつこかったし押し付け感がすごくてまた過去に戻っても同じような態度をとっていただろう。

 だけどノアは違う。ノアは彼女とは違う。
 自分の気持ちを勝手に決めつけないでくれと、ブラムウェルはぎゅっと拳を握りしめた。

「迷惑かぁ。最近話してくれるようになったし、ブラムは嫌だったらはっきり拒絶すると思うのだけどな」

 ほら。ノアはやっぱりわかっている。
 ブラムウェルは腹立たしい気持ちから、どこか誇らしい気持ちでノアを見つめた。

「もう。ノアってお人好しなんだから。傷ついてもしらないからね。それでピクニックにブラムも誘うの?」
「もちろん彼も誘ってみるよ」
「ええ~。どうせ行かないって言うのに」
「そうかもしれないけど、みんな行くみたいだし一人でここにいるのは寂しいんじゃないかな。行かないにしても声だけはかけるよ」

 ノアとだけなら考える余地はあるが、みんなでピクニックは面倒でしかない。
 せっかく誘ってくれるのに申し訳ないが断ろうと決める。

 この様子だともう少し時間がかかりそうだ。
 見つかる前に部屋に戻ろうと踵を返したその時、続くルイサの声に視線を戻す。

「なら、そこでブラムが反応しなかったらこれからはノアもこっちでお昼食べる?」
「うーん。でも……」
「でも、ブラムがそうしたくてそうしているんでしょ? だったら別にもういいんじゃない? 院長の言いつけは守って朝晩はここで食べてるんだしやろうと思えばやれるんだから。迷惑と思っていなかったとしてもそれは甘やかしになるんじゃない? ここにはもっと小さな子もいるんだからいつまでもブラムばかりに構っていると、今日みたいに拗ねちゃう子が出てくるよ」

 そこでノアはべったりと張り付くチャーリーたちを見下ろし、それぞれの頭を撫でた。

「確かに……。ブラムは僕がいなくても平気だよね。慣れてきただろうしそうすべきなのかな」
「それがいいと思う。それにブラムはそんなに小さくもないのにここでの仕事も免除されているようだし。それもあって不公平感はどうしても出るから」
「それは僕らとブラムは違うからね」

 ノアの言葉に頭が真っ白になった。ものすごくショックだった。
 放っておいてほしいのに、いざノアに構わない宣言され自分たちとは違うのだとはっきり言われると無性に腹が立ってイライラした。

 ノアに余計なことを吹き込んだルイサも、べったりくっつくチャーリーたちにも腹が立って、誰に何をというのさえ自分でもわからない。
 これ以上話を聞いていられず、ここにいることさえ嫌になってブラムウェルは孤児院を飛び出した。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました

カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」 「は……?」 婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。 急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。 見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。 単品ざまぁは番外編で。 護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け

僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ
BL
 僕はロローツィア・マカロン。日本人である前世の記憶を持っているけれど、全然知らない世界に転生したみたい。だってこのピンク色の髪とか、小柄な体格で、オメガとかいう謎の性別……ということから、多分、主人公ではなさそうだ。  それでも愛する家族のため、『聖者』としてお仕事を、貴族として人脈作りを頑張るんだ。婚約者も仲の良い幼馴染で、……て、君、何してるの……? 女性向けHOTランキング最高位5位、いただきました。たくさんの閲覧、ありがとうございます。 ※総愛され風味(攻めは一人) ※ざまぁ?はぬるめ(当社比) ※ぽわぽわ系受け ※番外編もあります ※オメガバースの設定をお借りしています

同室のアイツが俺のシャワータイムを侵略してくるんだが

カシナシ
BL
聞いてくれ。 騎士科学年一位のアイツと、二位の俺は同じ部屋。これまでトラブルなく同居人として、良きライバルとして切磋琢磨してきたのに。 最近のアイツ、俺のシャワー中に絶対入ってくるんだ。しかも振り向けば目も合う。それとなく先に用を済ませるよう言ったり対策もしてみたが、何も効かない。 とうとう直接指摘することにしたけど……? 距離の詰め方おかしい攻め × 女の子が好きなはず?の受け 短編ラブコメです。ふわふわにライトです。 頭空っぽにしてお楽しみください。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

【完結】自称ヒロイン役を完遂した王家の影ですが、断罪パーティーをクリアした後に王太子がぐいぐい来ます。

竜鳴躍
BL
優秀過ぎる王太子×王家の影(失業)。 白い肌に黒髪黒瞳。小柄な体格で――そして両性具有。不出来な体ゆえ実の親に捨てられ、現在はその容姿を含め能力を買われて王家の影をしていたスノウ=ホワイト。男爵令嬢として王太子にハニトラを仕掛け、婚約者を悪役令嬢に仕向けて王太子への最終試験をしていたのだが、王太子は見事その試練を乗り越えた。これでお役御免。学園を退学して通常勤務に戻ろう――――――。 そう思っていたのに、婚約者と婚約解消した王太子がぐいぐい来ます! 王太子が身バレさせたせいで王家の影としてやっていけなくなり、『男子生徒』として学園に通うスノウとそんなスノウを妃にしたくてつきまとう王太子ジョエルの物語。 ☆本編終了後にいちゃいちゃと別カップル話続きます。 ☆エンディングはお兄ちゃんのおまけ+2ルートです。

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

処理中です...