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2.思い掛けない報せ
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正美は教室に向かう前に、洗面所に寄った。
(喉の具合と匂い、確かめとこ)
あめ玉はとうの昔に溶け切ってなくなっていたが、ハッカ系の匂いが残っていると、誰かに気付かれるかもしれない。別に飲食しながら校内に入ったのではないのだから問題ないのだけれど、念のためだ。うがいもしておこう。
何となくざわついている職員室の前を通り過ぎ、いつもならまず利用しない場所の洗面所に向かう。主に使うのは先生や来客で、だからなのか他の所よりもきれいに感じる。児童が使うのももちろん構わない。ただただ、職員室前を通らなければいけないという理由で、みんな敬遠する。
鏡を前にセルフチェックしてみた結果、匂いは気にするほどじゃなかった。喉の調子はさすがに歌い出すわけに行かないのではっきりとは分からないけれども、ましになってきた気がする。
(音楽は三時間目。それまでに治って!)
そう念じつつ、洗面所を出た正美。再び職員室前の廊下を通り過ぎると、ざわざわした空気が、外にも伝わってきた。
(今日、朝礼の他に何か予定されてたかしら?)
訝しみながらも、考えて分かることでもないと思い直す。ぐずぐずしていたら、それこそ朝礼の整列に間に合わなくなってしまう。
正美は気持ち早足になって、自分のクラス、五年五組へと急いだ。
教室に入り、自分の机に就くとランドセルを置いて、一時間目の準備に取り掛かる。と同時に、後ろの席の仲のよい友達、小谷直美に声を掛ける。
「おはよ。今日の音楽のテスト、大丈夫そう?」
「おはよ、正美ちゃん。いや~、自信ない。正美ちゃんは歌うまいから心配することなんてないでしょ」
「それが」
いつもと違うと分かるように、ややオーバーにがらがら声を出す。途端に小谷は正美を指差し、「え、それって。大丈夫?」と聞き返してきた。
「うーん、分かんない」
そんな正美の返事に被せるようにして、教室前方の扉ががらりと横に引かれた。力強い雰囲気に、これは先生が来たな、でも朝礼がある月曜日に先に教室に来るなんて珍しいんじゃあ……?といった感想を明確に抱く前に、その入って来た先生が担任の岸先生ではないことを認識。
隣の四組を受け持つ横峰先生だ。女性で小柄、細腕なのに、意外と力持ちで、先生の中では人気ランク上位に食い込む。
「五年五組のみんな、全員は揃ってないと思うけど、聞いて」
横峰先生は手をパンパンと二度叩いて注目させてから、大きな声で始めた。
「これから言うことは、朝礼でも校長先生がお話になるから、今はまだあまり騒がないでほしいんだけど、先に伝えておきます。五組の担任の岸先生は今日お休みになります」
「え、何で?」
一番前の席にいた男子が、条件反射みたいにすぐ聞き返した。
「学校に来るまでの間に、ちょっと事故に遭われてしまったの――はい、騒がない!」
一気にけたたましい声と音に包まれた五年五組。そんな教室内で、正美は一人、口の中で呟いていた。
(え? 待って。事故? 岸先生が? も、もしかして私が昨日の晩、願ったせいで? まさか!)
気が遠くなり、一瞬、身体がふらついた。ゆらりと左に傾いたところでようやく踏ん張り、姿勢を戻した。後ろの小谷直美ら、友達に気付かれていないか? 肩越しに視線を巡らせると、どうやらみんな岸先生の事故の話に意識が向いて、誰も他のクラスメートのことなんて気にしていないようだった。
(よ、よかった。でも……)
(喉の具合と匂い、確かめとこ)
あめ玉はとうの昔に溶け切ってなくなっていたが、ハッカ系の匂いが残っていると、誰かに気付かれるかもしれない。別に飲食しながら校内に入ったのではないのだから問題ないのだけれど、念のためだ。うがいもしておこう。
何となくざわついている職員室の前を通り過ぎ、いつもならまず利用しない場所の洗面所に向かう。主に使うのは先生や来客で、だからなのか他の所よりもきれいに感じる。児童が使うのももちろん構わない。ただただ、職員室前を通らなければいけないという理由で、みんな敬遠する。
鏡を前にセルフチェックしてみた結果、匂いは気にするほどじゃなかった。喉の調子はさすがに歌い出すわけに行かないのではっきりとは分からないけれども、ましになってきた気がする。
(音楽は三時間目。それまでに治って!)
そう念じつつ、洗面所を出た正美。再び職員室前の廊下を通り過ぎると、ざわざわした空気が、外にも伝わってきた。
(今日、朝礼の他に何か予定されてたかしら?)
訝しみながらも、考えて分かることでもないと思い直す。ぐずぐずしていたら、それこそ朝礼の整列に間に合わなくなってしまう。
正美は気持ち早足になって、自分のクラス、五年五組へと急いだ。
教室に入り、自分の机に就くとランドセルを置いて、一時間目の準備に取り掛かる。と同時に、後ろの席の仲のよい友達、小谷直美に声を掛ける。
「おはよ。今日の音楽のテスト、大丈夫そう?」
「おはよ、正美ちゃん。いや~、自信ない。正美ちゃんは歌うまいから心配することなんてないでしょ」
「それが」
いつもと違うと分かるように、ややオーバーにがらがら声を出す。途端に小谷は正美を指差し、「え、それって。大丈夫?」と聞き返してきた。
「うーん、分かんない」
そんな正美の返事に被せるようにして、教室前方の扉ががらりと横に引かれた。力強い雰囲気に、これは先生が来たな、でも朝礼がある月曜日に先に教室に来るなんて珍しいんじゃあ……?といった感想を明確に抱く前に、その入って来た先生が担任の岸先生ではないことを認識。
隣の四組を受け持つ横峰先生だ。女性で小柄、細腕なのに、意外と力持ちで、先生の中では人気ランク上位に食い込む。
「五年五組のみんな、全員は揃ってないと思うけど、聞いて」
横峰先生は手をパンパンと二度叩いて注目させてから、大きな声で始めた。
「これから言うことは、朝礼でも校長先生がお話になるから、今はまだあまり騒がないでほしいんだけど、先に伝えておきます。五組の担任の岸先生は今日お休みになります」
「え、何で?」
一番前の席にいた男子が、条件反射みたいにすぐ聞き返した。
「学校に来るまでの間に、ちょっと事故に遭われてしまったの――はい、騒がない!」
一気にけたたましい声と音に包まれた五年五組。そんな教室内で、正美は一人、口の中で呟いていた。
(え? 待って。事故? 岸先生が? も、もしかして私が昨日の晩、願ったせいで? まさか!)
気が遠くなり、一瞬、身体がふらついた。ゆらりと左に傾いたところでようやく踏ん張り、姿勢を戻した。後ろの小谷直美ら、友達に気付かれていないか? 肩越しに視線を巡らせると、どうやらみんな岸先生の事故の話に意識が向いて、誰も他のクラスメートのことなんて気にしていないようだった。
(よ、よかった。でも……)
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