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第6話:明かされた真実
しおりを挟む「馬鹿な……そんな馬鹿な話があるか!」
イーサンは叫んだ。アシュレイの告白を受け入れることができず、しかし同時に、今までの全ての疑問が恐ろしいほど辻褄が合ってしまうことに愕然としていた。
「ここは、僕が元いた世界で遊んでいたゲームの世界なんです。あなたは、その中の……厳密に言えば『モブキャラクター』、でした」
アシュレイは顔を伏せ、消え入りそうな声で続けた。
「メインストーリーには関わらず、ただこの街で、スローライフ、穏やかな生活を送る……。それが、あなたの役割だったんです」
モブキャラクター? イーサンには、その言葉の意味が全く分からなかった。しかし、アシュレイの続く説明で、自分がどんな立場だったのかがぼんやりと見えてきた。
脇役どころか、それ以下の存在。
イーサンは、脳裏に雷が落ちたような衝撃を受けた。
自分の人生が、誰かの遊びの道具だったというのか。そして、自分は、その中で取るに足らない、背景の一部に過ぎないというのか。
「ふざけるな!」
イーサンは叫んだ。今までのアシュレイの奇妙な言動、的確すぎる予知、そして「おし」という理解不能な言葉の全てが、この「ゲーム」という言葉で繋がってしまった。
「俺は、お前が遊んでた道具だったってことか!? 勝手に俺の人生を覗き見て、勝手に先を読んで、勝手に介入してたってことか!?」
イーサンの怒りは、沸点に達していた。
アシュレイは顔を上げ、イーサンの怒りに満ちた瞳を見て、怯えたように後ずさりした。
「ち、違うんです!僕は、ただ、イーサンのことを……」
「黙れ!」
イーサンは立ち上がり、アシュレイに詰め寄った。
「お前は俺の人生を何だと思ってるんだ! 俺は、俺だ! お前の言う『ゲーム』なんかの登場人物じゃない! 俺には俺の人生があって、俺の夢があって、俺の……!」
イーサンは言葉を詰まらせた。怒りと、そして、自分が何者でもないかのような虚しさが入り混じった感情が、胸を締め付けた。
「僕は、イーサンが苦しんでるのを見るのが嫌だったんです! ゲームでは、あなたが貧乏で、オンボロの家で、時には危険な目に遭うこともあって……。だから、僕は、イーサンの助けになりたかったんです!」
アシュレイは必死に弁解する。その言葉は、イーサンを思っての行動だったのかもしれない。しかし、イーサンにはそれが、余計に堪えた。
「助け? お前が勝手に俺の人生を操って、それで『助け』だと!? 俺の恋路まで邪魔しやがって! 俺には可愛い嫁さんを見つけて、穏やかに暮らすっていう夢があるんだぞ!」
イーサンの言葉に、アシュレイは顔色を変えた。
「そ、それは……! その、イーサンの『嫁』は、ゲーム内でも人気のキャラクターで、僕は、その、あなたを独り占めしたくて……あ、いや、違います! その、イーサンの隣には僕が一番相応しいと思っただけで……!」
アシュレイはしどろもどろになる。彼の言葉を聞いて、イーサンはさらに憤った。
「やっぱりそうだったのか! てめぇ、故意に俺に女が寄り付かないようにしてたんだな!?」
アシュレイは、イーサンの言葉に何も言えなくなった。確かに、彼は無自覚にイーサンに近づく女性を排除してきた。それは、イーサンを独占したいという、彼の根源的な欲求だった。しかし、それを「ゲームの推し」という建前でごまかしてきたのだ。
「僕は、イーサンを、この世界で一番幸せにしたかったんです……!」
アシュレイの目に、涙が滲んだ。彼の言葉は、イーサンへの純粋な愛情からくるものだった。しかし、イーサンはそれを、ひどく屈辱的に感じた。
「お前の『幸せ』は、俺にとっての幸せじゃない! 勝手に決めつけるな!」
イーサンは叫んだ。
「俺は、お前が言うような『ゲームのキャラ』じゃない。俺は、この世界で生きてる人間だ。誰かの都合で人生を決められるなんて、冗談じゃない!」
イーサンの言葉に、アシュレイは打ちのめされたように膝から崩れ落ちた。
「イーサン……」
「お前は、俺の家にいる資格はない! 今すぐ出ていけ!」
イーサンは震える指で、扉を指差した。
アシュレイは顔を上げた。その瞳には、深い悲しみが宿っていた。
「出ていけ……? 僕が、イーサンのそばから……?」
「そうだ! お前の顔なんて、二度と見たくない!」
イーサンは、アシュレイの完璧な容姿が、今はひどく憎たらしく感じられた。彼の全てが、自分を侮辱しているように思えたのだ。
アシュレイはゆっくりと立ち上がった。その動きは、どこかぎこちない。
「わかりました……。イーサンが、そう言うなら……」
アシュレイは力なくそう言うと、リビングを出て、自分の荷物をまとめ始めた。イーサンは、その様子を黙って見つめていた。胸には、怒りと、そして、なぜか押し寄せる寂しさが入り混じっていた。
数分後、アシュレイは小さな荷物を背負い、イーサンの家の玄関に立っていた。いつもは笑顔で満ちていた顔は、今は真っ青で、見る影もなかった。
「あの……イーサン。今まで、ありがとうございました」
アシュレイは震える声でそう言うと、頭を深く下げた。
イーサンは、何も言えなかった。言いたくても、言葉が出てこなかった。
アシュレイは、静かに扉を開け、外へと出た。
「あ……」
イーサンは思わず声を上げたが、アシュレイは振り返らず、そのまま夜の闇の中に消えていった。
イーサンは、震える手で扉を閉めた。家の中は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。アシュレイが作った料理の匂いが、まだかすかに残っている。
イーサンは、リビングへと戻った。アシュレイがいつも座っていたソファは、何もなかったかのように静かだ。
(出ていけ、なんて……)
イーサンは、自分の言葉を後悔した。あんなに感情的に、ひどい言葉を言ってしまった。
確かに、アシュレイは勝手だった。自分の人生を、「娯楽」の一部として見ていた。それは許しがたいことだった。
しかし、アシュレイが自分に尽くしてくれた日々は、偽物だったのだろうか?
彼の笑顔は、偽物だったのだろうか?
イーサンが風邪を引いた時、一晩中看病してくれたアシュレイ。
家庭菜園で初めて収穫した野菜を見て、心から喜んでくれたアシュレイ。
野良猫たちと一緒に、穏やかな時間を過ごしたアシュレイ。
それらは全て、アシュレイの「遊び」の一部だったのだろうか。
「う……っ」
イーサンの胸が、締め付けられるように痛んだ。怒りだけでは説明できない感情が、込み上げてくる。
イーサンは、ソファに力なく座り込んだ。
温かかったはずの家が、突然、ひどく広く、そして冷たく感じられた。
アシュレイが去った夜は、ひどく静かで、長かった。
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