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第一章 どうやら、異世界に転移したらしい
2. まずは、諸々の確認をしよう
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大絶叫した俺を二人は目を真ん丸にして凝視していたが、気付かないふりをしておこう。
俺が納得したところで、男性が「とりあえず、食事にしようか」と声をかけた。
◇
夕食を食べながら、お互いに自己紹介をする。
中年の男性はゴウドさん(四十二歳)で、女性はルビーさん(十九歳)。
二人は夫婦ではなく、親子とのこと。
余談だけど、ルビーさんの瞳はその名の通り宝石のような輝きを放っていて、ばあちゃんの形見の指輪みたいだな…とついつい見惚れてしまった。
綺麗な女性に惹かれてしまうのは、男の悲しい性だもんな。
ゴウドさんはこの集落…トーアル村の村長さんで、奥様はすでに他界しているのだとか。
村の外壁近くに倒れていた俺を発見した村人の報せで、この家に保護してくれたのだそう。
もし誰にも気付かれずにそのままだったら、間違いなく魔物の餌食になっていたかと思うとゾッとする。
あらためて、深々と頭を下げ礼を述べたことは言うまでもない。
俺の名は(酒井)和樹で、二十歳の(大)学生と言っておいた。
苗字を伏せたのは、小説で平民は苗字がなく、名乗ったら貴族と間違われた話を読んだことがあったから。
休暇を利用して一人旅をしていたと話したら、「カズキは、本当に平和呆けしている」とルビーさんから厳しいお言葉が。
うん、これって海外旅行をしている日本人がよく言われるやつ。
「見た感じ、カズキは騎士でもないし冒険者でもない。武器も持っていないようだけど……」
「カズキくん、すまない。君が眠っている間に、所持品だけ確認をさせてもらった。念のため、武器だけは預かろうと思ってね……」
ゴウドさんが申し訳なさそうに言ったけど、それは当然の行動だよな。
自分で言うのも何だけど、俺ってかなり怪しい奴にしか見えないと思う。
「そんなことは気にしないでください。それより、見ず知らずの俺を家に入れることに、その…抵抗はなかったんですか?」
「もちろん、先にハクさんに視てもらったわ。カズキが何か後ろ暗いことがある人間だったら、村にも入れていないもの」
なんでも、村人の中に『その人が纏っている空気』を視ることができるおばあちゃんがいるのだとか。
犯罪者などの極悪人だと真っ黒で、そこからどんどん色が薄くなってくるらしい。
その『纏っている空気』って、きっとオーラ的なものだよな。
俺は無色透明で何も見えなかったらしいけど、異世界人だからってことはないのだろうか。
もちろん、俺は品行方正な男だぞ?
もしそうだったとして、「やっぱり、怪しい奴だ!」とこんな夜に村外へ放り出されたら困るから、異世界人であることは黙っていよう。
それより、ルビーさんの話で思い出したけど、俺に職業とか能力があるのか後で確認しておいたほうがいいな。
小説の中では、界を渡ってきた異世界人には何らかの能力が備わっていることが多いから……って、すでに持っていたな、言語能力を。
日本語のように話していたから、スルーするところだったよ。
「カズキは、もう少し危機感を持ったほうがいいと思うわ。これまでは、たまたま魔物や悪い人たちに遭遇しなかっただけなのよ」
「そうですね。ルビーさんの仰る通りだと思います」
ルビーさんは気持ち良いくらいズバズバと言ってくれるけど、俺を心配してのことだとわかっているから素直に耳を傾ける。
「私に対して『さん』付けはいらないし、言葉遣いも改まらないでほしいわ。歳も近いのだし」
娘の言葉に、隣で父親も「そうだな」と大きく頷いている。
この村の長の家族に対していいのか?と思ったけど、二人がそう言うのなら遠慮なく。
「これからは、気を付けるよ。ルビー、苦言を言ってくれてありがとう」
「べ、別に、お礼を言われるほどのことでもないわよ。それより、カズキの頬に少し血が付いているわ。ケガでもしたの?」
「血? ああ、蚊を殺ったから俺の血だ。全然、心配ないよ」
「『カ』って、まさか……吸血虫のこと?」
「吸血虫?が何かはわからないけど、たぶん似たようなものだな。ほら、手にも血の跡が……」
微かに血が残る手のひらを見て、怪訝な顔をするルビー。
「吸血虫って、そんな簡単に退治できたかしら?」と呟いているけど、だって蚊だもんな。
ルビーが渡してくれた濡れ布巾で、俺は手と頬を拭った。
◇
夕食を終えた俺は、先ほどの部屋に戻ってきた。
今夜は、このままここで就寝する……とその前に、始めるとするか。
「さて、確認しようかな……」
能力は、どうやって見るんだっけ?と少し考えて、決まり文句を思い出した。
「ステータス、オープン」
(…………)
「あれ? たしか小説とかでは、目の前に光る画面が現れるはずなんだけどな……」
「ステータス、オープン!」
(…………)
「ステータス、確認! 能力、確認! 能力、オープン!」
(…………)
なんの反応もないまま、俺の背中にたらりと一筋の汗が流れた。
非常に、嫌な予感がする。
異世界転移者なのに、『無能力者』とかいう鬼畜設定はマジでいらんぞ!!
「まさか、言語能力しかないなんて……有り得ないだろう!!」
⦅コラ! 少し静かにせんか!!⦆
「うわあ! びっくりした……」
いきなり知らない爺さんの怒声が聞こえたけど、なんで?
この家には、あの親子と俺しか居ないはずだけど……
⦅儂は、おぬしの頭の中におるぞい⦆
「頭の中……えっ、どういうこと!?」
⦅さっきから声をかける時機を見計らっておったのじゃが、ふむ……おぬしに言葉で説明するには長くなるし、ちと面倒じゃな⦆
「ちょっと、面倒って……」
⦅まあ、そう慌てるでない。視覚で説明してやろうと言っておるのじゃ。では、いくぞ…ほれ!⦆
謎の爺さんの掛け声と同時に、俺の脳内にいきなり映像が流れ始めた。
俺が納得したところで、男性が「とりあえず、食事にしようか」と声をかけた。
◇
夕食を食べながら、お互いに自己紹介をする。
中年の男性はゴウドさん(四十二歳)で、女性はルビーさん(十九歳)。
二人は夫婦ではなく、親子とのこと。
余談だけど、ルビーさんの瞳はその名の通り宝石のような輝きを放っていて、ばあちゃんの形見の指輪みたいだな…とついつい見惚れてしまった。
綺麗な女性に惹かれてしまうのは、男の悲しい性だもんな。
ゴウドさんはこの集落…トーアル村の村長さんで、奥様はすでに他界しているのだとか。
村の外壁近くに倒れていた俺を発見した村人の報せで、この家に保護してくれたのだそう。
もし誰にも気付かれずにそのままだったら、間違いなく魔物の餌食になっていたかと思うとゾッとする。
あらためて、深々と頭を下げ礼を述べたことは言うまでもない。
俺の名は(酒井)和樹で、二十歳の(大)学生と言っておいた。
苗字を伏せたのは、小説で平民は苗字がなく、名乗ったら貴族と間違われた話を読んだことがあったから。
休暇を利用して一人旅をしていたと話したら、「カズキは、本当に平和呆けしている」とルビーさんから厳しいお言葉が。
うん、これって海外旅行をしている日本人がよく言われるやつ。
「見た感じ、カズキは騎士でもないし冒険者でもない。武器も持っていないようだけど……」
「カズキくん、すまない。君が眠っている間に、所持品だけ確認をさせてもらった。念のため、武器だけは預かろうと思ってね……」
ゴウドさんが申し訳なさそうに言ったけど、それは当然の行動だよな。
自分で言うのも何だけど、俺ってかなり怪しい奴にしか見えないと思う。
「そんなことは気にしないでください。それより、見ず知らずの俺を家に入れることに、その…抵抗はなかったんですか?」
「もちろん、先にハクさんに視てもらったわ。カズキが何か後ろ暗いことがある人間だったら、村にも入れていないもの」
なんでも、村人の中に『その人が纏っている空気』を視ることができるおばあちゃんがいるのだとか。
犯罪者などの極悪人だと真っ黒で、そこからどんどん色が薄くなってくるらしい。
その『纏っている空気』って、きっとオーラ的なものだよな。
俺は無色透明で何も見えなかったらしいけど、異世界人だからってことはないのだろうか。
もちろん、俺は品行方正な男だぞ?
もしそうだったとして、「やっぱり、怪しい奴だ!」とこんな夜に村外へ放り出されたら困るから、異世界人であることは黙っていよう。
それより、ルビーさんの話で思い出したけど、俺に職業とか能力があるのか後で確認しておいたほうがいいな。
小説の中では、界を渡ってきた異世界人には何らかの能力が備わっていることが多いから……って、すでに持っていたな、言語能力を。
日本語のように話していたから、スルーするところだったよ。
「カズキは、もう少し危機感を持ったほうがいいと思うわ。これまでは、たまたま魔物や悪い人たちに遭遇しなかっただけなのよ」
「そうですね。ルビーさんの仰る通りだと思います」
ルビーさんは気持ち良いくらいズバズバと言ってくれるけど、俺を心配してのことだとわかっているから素直に耳を傾ける。
「私に対して『さん』付けはいらないし、言葉遣いも改まらないでほしいわ。歳も近いのだし」
娘の言葉に、隣で父親も「そうだな」と大きく頷いている。
この村の長の家族に対していいのか?と思ったけど、二人がそう言うのなら遠慮なく。
「これからは、気を付けるよ。ルビー、苦言を言ってくれてありがとう」
「べ、別に、お礼を言われるほどのことでもないわよ。それより、カズキの頬に少し血が付いているわ。ケガでもしたの?」
「血? ああ、蚊を殺ったから俺の血だ。全然、心配ないよ」
「『カ』って、まさか……吸血虫のこと?」
「吸血虫?が何かはわからないけど、たぶん似たようなものだな。ほら、手にも血の跡が……」
微かに血が残る手のひらを見て、怪訝な顔をするルビー。
「吸血虫って、そんな簡単に退治できたかしら?」と呟いているけど、だって蚊だもんな。
ルビーが渡してくれた濡れ布巾で、俺は手と頬を拭った。
◇
夕食を終えた俺は、先ほどの部屋に戻ってきた。
今夜は、このままここで就寝する……とその前に、始めるとするか。
「さて、確認しようかな……」
能力は、どうやって見るんだっけ?と少し考えて、決まり文句を思い出した。
「ステータス、オープン」
(…………)
「あれ? たしか小説とかでは、目の前に光る画面が現れるはずなんだけどな……」
「ステータス、オープン!」
(…………)
「ステータス、確認! 能力、確認! 能力、オープン!」
(…………)
なんの反応もないまま、俺の背中にたらりと一筋の汗が流れた。
非常に、嫌な予感がする。
異世界転移者なのに、『無能力者』とかいう鬼畜設定はマジでいらんぞ!!
「まさか、言語能力しかないなんて……有り得ないだろう!!」
⦅コラ! 少し静かにせんか!!⦆
「うわあ! びっくりした……」
いきなり知らない爺さんの怒声が聞こえたけど、なんで?
この家には、あの親子と俺しか居ないはずだけど……
⦅儂は、おぬしの頭の中におるぞい⦆
「頭の中……えっ、どういうこと!?」
⦅さっきから声をかける時機を見計らっておったのじゃが、ふむ……おぬしに言葉で説明するには長くなるし、ちと面倒じゃな⦆
「ちょっと、面倒って……」
⦅まあ、そう慌てるでない。視覚で説明してやろうと言っておるのじゃ。では、いくぞ…ほれ!⦆
謎の爺さんの掛け声と同時に、俺の脳内にいきなり映像が流れ始めた。
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