ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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別れ sideブラムウェル②

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 無言でここまで連れてきたブラムウェルに抵抗することなく、ノアは何も言わずに付き合ってくれる。
 そんな優しさに触れるたびに、ノアがいいと気持ちが溢れてどうにかなりそうだ。

 縋りつくようにノアを抱きしめた。
 相変わらずお日様の匂いがする。だけど、今はその匂いを嗅ぐと泣いてしまいそうだ。
 どうして離れなければならないのだとくらくらと眩暈までして、一つ言葉を発するだけでも苦しい。

「……ノアと一緒にいたい」

 ぽつりと漏らした言葉に、ノアの肩がぴくりと動く。
 それですべてのことを悟ったのだろう。

 ノアがブラムウェルの背中に腕を回し、とんとんと慰めるように手を動かした。
 ぶわりと目じりに涙が溜まり、ブラウェルはノアの肩に顔を埋めてそれを隠した。

 ブラムウェルは王族であることは伏せながら、ここから迎えが来て離れなければならないこと、きっと戻ってくることはできないと自分の気持ちとともにノアに話した。
 声が震えそうになるのを必死に堪えたが、それでも顔は取り繕うことができずにどうしても歪む。

「そっか……」

 ブラムウェルの話に静かに耳を傾けていたノアは、話が終わるとぽつりと言った。
 その態度にものすごく腹が立って、ブラムウェルはノアの肩を掴んで揺すった。
 今は何でも気に障り、どうしても衝動的になってしまう。

「ノアと離れたくない。ノアは離れてもいいの?」

 自分たち子供にはこの問題はどうしようもできないことはブラムウェルもわかっている。
 ノアもそれがわかっているから安易なことは言わない。それもわかっている。

 ――わかっているけれど……

 それでもノアの口から引き止めるような言葉が欲しかった。
 ブラムウェルはノアと視線を至近距離で合わせ、じっと望む言葉を待った。

「僕も一緒にいたいよ」
「だったら……」

 そこでノアは小さく首を振った。

「どうして!?」
「ブラムも出ていかないといけないとわかっているからそんな顔をしているんでしょう?」
「……っ。だったら、ノアも一緒に行こう!」

 親から、ヒギンズの方針から自分は逃れられない。駄々をこねたところでと頭の隅っこではわかっている。
 だから、苦しいし悔しい。

「ブラム……。それもきっと無理。お別れは僕も寂しいよ」

 ブラムウェルは嫌だと首を振った。受け入れたくない。
 そんな簡単に諦めるような言葉を言わないでほしい。

 ノアがいない未来を考えるだけで目の前が真っ暗になって先が見えない。
 ノアの肩を掴む手の震えが止まらない。

「ブラムウェル様!」

 捜しにやってきたヒギンズがとうとう自分たちを見つけた。
 もしくは、落ち着くのを待って少し遅れて来ただけなのかもしれない。なんでも大人の掌の上で、簡単に自分たちを離せてしまうのだ。

 ブラムウェルにとって、どれだけノアの存在が大きいのか知らないくせに。
 ノアだけ、そう思っているのにそんなことなどお構いなしに実行する大人が憎い。

 その思いがピークに達し、ブラムウェルの魔力が爆発した。
 自分とノアの周囲は嵐が吹き荒れるように風が吹き、周囲の砂や石をも巻き込み人が近づけなくなる。

 どうして自分の思い通りにいかないのだろうか。
 こんなことは初めてで、ブラムウェルはノアをぎゅっと抱きしめた。

「ブラム?」

 自分たちを外から守るように吹き荒れる風。

 ――ああ、ずっとこうしていられたらいいのに。

 誰にも邪魔されず自分たちだけがいる。
 ノアを独り占めしたい。
 なのに、それができない。その力がない。

 ブラムウェルは王族の特別な血を引いていたため魔力が絶大で、その上聡明だったため理解が早く魔法に長けていた。
 なんでも自分でできてしまう。子供ながらに弱い魔物なら倒してしまえるため、下手をすればその辺の大人よりも強い。

 そのためここに来るまで周囲には畏怖の念を抱かれ敬遠されるか、やたらと崇めその恩恵にすがろうとまとわりつかれることが多かった。
 子供ながらに王族という血を引いていることに誇りと嫌悪を持ち、一つどころに留まれない境遇に腹を立てながらも諦めてもいた。

 容姿が人に好まれる類いのものなので余計にその傾向は強く、行く先々で起こる自分にまつわる周囲の反応に、人が嫌いになり距離を取るのが常となった。
 そんな中、ノアだけは自分から欲した。心から欲しいのはノアだけだ。

 最初は他人に興味を持つこと自体が初めてで、よくわからなくて拒絶していた。けれど、手を伸ばした分、ちゃんと返ってきて満たされることを知った。
 よくやく気づいたのに、満たされたのに、知ってしまったノアのいない世界は考えられない。

 慢心していた。
 一人でいても、結局は善意の誰かは面倒をみてくれる。大人が環境を整えてくれる。それらが当たり前になりすぎて、一人でなんでもできると思いあがってもいた。

 ――ノアと離れたくないのに。

 結局は大事なところで何もできない。
 永遠になるかもしれないとわかっていて離れるなんて、胸が引き裂かれる。

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