孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi

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6章 それぞれの旅立ちとこれから

閑話 ヨシュアの特技?能力?①

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公爵家に引き取られてから、最初は夜泣きを繰り返していたヨシュアだが母親であるエチカと父親のランバートの溢れんばかりの愛情を受けて、次第にこの生活にも慣れていった。

そして早朝。

庭から聞こえてくる声でオールドウィン公爵家当主ランバートは目が覚めた。

(ん?エチカがいない?)

横で眠っているはずの最愛の妻エチカの姿がない。そして庭から聞こえてくる謎の大声。

(ヨシュアに何かあったのか!?)

ランバートは部屋着のまま謎の声がする庭へ急いだ。

「⋯⋯」

そこには確かにヨシュアがいた。軍服を着た愛妻エチカと共に⋯。

「ヨシュア!この困難を乗り越えたら美味しいご飯が待っているわよ!!」

「あい!!」

「立派な兵士になるのよ!!」

「あい!!」

仁王立ちしたエチカと顔に泥を塗り匍匐前進しながら懸命に返事をしているヨシュアだが、匍匐前進というより芋虫がもぞもぞと蠢いている様だ。

「君達は朝から一体何をしているんだい?」

「あら、おはよう!何って早朝訓練よ!」

愛する息子ヨシュアを見ながら嬉しそうに話すエチカだが、少し前まで彼女は生きているのが不思議なくらい弱っていた。愛する我が子を誘拐され、生死不明のまま三年間も苦しんできた。

エチカは元々“赤い悪魔”と恐れられていた軍のトップであった。精神面でも肉体面でも彼女に勝るものはいなかった。なのでランバートでさえあんな弱々しい彼女を見たのは初めてで、自分が守らねば彼女も失うことになると当時は必死だった。

だが、今はそれが嘘の様な光景が目の前に広がっていた。

(ああ、この幸せは何としても守らないと!!)

ランバートは匍匐前進でズボンがズルズルと脱げていく息子と、それを見て爆笑する妻を見てそう誓った。


泥だらけのヨシュアを風呂に入れてから、三人で仲良く朝食の時間だ。

「いただきまちゅ!!」

「「いただきます」」

いただきますは、ヨシュアがこの屋敷に来てから広がった。孤児院では食事のありがたみを教える為にこの言葉が使われていて、幼い頃から孤児院育ちのヨシュアはこの言葉が当たり前なのだ。

美味しそうに食べ始めた息子を見て、幸せを噛み締める夫妻。

「ヨシュア、美味しい?」

「おいちいでしゅよ!このおにくのあぶりゃみがたまりまちぇん!!」

そう言いながら口をソースまみれにして頬張るヨシュア。

「どこで覚えたのかしら?⋯⋯ああ、絶対にアンリちゃんね」

エチカの推測を聞いて苦笑いするランバート。

楽しい食事が終わり、仕事の為に王城へと向かうランバートを見送ってから、ヨシュアはエチカが見繕ってくれた特注のミニサイズ軍服を着て木の剣を腰に差して、屋敷内を歩き回る⋯見回っていた。

「あら、ヨシュア兵士、ご苦労様です!」

「メイドしゃん!なにかこまってましゅかー?」

「ヨシュア兵士のお陰で平和です。ありがとうございます!」

「よかったでしゅ!⋯⋯あっ⋯⋯メイドしゃん、おねがいがありましゅ」

もぞもぞしているヨシュアの異変に気付いたメイドは軍服姿の公爵子息を小脇に抱えて、急いでトイレに駆け込んだのだった。

「はぁ⋯セーフでした!!」

額の汗を拭きながら峠を越えた喜びと達成感を味わうメイド。

「メイドしゃん、ありがとごじゃいましゅ!」

「”お努め“ご苦労様です!!」

お互いに敬礼しているが、周りは爆笑していた。エチカもドヤ顔の息子が可笑しくて笑っていた。

それからこの広すぎる屋敷を見回っていたヨシュアだが、途中から迷子になり『SOS』と大声で叫びながら助けを待っていた。捜索していたエチカ達がヨシュアを見つけた場所は何と調理場の脇にある倉庫の中だった。

「ヨシュア!?何してたの!?」

「おたからがありしょうだったから⋯でもなにもないでしゅ!!」

悔しそうなヨシュアに昔の自分を重ねるエチカ。彼女も昔は王城を見回りと言いながら歩き回り、最後には捜索隊が出た事も何回かあった。

「ヨシュアは私にそっくりね!!さすが我が息子だわ!!」

「あい!⋯⋯ぐぅううーーーー!!⋯⋯ぐぅ⋯キュルルルーーー!!⋯⋯ぐぅ⋯ぐぅ?」

いい返事の後、無駄に長いお腹に音が倉庫に響く。

「おなかがしゅきまちた!」

「あははは!何で最後は疑問系なのかしら!!」

笑いながらも我が子ヨシュアを抱っこして部屋まで連れて行くと、手を一緒に洗いおやつが来るのを待っていた。そして美味しそうにケーキを食べると、エチカと共に訓練をしながらランバートの帰りを待つのであった。

「⋯⋯デジャヴかな?」

帰宅したランバートの目の前には軍服で仁王立ちしている愛妻エチカと、芋虫⋯懸命に匍匐前進している愛息子ヨシュアの姿があった。

「何でまた匍匐前進?」

「彼を落とさない様にね!!そのまま目的地に移動させて下さい!」

「あい!かなりゃずたしゅけましゅ!!」

ランバートの疑問に答える事なく、背中に大きなカエルを乗せたヨシュアが緊張気味に進む。

「ゲロゲーロ」

ゲロ

「ゲロ!?ゲロゲーロゲロ!!」

⋯ゲロ

「⋯⋯え!?会話してるのか?ヨシュア、お前⋯」

驚愕して隣で仁王立ちしているエチカに説明を求めるが、彼女も同じく横で驚いていた。

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