江戸の検屍ばか

崎田毅駿

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11.真の有力容疑者

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「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。意想外のことを言われて、いっぺんに疑問が湧いて出て来ました。えっと、何から聞けばいいのか……そう、まずはこれだ。お説の通りだとしたら、咎人は一松を知っていたとなりますよね?」
「ああ。面倒くさいから先に答えるが、俺は国安が真の咎人じゃないかと仮定している。国安なら一松のことも、一松がおよしに惚れていることも知っていておかしくあるまい」
「確かにそうです。色恋沙汰の競争相手に罪を着せようっていうのも、分からなくはない心の動きです。でも、凶器が用意できますかね? お話を聞いた限りじゃ、前もって謀を巡らしていたのではなく、不意に持ち上がった殺しとなりますが」
「手頃な釘なら、自身の持ち物や家のどこかから引っこ抜いてでも調達可能だろうさ。熱するのも難しくはない。金槌は持っていないかもしれないが、なーに、釘を打ち込むのは金槌でなくとも、そこらの川縁に転がっている大きめの石で充分事足りる」
「けど、その殺し方だと複数の仕業になるんですよね? 急に人殺しを手伝ってくれと言われて、承知する仲間が国安にいるんでしょうか。いや、国安に限らず、誰だってなかなかそんな知り合いはいませんよ」
「待て、早とちりしているぞ、法助。もう一度、俺のした話を思い出せ。複数人で取り掛からねばならないのは、生きている相手を押さえ付けるが故だ」
「――あ、そうか。旦那の見立てだと、およしはもう別の理由で死んでいる。死んで動かないおよしの頭に首を打つくらいなら、咎人単身でもできる、とこういう理屈ですね?」
 法助が目を輝かせると、堀馬は我が意を得たりとばかりに、大きな所作で頷いた。
「ひょっとすると、髪を一端解く手間すら省けるかもしれん。遺体の髪をうまく選り分けて、肌が見えるようにし、そこへ釘を打ち込めばよい。そののち、髪をまた元通りにするのだ。およしの身体がどれくらいの大きさかは知らないが、大の男が運べぬということはなかろう。空き家に運び込むのは咎人一人でもできる」
「は、その通りで。あの娘なら男の子でも十を越えていれば運べますね、きっと」
「あんまり大げさに言われると、かえって疑いたくなるじゃねえか。まあいい。空き家に運び込む折に、多少話し合っている風な声を、芝居がかって演じたかもしれないな。いかにも大勢でやった犯行に見せ掛けたいのと、ある程度早めに遺体を見付けてもらわなくちゃならないだろうから」
「多人数と思わせるのはさておき、早く死体を見付けさせたいとは?」
「極端な話をすれば、遺体が白骨化したあと見付かったら、釘を使ったのが丸分かりになってしまう。偽装のために釘による殺しをやったのなら、早めに見付けてもらって、早めに埋葬されるのを期待するのが咎人の思惑だからな」
「筋が通るってわけですね。では、仮の話、国安を問い質すとしたら、何か決め手はありますか」
「分からん、というよりも、ない。今んところは、だが」
 堀馬の返答に、法助は首を傾げた。
「今んところと仰いますと?」
 尋ねる法助の目の前で、堀馬は身支度を始めた。
「完治したことにして出掛けるぞ」
「え? どちらに?」
「およしんところだ。葬儀がどうなるか知らぬが、近くに身内がいないのなら、おいそれとは話が進まんだろう。幸い、今の季節なら遺体の傷み具合は、ゆっくり進む。今一度、調べるんだ」
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