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別れ sideブラムウェル③
しおりを挟む「もっとノアも欲して」
そうすればこのまま二人で隠れてしまえるのに。
この温度差が憎い。何もできない自分が悔しい。
ぶわりと感情がさらに爆発し、周囲が見えなくなった。
ノアを抱きしめているはずなのにものすごく遠い。
「つっ」
ノアの小さな悲鳴にはっとして、ようやくブラムウェルは目の前の状態を把握する。
周囲は相変わらず風が吹き荒れ、遠くからヒギンズの声がするがそんなことよりも目の前のノアの状態に頭が真っ白になった。
「ノアっ!」
ノアの頬から血が出ていた。あきらかに自分が起こしたこの現象のせいで、固いものがノアの頬をかすめたのだろう。
ノアの血を見てブラムウェルは血の気が引いた。
魔法を使うようになって初めて感情が追い付かない状態になったため、コントロールが間に合わずノアに怪我をさせてしまったようだ。
「ごめん!」
自分がノアを傷つけた事実に、ブラムウェルは自己嫌悪に陥った。
すぅっと魔力が引いて風が止む。
切れた頬を拭うと、さらにノアの頬が血で汚れた。
ノアを汚すなんてと顔を寄せぺろりと舐めとる。自分がノアを怪我さてしまったと、さっきまで耐えていた涙がぼたぼたと落ちた。
泣きながら傷を眺めまたつぅっと垂れる血に顔を寄せようとすると、ノアがブラムウェルの腕を掴んで止めた。
「ブラム。大丈夫だから」
「大丈夫じゃない。ノアは怪我なんてしてはいけないんだ。しかも俺のせいで」
「魔法の失敗なんて誰にでもあることだから大丈夫だよ。ちょっと切っただけならまたすぐ治るから」
安心させるようににこっと微笑まれ、さらに涙が流れた。
「ノア……」
抱きしめ返されてぽんぽんと背中を叩かれる。
「僕は大丈夫。それにブラムもどうしようもないってわかっているんだよね? それでも僕といたいと思ってくれるのは嬉しいよ」
「ノアと離れたくない。ずっと一緒にいたい」
捻りもないストレートな気持ちをぶつける。
ブラムウェルにはもうそれしかできなかった。
「うん。できれば一緒にいたいけれど、孤児院はずっといれるところではないから必ずみんなに別れはくる。でも、僕もみんなもそれが自分たちのためだってわかっている」
ノアも多くの別れを経験してきたのだろう。
しかも、ここは仲間意識が高くてそのたびに寂しく思いながらも仲間の幸せを願って送り出してきたに違いない。
「離れることが怖いんだ。もう二度と会えないかもしれない」
「生きていたら会える日も来るよ」
「本当? 絶対会える?」
その言葉にすがりたくなる。
「うん。だって、ここで僕らが出会えたこと自体がすごいことだよ。だから、また会える。それにこの村と孤児院はずっとあるのだから、今すぐは無理でも大きくなったら来ることもできる。お互いが会いたいと思っていたら不可能じゃないよ」
ノアが言うとそうなのだと思える。逆にノアが言ってくれないと会えない気がしていた。
ようやく、わずかに気持ちが落ち着く。納得はしていないけれど、いつまでも困らせるのは恰好悪いという気持ちもあった。
今さらなのかもしれないけれど、ノアには情けない自分ではなくて少しでもいい自分を覚えてほしい。
そう思うそばから、別れを考えるだけで胸が苦しくしくしくと痛む。
ブラムウェルはノアの肩に顔を埋めた。
やっぱり悔しくて何もできない自分に腹が立って、それでも受け入れることしかできなくて、感情がぐちゃぐちゃだった。
「大丈夫。また会える。だから必ず会おう。ブラム。手を出して」
「……こう?」
励まそうとする言葉に顔を上げ、手のひらを上にして手を出すと、ノアは手を重ねてそこに額をくっつけた。
「これはおまじない。大事な願いはこうするといいことがあるから」
「………絶対、どこにいてもノアを迎えにいく。ここにもっと願いを込めてもいい?」
「いいよ」
絶対会うのだとブラムウェルは中指にキスをした。
そうすべきだと思った。
孤児院がある限り、もし院長がノアをどこかに養子にやったとしても辿る術はある。そう言い聞かせて身を切る思いでブラムウェルは孤児院を後にした。
必ず力をつけてノアに会うのだと、それだけを胸に日々を過ごした。
まさか国が滅び、各地で魔物の氾濫に襲われ孤児院が、村自体がなくなるとは考えもしなかった。
ノアは死んだと聞かされた。自分の無力さや先の見えない絶望に、しばらく自暴自棄になった。後を追おうとしたらヒギンズ親子に止められた。
だったら、ノアを殺した魔物を殺してしまおうと冒険者になることにした。そこで命を落としたらそれまでだとかなり無茶もした。
だけど、心の奥底では認められず、ずっと追い求めた。忘れられなくて、村が滅びた原因の魔物を屠り、ダンジョンを攻略しながらわずかな希望を捨てきれず形跡を探した。
ブラムウェルはそこまで話すと息をついた。
思い出したのか、思い出そうとしているのか、考えるように眉間にしわを寄せて真剣に聞いていたノアを見る。
ノアは視線が合うと、へにゃりと困ったように笑みを浮かべた。
「ずっと俺の中にはノアだけだ。もう絶対離れないから」
大げさでもなんでもなく、ノアに出会ってからすべてのことがノアを中心に回っていた。
もう二度と失うようなことはしない。
ブラムウェルの長年の執着は伝わっただろう。だけど逃がさない。これは絶対なのだと宣言した。
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