扉の向こうは不思議な世界

崎田毅駿

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3.旧ライバルと

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 注目されるのを避けて頭を下げ気味にして、歩を進める。
「遅れてすみま」
 皆まで言わない内に、「おお、待ってました」「これで出席予定はあと一人だよ」なんて声が飛ぶ。短い拍手のあと、「まずは駆けつけ三杯、じゃなくて、先生に挨拶でも」と近くの女性に言われた。
(えっと。あの顔立ちは、らんちゃん。磯尾いそお蘭ちゃんだわ。昔に比べたら痩せた? それに身長ももっと大きかった印象が)
 クラスの男女を合わせて一、二を争う高身長だった磯尾は、今では極平均的なサイズに収まっているように見える。
 とりあえず、上座にいる担任の糸井川いといがわ先生の隣まで来た。
「ご無沙汰しています。菱川光莉です」
 糸井川は座ったまま目を細め、菱川と同じようにお辞儀をした。
「こちらこそ、お久しぶり。君は名乗らなくても顔と名前が一致してるよ。最近またテレビに出ることがあるみたいだが、勉強は大丈夫か」
「はい。悪い影響の出ない範囲で。でも先生も見てくださってるんですか。ありがとうございます」
「まあ、そりゃ気になるから。一番不安定な仕事に就きそうで、心配で心配で」
 冗談なのか本気なのか、目元から頬にかけて赤くした先生はそう言いつつも、菱川の二の腕軽く叩いて激励してくれた。
 その場を離れようとした矢先に、袖を引かれた。振り返ると眼鏡の男性。濃い眉毛は南方出身を思わせるが、その反面、袖を引く指は白くて細めだ。
「菱川さん、菱川さん。席はあそこだから」
「ありがと。えっと、柏田かしわだ君だよね?」
「そうそう。幹事やらせてもらってます。覚えてくれてた? 感激だな」
「あんまり変わってないんだもの」
「そう? 俺、昔は眼鏡掛けてなかったけど」
「その眉で言う?」
「つっこんでくれてありがとう。えっと、真ん中辺りの席、二つ並んで空いてるけど、ここから見て手前で」
「分かった。もう一つが、最後の一人ね。私より忙しい人って誰なのかな?」
 ジョーク混じりに言った菱川に、柏田も「さあて、誰でしょう」と謎めかす。答は聞けないまま、座席に向かった。
「待ってたわよ~」
 空いてる席とは反対側の隣は、高石咲那だった。そう、町長の娘である。彼女の前のテーブルを見ると、すでにかなりアルコールを摂取しているようだが、その顔はほとんど赤らんでいない。
「久しぶり~」
「呑気な返事をしてないで、とりあえずコップを持つ。注いで進ぜよう」
「あの、店員さんがすぐに来るはずだから」
「それならさっき来たわ。先生との話が長いから、勝手にウーロンハイを頼んだわよ」
「ビールぐらいしか飲めないよ。あとはうっす~い水割り」
「じゃ、ビール」
 空のグラスにどばどばと入れるものだから、あっという間に泡立った。危ういところで溢れるのは免れたが、コップにはごく少量の黄色い液体が残った。
「あははは。失敗失敗。でもそれくらいなら一気に飲めるでしょ」
「酔っ払ってるな~」
「意識はしっかりしてるのよ。少なくともあんたが来るまでは、精神状態はしらふでいようと思って。言いたいことがあるから」
「え」
「だから席も、あなたの隣にしてもらった」
「ええ?」
 悪い想像しか浮かばない。着いて早々、絡まれるのは面倒臭い上に、正直、お腹が空いている。
「あのー、一品料理頼んでいいかな」
「頼んで。でも私の話も聞きなさい。聞いてなかったら罰として、日本酒一杯を飲んでもらうとか、どう?」
「無茶苦茶だわ。ハラスメントになるよ」
「私は歯がゆいのよ」
 会話の流れを無視して、まるで演説のように始めた高石。
「この私を踏み台にして、芸能界入りしておきながら、あなたの活躍と来たら全く物足りない」
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