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第一章 どうやら、異世界に転移したらしい
1. プロローグ
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それは、まさに青天の霹靂だった。
正午過ぎ、耳をつんざくような大音量と共に地面が揺れ、直後、バスの停留所にいた一人の男が姿を消す。
―――プーンと羽音を響かせ、ちょうど彼の手に止まった一匹を道連れにして……
◇◇◇
「パチン!」
顔に痒みを感じて、俺はゆっくりと目を開けた。
人が気持ちよく寝ているところを襲撃してくる憎き羽音が聞こえ、寝ながら無意識に頬を叩いたらしい。
薄暗い部屋の中でぼんやりと見えたのは、丸太が組まれたログハウス風の天井だった。
(ここは、どこ?)
起き上がり室内を見回す。
個人宅のようだけど、見知った場所ではないな。
窓の外は日が沈みかけているのか、だんだんと暗くなってきている。
一人旅の途中で立ち寄った地方の町で、午後零時十五分発の路線バスに乗ろうとバス停で待っていた。
スマホでWeb小説を読みながら「あと、五分か……」と呟いたことまでは覚えているけど、それ以降の記憶がまったくない。
俺は外出着のままベッドで寝ていて、上に羽織っていた薄手のコートはベッドサイド横の椅子に掛けてあった。
背負っていたリュックサックは、サイドテーブルの上に置かれている。
ベッドから下りようとして、外靴が綺麗に揃えて置かれていることに気付いた。
(土足の家?)
日本なのに珍しいなと驚いていたら、ドアの向こう側からコツコツと人が歩いてくる音がする。
ノック音のあと部屋に入ってきたのは、ランプを手に持った若い女性と中年の男性だ。
暗がりでもわかる明るい緑髪をした二人は目鼻立ちがはっきりとしていて、日本人ではなく外国の人らしい。
「§ΣΔ…かった。目を覚ましたのね」
(……ん?)
一部音声が乱れましたことを、心よりお詫び……なんてね。
冗談はさておき、とりあえず言葉が通じることにホッとする。
二人とも、髪を染めているのかな?
少々ウェーブのかかった髪を肩まで下ろした彼女はとても美人さんで、後ろにいる男性のほうは渋いおじさま。
お揃いの髪色ということは……年の差夫婦?
「気分はどうだい? 痛いところとかはないかい?」
「はい、大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます」
奥さんだけでなく、旦那さんも良い人だな。
そして、彼の話から推測するに、俺はバス停で倒れこの方たちに助けてもらったみたい。
迷惑をかけた上に、いつまでもこの家に長居するわけにはいかないよな。
俺は再度丁重に礼を述べ、二人へ暇を告げたのだが……
「えっ、今から出立するの? それは、危険よ!」
「そうだよ。今日は、我が家に泊まっていくといい」
「いえいえ、そんな滅相もないです! これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいきません」
いくらローカル路線とはいえ、まだバスはあったはず……たしか、二時間に一本くらいだったと思うけど(涙)
それに、寝袋も持参しているし、いざとなったらその辺で野宿をすればいい。
日本は、何だかんだ言っても治安の良い国だから全然問題なし!
俺が野宿すると伝えたら、二人が困惑顔で顔を見合わせた。
「野宿をするつもりなら、なおの事、ここで一泊したほうがいいわ」
「君が他国の人だということは、その服装や髪色でわかっている。君の国には、魔物などほとんど居ないのだろうな。しかし、この国でこんな時間から一人で街道を歩くなんて、自殺行為に他ならないぞ」
「ハハハ、『魔物』がいるから『自殺行為』って……」
早く寝ないと、オバケの国に連れていかれてしまうよ…的な話なのか?
彼の迫真の演技に、失礼ながら笑ってしまった。
おそらくこれは子供に対する物言いで、もしかして(外国の方から見たら)童顔の俺は実年齢より幼く見えたのかもしれない。
こう見えて、俺は二十歳の(立派な?)成人男性なんだけどな……
俺は成人しているから大丈夫です!と言ってみたけど、二人は俺の言い分に納得せず、実際に見てみたらわかるとまで言われてしまった。
二人に促される形で部屋を出て、暗い通路を歩いて階段を上り、二階のバルコニーに出る。
それにしても、家の中も外も全体的に暗いのはどうしてなんだろう。
たしかに、バス停付近は長閑な田園風景が広がる田舎町だったけど、電柱と電線があり電気は通っていたはずだ。
それなのに、家の中に電灯らしきものは一つもないし、外にも街路灯が見当たらない。
首をかしげながら何の気なしに仄暗い夕暮れの空を見上げた俺は、信じられない光景を目の当たりにする。
「な、何で……半月が二つあるんだ!!」
月は一つしかないはずなのに、ぼんやりと二つ並んで浮かんでいる。
しかも、上弦と下弦の月が同時になんて……
そして、周囲の状況がおかしいことにも気付いてしまった。
木造だが日本家屋とは違う平屋が並び、二階建ての建物はほとんどない。
この住宅街を、ぐるりと壁が取り囲んでいる。
その外には、見渡す限り森が広がっていた。
「あの壁は、何ですか?」
「魔物の侵入を防ぐための、外壁だ」
「魔物!?」
男性から「森を見てみなさい」と望遠鏡みたいなのを渡されて、近隣の森を何箇所か覗いてみた。
「・・・・・」
なんか、いっぱい居た。
明らかに人外生物とか、犬っぽいけど犬じゃない何かがね。
一応、頬をつねってみたけど、うん、痛い。
「ハア……マジか」
ようやく理解したよ……ここは、『異世界』なんだって。
さっきスマホでも読んでいたし、友人に借りて何冊か読んだこともあるライトノベルのファンタジー世界。
王様や貴族や魔物や魔王や勇者が登場する、昔話や御伽草子のような話。
俺は俺のままだから、おそらく『異世界転生』ではなく『異世界転移』。
何かの拍子に飛ばされたのか、それとも誰かに召喚されたのか。
とにかく、今はっきりしていることは、これは夢でも空想でもなく現実の話ってこと。
ここまで、意外と冷静に状況を飲みこめた自分を褒めてやりたいけど、その前に一言だけ言わせてほしい。
「誰かー、嘘だと言ってくれー!!!」
すっかり日が暮れ、くっきりとした二つの半月が浮かぶ夜空に、俺の大絶叫が響き渡った。
正午過ぎ、耳をつんざくような大音量と共に地面が揺れ、直後、バスの停留所にいた一人の男が姿を消す。
―――プーンと羽音を響かせ、ちょうど彼の手に止まった一匹を道連れにして……
◇◇◇
「パチン!」
顔に痒みを感じて、俺はゆっくりと目を開けた。
人が気持ちよく寝ているところを襲撃してくる憎き羽音が聞こえ、寝ながら無意識に頬を叩いたらしい。
薄暗い部屋の中でぼんやりと見えたのは、丸太が組まれたログハウス風の天井だった。
(ここは、どこ?)
起き上がり室内を見回す。
個人宅のようだけど、見知った場所ではないな。
窓の外は日が沈みかけているのか、だんだんと暗くなってきている。
一人旅の途中で立ち寄った地方の町で、午後零時十五分発の路線バスに乗ろうとバス停で待っていた。
スマホでWeb小説を読みながら「あと、五分か……」と呟いたことまでは覚えているけど、それ以降の記憶がまったくない。
俺は外出着のままベッドで寝ていて、上に羽織っていた薄手のコートはベッドサイド横の椅子に掛けてあった。
背負っていたリュックサックは、サイドテーブルの上に置かれている。
ベッドから下りようとして、外靴が綺麗に揃えて置かれていることに気付いた。
(土足の家?)
日本なのに珍しいなと驚いていたら、ドアの向こう側からコツコツと人が歩いてくる音がする。
ノック音のあと部屋に入ってきたのは、ランプを手に持った若い女性と中年の男性だ。
暗がりでもわかる明るい緑髪をした二人は目鼻立ちがはっきりとしていて、日本人ではなく外国の人らしい。
「§ΣΔ…かった。目を覚ましたのね」
(……ん?)
一部音声が乱れましたことを、心よりお詫び……なんてね。
冗談はさておき、とりあえず言葉が通じることにホッとする。
二人とも、髪を染めているのかな?
少々ウェーブのかかった髪を肩まで下ろした彼女はとても美人さんで、後ろにいる男性のほうは渋いおじさま。
お揃いの髪色ということは……年の差夫婦?
「気分はどうだい? 痛いところとかはないかい?」
「はい、大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます」
奥さんだけでなく、旦那さんも良い人だな。
そして、彼の話から推測するに、俺はバス停で倒れこの方たちに助けてもらったみたい。
迷惑をかけた上に、いつまでもこの家に長居するわけにはいかないよな。
俺は再度丁重に礼を述べ、二人へ暇を告げたのだが……
「えっ、今から出立するの? それは、危険よ!」
「そうだよ。今日は、我が家に泊まっていくといい」
「いえいえ、そんな滅相もないです! これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいきません」
いくらローカル路線とはいえ、まだバスはあったはず……たしか、二時間に一本くらいだったと思うけど(涙)
それに、寝袋も持参しているし、いざとなったらその辺で野宿をすればいい。
日本は、何だかんだ言っても治安の良い国だから全然問題なし!
俺が野宿すると伝えたら、二人が困惑顔で顔を見合わせた。
「野宿をするつもりなら、なおの事、ここで一泊したほうがいいわ」
「君が他国の人だということは、その服装や髪色でわかっている。君の国には、魔物などほとんど居ないのだろうな。しかし、この国でこんな時間から一人で街道を歩くなんて、自殺行為に他ならないぞ」
「ハハハ、『魔物』がいるから『自殺行為』って……」
早く寝ないと、オバケの国に連れていかれてしまうよ…的な話なのか?
彼の迫真の演技に、失礼ながら笑ってしまった。
おそらくこれは子供に対する物言いで、もしかして(外国の方から見たら)童顔の俺は実年齢より幼く見えたのかもしれない。
こう見えて、俺は二十歳の(立派な?)成人男性なんだけどな……
俺は成人しているから大丈夫です!と言ってみたけど、二人は俺の言い分に納得せず、実際に見てみたらわかるとまで言われてしまった。
二人に促される形で部屋を出て、暗い通路を歩いて階段を上り、二階のバルコニーに出る。
それにしても、家の中も外も全体的に暗いのはどうしてなんだろう。
たしかに、バス停付近は長閑な田園風景が広がる田舎町だったけど、電柱と電線があり電気は通っていたはずだ。
それなのに、家の中に電灯らしきものは一つもないし、外にも街路灯が見当たらない。
首をかしげながら何の気なしに仄暗い夕暮れの空を見上げた俺は、信じられない光景を目の当たりにする。
「な、何で……半月が二つあるんだ!!」
月は一つしかないはずなのに、ぼんやりと二つ並んで浮かんでいる。
しかも、上弦と下弦の月が同時になんて……
そして、周囲の状況がおかしいことにも気付いてしまった。
木造だが日本家屋とは違う平屋が並び、二階建ての建物はほとんどない。
この住宅街を、ぐるりと壁が取り囲んでいる。
その外には、見渡す限り森が広がっていた。
「あの壁は、何ですか?」
「魔物の侵入を防ぐための、外壁だ」
「魔物!?」
男性から「森を見てみなさい」と望遠鏡みたいなのを渡されて、近隣の森を何箇所か覗いてみた。
「・・・・・」
なんか、いっぱい居た。
明らかに人外生物とか、犬っぽいけど犬じゃない何かがね。
一応、頬をつねってみたけど、うん、痛い。
「ハア……マジか」
ようやく理解したよ……ここは、『異世界』なんだって。
さっきスマホでも読んでいたし、友人に借りて何冊か読んだこともあるライトノベルのファンタジー世界。
王様や貴族や魔物や魔王や勇者が登場する、昔話や御伽草子のような話。
俺は俺のままだから、おそらく『異世界転生』ではなく『異世界転移』。
何かの拍子に飛ばされたのか、それとも誰かに召喚されたのか。
とにかく、今はっきりしていることは、これは夢でも空想でもなく現実の話ってこと。
ここまで、意外と冷静に状況を飲みこめた自分を褒めてやりたいけど、その前に一言だけ言わせてほしい。
「誰かー、嘘だと言ってくれー!!!」
すっかり日が暮れ、くっきりとした二つの半月が浮かぶ夜空に、俺の大絶叫が響き渡った。
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