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1.レイナという女の子
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今日のイースターで春休みも終わりだと、少し沈みがちだったところへ、いいことがあった。
うちの正面の大きな空き家に、母娘二人が引っ越してきた。娘の方は僕と同じぐらいの歳で、同じ小学校に通うのかも。引っ越しの挨拶に来たときに、思い切って聞いてみた。すると予想通りで、しかも同じ学年だと分かった。
何がいいことかって、その女の子、レイナ・ディートンはとてもかわいい子だったんだ。赤縁の眼鏡とちょっと変わった色艶の栗毛のせいで損をしてるが、美人なのは間違いない。
週明けの月曜、学校に行ってみると、一時間目の前に転校生の紹介があって、レイナが入って来た。七クラスあるのに一緒になるなんて、ラッキーだ。エイプリルフールなのに、これは嘘じゃなかったよ。
さすがに席は離れたが、僕はご近所さんの強みを活かして、男子の中では一番積極的にレイナに話し掛けた。
「てことは、ジョエル・ホプキンスの向かいに越してきたのか」
話を聞いていたホス・ハワードが言った。
「あの家結構でかかったけど、二人で暮らすには広すぎないか?」
ハワードは言動が直感的で、人の気持ちをあまり考えない。今の発言にしてもレイナがどういう事情で母子家庭になったかなんて、全然頭になかったろう。
「ばか。ちょっとは気を遣いなさいな」
女子の一人、ケイト・モルスが肘鉄で注意を促すと、遅ればせながらハワードも己の無遠慮さに思い当たり、「あ、ごめん」と口走った。
「ううんいいよ。それに私、寝相が悪いからあれくらい広くないと」
レイナの返事がジョークだと分かるのにゆうに一秒は掛かったけれども、その後笑いに包まれて空気は和んだ。
少し経って、一部の女子が、レイナのことをよく思っていないとの噂を聞いた。放っておけず、レイナのいないところで女子の一人、イーデン・バーグにわけを尋ねた。
「感じ悪いんだもん、あの子」
「そうか? どういう風に」
「声を掛けてもすぐには返事しなかったり、振り向かなかったり」
それなら僕にも経験があるにはあった。学校ではなく、家の近所でのことだ。遊んで来た帰りに後ろ姿のレイナを見掛けたから名前を呼んだのに、すぐには振り向いてくれなかった。そのとき僕は自転車だったから急いで前に回り込み、やっと気付いてもらえた。何かあったのか尋ねると、「ぼーっとしてただけ」という答。
「多分だけど、ディートンさん家は耳が悪い家系なのかも」
そのときの体験も含めて、僕はイーデンに言った。
「耳が悪いとしたら呼んでも振り向かなかったのは分かるけれど、家系って?」
イーデンは戸惑ったような反応を見せていた。
「内緒の話だぞ。同じく近所でのことなんだけど、レイナの家に宅配屋が来て、庭にいたレイナのお母さんを配達員が見掛けた。それで塀越しに『ディートンさん、お荷物です』と控え目に呼び掛けるも、全然気付いていない様子だった。そのときやっぱり、後ろ向きで」
「母娘揃って反応が遅いのなら、家系ってことなのかしら」
イーデンは一応、納得したようにうなずいた。
「そんな訳だと思うから、女子のみんなにもそれとなく言っといて」
「分かったわ」
「あと、できれば耳のことは、レイナ本人には伝わらないように」
「それくらい言われなくても」
僕はレイナの悪い噂を拭い去る手伝いができたと思うと、嬉しかった。ただ、その一方で、イーデンには言わなかったこともある。話がややこしくなるかもと判断したから。
うちの正面の大きな空き家に、母娘二人が引っ越してきた。娘の方は僕と同じぐらいの歳で、同じ小学校に通うのかも。引っ越しの挨拶に来たときに、思い切って聞いてみた。すると予想通りで、しかも同じ学年だと分かった。
何がいいことかって、その女の子、レイナ・ディートンはとてもかわいい子だったんだ。赤縁の眼鏡とちょっと変わった色艶の栗毛のせいで損をしてるが、美人なのは間違いない。
週明けの月曜、学校に行ってみると、一時間目の前に転校生の紹介があって、レイナが入って来た。七クラスあるのに一緒になるなんて、ラッキーだ。エイプリルフールなのに、これは嘘じゃなかったよ。
さすがに席は離れたが、僕はご近所さんの強みを活かして、男子の中では一番積極的にレイナに話し掛けた。
「てことは、ジョエル・ホプキンスの向かいに越してきたのか」
話を聞いていたホス・ハワードが言った。
「あの家結構でかかったけど、二人で暮らすには広すぎないか?」
ハワードは言動が直感的で、人の気持ちをあまり考えない。今の発言にしてもレイナがどういう事情で母子家庭になったかなんて、全然頭になかったろう。
「ばか。ちょっとは気を遣いなさいな」
女子の一人、ケイト・モルスが肘鉄で注意を促すと、遅ればせながらハワードも己の無遠慮さに思い当たり、「あ、ごめん」と口走った。
「ううんいいよ。それに私、寝相が悪いからあれくらい広くないと」
レイナの返事がジョークだと分かるのにゆうに一秒は掛かったけれども、その後笑いに包まれて空気は和んだ。
少し経って、一部の女子が、レイナのことをよく思っていないとの噂を聞いた。放っておけず、レイナのいないところで女子の一人、イーデン・バーグにわけを尋ねた。
「感じ悪いんだもん、あの子」
「そうか? どういう風に」
「声を掛けてもすぐには返事しなかったり、振り向かなかったり」
それなら僕にも経験があるにはあった。学校ではなく、家の近所でのことだ。遊んで来た帰りに後ろ姿のレイナを見掛けたから名前を呼んだのに、すぐには振り向いてくれなかった。そのとき僕は自転車だったから急いで前に回り込み、やっと気付いてもらえた。何かあったのか尋ねると、「ぼーっとしてただけ」という答。
「多分だけど、ディートンさん家は耳が悪い家系なのかも」
そのときの体験も含めて、僕はイーデンに言った。
「耳が悪いとしたら呼んでも振り向かなかったのは分かるけれど、家系って?」
イーデンは戸惑ったような反応を見せていた。
「内緒の話だぞ。同じく近所でのことなんだけど、レイナの家に宅配屋が来て、庭にいたレイナのお母さんを配達員が見掛けた。それで塀越しに『ディートンさん、お荷物です』と控え目に呼び掛けるも、全然気付いていない様子だった。そのときやっぱり、後ろ向きで」
「母娘揃って反応が遅いのなら、家系ってことなのかしら」
イーデンは一応、納得したようにうなずいた。
「そんな訳だと思うから、女子のみんなにもそれとなく言っといて」
「分かったわ」
「あと、できれば耳のことは、レイナ本人には伝わらないように」
「それくらい言われなくても」
僕はレイナの悪い噂を拭い去る手伝いができたと思うと、嬉しかった。ただ、その一方で、イーデンには言わなかったこともある。話がややこしくなるかもと判断したから。
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