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「分かりません。離婚後、娘とはたまに会うだけで、そういう話は出なかったし……」
「そうですか。まあ、仮に意識していないとしても、周りの友達がそういう目で見るかもしれない。それが嫌だったということはあり得るでしょうね。……二人は、何をして時間を潰したんでしょう?」
「え?」
「たとえばですよ、夜九時から翌朝の六時まで一緒にいたとすれば、九時間ある。おしゃべりや買い物だけで費やせるものじゃない。簡易テントを持ち出してるくらいだから、仮眠を取ることもあったでしょうが、それでもまだ時間は余る気がします。子供だから、映画館のレイトショーを観る訳にもいかない。何かあると思うんですよ。共通の趣味とか」
「趣味ですか……真麻は演劇に興味を持っていたが、中学には演劇部がなかったこともあって、まだ自らやろうという感じではなかったなあ。他には、スポーツはハンドボールが好きで……勉強は理科が好きだった。あと、料理を覚えようとしていたっけ」
「多岐に渡っていますね。色々なことに興味が向いている。のめり込んでいたようなものは、まだなかったと?」
「うーん、残念ながら、思い当たる節がないですな」
「了解しました。保志朝郎君の側から、探ってみることにします」
事前にアポイントメントを取る段階で用件を伝え、OKをもらっていたにもかかわらず、実際に会ってみると、保志新次郎はまだ難色を示していた。
「蒸し返されるのは、本意ではないんだ」
お茶を出した女性が下がると、開口一番、相手は流に向かってそう告げた。
場所は保志新次郎自身の弁護士事務所。防音はしっかりしているから、言いたいことを言えるのだろう。
「迷惑だとまでは言わないが、今さらというのが正直な感想だ。盛川さんからの依頼と聞いていなければ、断っていましたよ、ええ」
「時間を割いてくださり、ありがとうございます」
流は礼を述べると、腕時計をちらりと見やった。相手は職業柄、スケジュールが詰まっていることを匂わせている。すぐにでも用件に入りたい。
「先日の電話の際にお伝えしましたが、ご子息の朝郎君は、夜遊びをするような子ではないと、私も踏んでいます。新次郎さん、あなたも父親として、そう信じておられることでしょう」
「それはもちろん。でも、当時は、いくら主張しても受け入れられず、言葉を費やすことに疲れてしまって、沈黙を選んだ」
嫌な経験を思い起こしたのか、新次郎は目線を下げ、小さくため息をついた。
「今になって調べ直し、真実を世間に知ってもらおうとも思っていなかった。とにかく、蒸し返したくなかったんだ。だが、あなた方の話を聞いて、多少は気持ちが動いた。それは認める。だからこそ、こうして協力をしている」
「感謝しています」
「冷たい親だと思われたくない。そんな気持ちもあった。やるからには徹底してやってもらいたい」
新次郎が面を起こし、流をじっと見つめてきた。感情が露わになっていた。彼はお茶を一口飲むと、また話し出した。
「流さんが言っていた趣味のことだが、私も妻も子供には自由にさせていたので、正確には分かっていない。欲しがる物があれば、ほとんど買い与えていた。小学六年生から中学一年生に掛けては、ラジコンカー、スマートフォン、ゲーム機、バスケットシューズ、図鑑……それこそ何でも買った。全てが趣味と言えるかどうかは微妙だが、あの子が関心を持っていたのは間違いあるまい。私は子供に対して、途中で投げ出すようならはじめから好きになるな、よく見極めてからのめり込め、みたいなことを言った覚えがある。だから朝郎も、色々な方面にアンテナを広げて、そこから一つを選び取ろうとしていたのかもしれないな」
「なるほど。ところで、バスケットシューズというのは? 失礼ですが、朝郎君の身長では……」
「そうですか。まあ、仮に意識していないとしても、周りの友達がそういう目で見るかもしれない。それが嫌だったということはあり得るでしょうね。……二人は、何をして時間を潰したんでしょう?」
「え?」
「たとえばですよ、夜九時から翌朝の六時まで一緒にいたとすれば、九時間ある。おしゃべりや買い物だけで費やせるものじゃない。簡易テントを持ち出してるくらいだから、仮眠を取ることもあったでしょうが、それでもまだ時間は余る気がします。子供だから、映画館のレイトショーを観る訳にもいかない。何かあると思うんですよ。共通の趣味とか」
「趣味ですか……真麻は演劇に興味を持っていたが、中学には演劇部がなかったこともあって、まだ自らやろうという感じではなかったなあ。他には、スポーツはハンドボールが好きで……勉強は理科が好きだった。あと、料理を覚えようとしていたっけ」
「多岐に渡っていますね。色々なことに興味が向いている。のめり込んでいたようなものは、まだなかったと?」
「うーん、残念ながら、思い当たる節がないですな」
「了解しました。保志朝郎君の側から、探ってみることにします」
事前にアポイントメントを取る段階で用件を伝え、OKをもらっていたにもかかわらず、実際に会ってみると、保志新次郎はまだ難色を示していた。
「蒸し返されるのは、本意ではないんだ」
お茶を出した女性が下がると、開口一番、相手は流に向かってそう告げた。
場所は保志新次郎自身の弁護士事務所。防音はしっかりしているから、言いたいことを言えるのだろう。
「迷惑だとまでは言わないが、今さらというのが正直な感想だ。盛川さんからの依頼と聞いていなければ、断っていましたよ、ええ」
「時間を割いてくださり、ありがとうございます」
流は礼を述べると、腕時計をちらりと見やった。相手は職業柄、スケジュールが詰まっていることを匂わせている。すぐにでも用件に入りたい。
「先日の電話の際にお伝えしましたが、ご子息の朝郎君は、夜遊びをするような子ではないと、私も踏んでいます。新次郎さん、あなたも父親として、そう信じておられることでしょう」
「それはもちろん。でも、当時は、いくら主張しても受け入れられず、言葉を費やすことに疲れてしまって、沈黙を選んだ」
嫌な経験を思い起こしたのか、新次郎は目線を下げ、小さくため息をついた。
「今になって調べ直し、真実を世間に知ってもらおうとも思っていなかった。とにかく、蒸し返したくなかったんだ。だが、あなた方の話を聞いて、多少は気持ちが動いた。それは認める。だからこそ、こうして協力をしている」
「感謝しています」
「冷たい親だと思われたくない。そんな気持ちもあった。やるからには徹底してやってもらいたい」
新次郎が面を起こし、流をじっと見つめてきた。感情が露わになっていた。彼はお茶を一口飲むと、また話し出した。
「流さんが言っていた趣味のことだが、私も妻も子供には自由にさせていたので、正確には分かっていない。欲しがる物があれば、ほとんど買い与えていた。小学六年生から中学一年生に掛けては、ラジコンカー、スマートフォン、ゲーム機、バスケットシューズ、図鑑……それこそ何でも買った。全てが趣味と言えるかどうかは微妙だが、あの子が関心を持っていたのは間違いあるまい。私は子供に対して、途中で投げ出すようならはじめから好きになるな、よく見極めてからのめり込め、みたいなことを言った覚えがある。だから朝郎も、色々な方面にアンテナを広げて、そこから一つを選び取ろうとしていたのかもしれないな」
「なるほど。ところで、バスケットシューズというのは? 失礼ですが、朝郎君の身長では……」
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