【8話完結】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!

キノア9g

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第5話:予知能力の謎と異質な言葉

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 アシュレイとの共同生活が始まって数ヶ月が過ぎた。イーサンのオンボロ一軒家は、アシュレイの徹底した家事能力と、どこからか調達してくる資材によって、見違えるように快適になっていた。庭の家庭菜園も豊かに実り、二人の食卓はいつも賑やかだ。

「イーサン、今日の獲物、この素材はスタミナポーションの材料になりますよ。市場ではあまり出回りませんが、薬師のグレンさんに売れば、かなり高値で買い取ってくれます」

 アシュレイは、イーサンが持ち帰った魔物の素材を検品しながら、淀みなく言い放った。イーサンはアシュレイの的確なアドバイスに従い、その素材をグレン薬師の元へ持っていくと、実際に通常よりも高い報酬を得られた。

「お前、本当にすげぇな……正直、まだ信じられねぇ時もあるけど、おかげで生活が楽になったよ」

 イーサンは感心するばかりだった。こんなに運が良くていいのか、と時々不安になるほどだ。アシュレイの予知能力は、今やイーサンにとって当たり前のものになっていた。クエストを選ぶ際も、アシュレイの助言があれば、危険を回避し、隠された報酬を手に入れることができた。

「そうですよ。僕がいれば、イーサンはもっと安全に、もっと効率よく稼げます!」

 アシュレイは得意げに胸を張った。

 しかし、最近、イーサンはアシュレイの「予知」に対して、漠然とした違和感を抱き始めていた。

 それは、単なる「勘」や「経験則」では説明できない、あまりにも具体的な情報が多すぎるということだ。

 ある日、ギルドでこんな依頼を見つけた。

「急募:北の森、迷いの森に生息する珍しい魔物『ウィスプ・ウィルム』討伐。通常のウィルムよりも動きが素早く、幻覚を操る」

「ウィスプ・ウィルムか……珍しいな。でも、報酬はいいな」

 イーサンが呟くと、アシュレイがすぐに反応した。

「イーサン、このクエスト、受けるのはやめた方がいいです」

「え、なんでだ?報酬いいぞ」

「このクエスト、普通に討伐しても報酬は低いんです。本当の目的は、ウィスプ・ウィルムの体内に生成される『幻惑の宝玉』を手に入れること。でも、それを手に入れるには、かなり特殊な方法が必要になります。そして、その宝玉を欲しがっているのは、王都の闇市を仕切る『影のギルド』ですよ。関わると厄介なことになります」

 アシュレイの言葉に、イーサンは目を丸くした。依頼書にはそんなことは一切書かれていない。闇市の情報など、どこから仕入れたのだろう。

「なんでそんなことまで知ってるんだよ?」

「……勘、です」

 アシュレイは少しだけ視線を逸らし、すぐに笑顔で答えた。しかし、その笑顔は、いつもの無邪気な笑顔とは少し違っているように、イーサンには見えた。

 別の日のこと。

 イーサンは、街の外れにある薬草畑で薬草を採取するクエストを受けていた。アシュレイも同行し、イーサンが次々と薬草を摘んでいくのを手伝っていた。

「イーサン、もう少し奥に進んでください。あそこに、『虹色の花』が咲いているはずです。それは滅多に見られない貴重な花ですよ」

 アシュレイが指差す方向を見ると、確かに木々の奥に、わずかな光が差し込んでいる場所があった。イーサンが半信半疑で進んでいくと、そこには本当に、七色に輝く美しい花がひっそりと咲いていた。

「うわぁ……本当にあった!」

 イーサンは感動し、花をそっと採取した。その花は、後で判明したが、高位の魔法薬の材料になる希少な花で、予想以上の高値で売れた。

「なんで、お前はそんな場所まで知ってるんだ? あそこは滅多に人が入らない場所だぞ」

 イーサンが尋ねると、アシュレイは曖昧に笑った。

「たまたま、資料で見たことがあったんです」

 資料。それだけで、あんな詳細な場所まで予知できるものなのだろうか。

 イーサンは、アシュレイの「予知」があまりにも完璧すぎることに、徐々に不気味さを感じ始めていた。まるで、これから起こる全てのことを、アシュレイは知っているかのように振る舞うのだ。それは、単なる勘や経験則といったレベルを超えていた。

 ある夜、イーサンとアシュレイは夕食を終え、リビングでくつろいでいた。イーサンは、先日ギルドで受けたクエストについて、アシュレイに相談を持ちかけた。

「なぁ、アシュレイ。この『迷宮の宝珠』のクエストなんだけどさ、ギルドの資料だと、この迷宮はかなり複雑で、特に『嘆きの回廊』って場所は、幻覚魔法が強くて、迷い込んだら最後、って書いてあるんだ。お前、何か知ってるか?」

 アシュレイは一瞬、眉をひそめた。そして、何かを思い出すように、遠い目をした。

「嘆きの回廊、ですか……そこは、確かに厄介ですね。以前、その迷宮を攻略したプレイヤーが、そこで何度も全滅したとSNSで嘆いていたのを覚えています。攻略法としては、幻覚は全て無視して、最短ルートで進むのが一番です。ただし、途中で出現する『シャドウ・スピリット』だけは注意してください。あれはレアドロップ狙いで倒そうとすると、意外と攻撃力が高くて全滅フラグになりやすいんです……」

「……待て、アシュレイ」

 イーサンはアシュレイの言葉を遮った。

「今、お前、『えすえぬえす』って言ったか? それから、『ぷれいや』とか、『れあどろっぷ』とか、『ふらぐ』とか……なんだ、その言葉は?」

 イーサンは、アシュレイがこれまで何度か口にしていた、全く意味の分からない言葉に、改めて疑問を抱いた。アシュレイはハッとしたように口を噤んだ。彼の顔から、いつもの笑顔が消え失せ、焦りの色が浮かんでいる。

「……い、いえ、何も」

 アシュレイは視線を泳がせ、どもるように言った。

「何かあるだろ! お前、今までも変なこと言ってたじゃないか。『ゲーム』とか『おし』とか。お前、一体何者なんだ?」

 イーサンは、アシュレイの態度から、彼が何か重大な秘密を隠していることを確信した。

 アシュレイは、イーサンに問いただされ、動揺を隠せないでいる。彼の頬には、微かに汗が浮かんでいた。

「それは……言えません」

「言えないって、なんでだよ! お前、俺の家に入り込んで、俺の行動を予知するような真似をして、俺の恋愛まで邪魔して……! なのに、自分のことは何も言わないのか!?」

 イーサンの声は、怒りに震えていた。出会った頃から抱いていた疑問と、アシュレイに対する不信感が、この場で爆発したのだ。

 アシュレイは、イーサンの言葉に深く傷ついたように顔を歪めた。

「邪魔なんて……! 僕は、ただイーサンを……!」

 彼は何か言いかけたが、言葉を詰まらせた。

「お前の正体は何なんだ? 預言者なのか? それとも神官? 俺には、お前の言う『ゲーム』や『えすえぬえす』とかいう言葉の意味が、全く分からない。まるで、俺たちの人生を遠くから眺めているかのように話す時がある……」

 イーサンの問いは、アシュレイの核心を突いていた。アシュレイは観念したように、顔を伏せた。

「……預言者でも神官でもありません。でも、イーサンの言う通り僕は確かに……この世界を遠くから眺めていたんです」

 アシュレイの口から出た言葉に、イーサンは息を呑んだ。

「僕のいた世界では、この世界は『ゲームという名の物語』として存在していました。そして、イーサンは、その物語のサブキャラ、脇役として登場していたんです」

 アシュレイは、重い口を開き、イーサンに信じられない告白を始めた。

 イーサンは、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 僕のいた世界? 物語? 脇役?

 理解できない話が続く。アシュレイの言う「僕のいた世界」とは何なのか。そこでは自分が「物語の登場人物」だというのか?

 そして、自分は、主役ですらない「脇役」?

 理解の範疇を超えた事実に、イーサンは思考が停止した。

「……そんな、馬鹿な」

イーサンの声は、震えていた。アシュレイの予知能力の謎、奇妙な言葉の数々、そして自分への異様なまでの執着。アシュレイが語る意味不明な話の中に、全ての疑問の答えがあるのかもしれない。だが、その内容があまりにも突飛すぎて、理解が追いつかない。

 イーサンの頭の中を、強い混乱と怒りが駆け巡っていた。

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