目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

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第一章 どうやら、異世界に転移したらしい

16. 女子トーク in 女風呂

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 同じころ、ルビーは別の風呂に来ていた。
 和樹が男性客の意見を聞いているように、彼女もまた、女性目線からの意見を集めるためだ。
 村の女性たちからは、「村民は、入浴料を多少割引してほしい」とか「子供や年寄りは、安くしてほしい」などの要望が出た。
 やはり、家計を預かる主婦としては、料金が気になるところだろう。
 村人たちにも気兼ねなく入浴してもらえるよう、ゴウドやドレファスと相談の上、前向きに検討したいとルビーは思っている。

「ルビー、この風呂も美肌効果があるのかい?」

「ええ、カズキはそう言っていたわ。あと、血の巡りが良くなって、湯冷めしにくいのだそうよ。それと、オンセンの成分に塩が含まれているから、傷ややけどの痛みを抑えるとか何とか……」

 和樹は、『塩分の殺菌力があり、傷ややけどの鎮痛効果がある』と説明したかったのだが、『菌』を上手く説明できず、残念ながらルビーにはきちんと伝わってはいなかった。

「塩が含まれていたら、傷口が痛みそうだけどね……あはは!」

 『寝湯』で寝ころびながら高笑いをしているのは、竜の牙の女性メンバーであるサリエ。
 彼女はライネルと同じエルフ族だ。
 魔物から受けた傷だらけの体を隠すこともなく、堂々と晒《さら》している。
 
「私は体がよく冷えるから、有り難いわ……」

 ルビーの隣で一緒に湯に浸かっているのは、ナンシー。
 人族である彼女は後方支援の回復役であるため、体にあまり傷はない。
 竜の牙の女性メンバーはもう一人、獣人族のヨリがいるのだが、彼女は皆の前で裸になるのが恥ずかしく、個室風呂の行列に並んでいる。
 
「風呂は、ここの他にも四つあるんだっけ?」

「そうなの。赤みがかった赤褐色や、乳白色のオンセン。入浴すると体に細かい泡が付くものや、無色透明のオンセンもあるわ。どれも、それぞれに個性があっていいわよ」

「そいつは楽しみだ!」

 サリエは、ようやく起き上がった。

「そういえば、ルビーちゃんは最近ますます綺麗になったわね?」

 ナンシーが、ニコニコしながらルビーの顔を覗きこむ。

「よくオンセンに入っているから、きっと肌が綺麗になったのね」

「それもあるかもしれないけど……ふふふ」

「……カズキがいるから、だろう?」

 ナンシーの言葉の後を、寝湯から移動してきたサリエが続ける。

「あいつは将来性があるから、ルビーは今のうちに粉かけときな! あたしがもう少し若けりゃ、絶対に口説いているよ」

 Sランク級の魔獣を召喚できるほどの豊富な魔力量と腕前を持つ、若き魔法使いの弟子。
 少々常識が抜けていたり、たまに驚くようなことをしでかすこともあるが、人当たりの良い好青年である。

「カズキはまだ学生で、修行の一環として一人旅をしているの。今はオンセンの開業準備を手伝ってくれているけど、いずれは自分の国へ帰るのよ」

 休暇を利用して修行の旅をしているとのことだが、トーアル村に一か月以上も滞在して学校は大丈夫なのか?とルビーはひそかに心配をしていた。

「彼は、どこの国の出身なの?」

「物凄く遠い国で、もう二度と故郷には帰れないとは言っていたわ」

 何か訳アリのようだから、出身国についてはルビーは深く尋ねることはしていない。
 その代わりに学校がある国を尋ねたところ、和樹は慌てたように目が泳ぎ、結局教えてもらえなかった。

「もしかしたら……学校に恋人とか、婚約者がいるのかもしれないわね。お師匠さんの娘さんとか」

「たしかに、あれほどの実力者を周りが放っておくわけないか……」

「…………」

(恋人や、婚約者……)

 和樹にそんな相手がいるかもしれないことを、これまでルビーは一度も考えたことがなかった。
 ライネルからギルドに登録をしたほうがいいと忠告を受けたにもかかわらず、和樹はいまだに身分証の取得には後ろ向きだ。
 彼が冒険者ギルドに登録をすれば、すぐにAランク、もしくはSランクの冒険者に昇格する可能性が高い。
 そうなれば、高難度の依頼を受けなければならなくなる。
 もし、本当に国に待っている女性ひとがいるならば、金銭的にも余裕がある彼が危ない橋を渡る必要はないのだろう。
 
「魔法使いの学校がある国と言えば……『マンドルド共和国』とか?」

 サリエは長命のエルフ族のため、これまで様々な国を訪れたことがある。
 生まれてからずっとこの国を出たことのないルビーよりも、知識は豊富だ。

「その国は、ここからは遠いの?」

「そうだな。このライデン王国との間に、四か国はある」

「そう……かなり遠いのね」

 ルビーは、先日の和樹とのやり取りを思い出していた。


 ◇◇◇


 作り過ぎてしまい父娘二人だけでは食べ切れない料理を、ルビーはいつものように和樹へおすそ分けしていた。
 それが一週間に一,二回ほどあり、あまりの頻度の高さに彼が迷惑していないかとふと心配になる。

「ねえ、カズキ……もし差し入れが必要なかったら、はっきりと断ってくれて構わないからね」

 食べたくない物を、無理やり食べさせているのではないか?と尋ねたルビーに、和樹は笑いながら首を横に振った。

「ルビーの手料理は美味しいから、俺は毎日でも食べたいぞ。だから、これからもよろしくお願いします」


 ◇◇◇


 和樹と交わした、何気ない会話

 『あなたの手料理を、毎日食べたい』

 これは、この国では男性が女性へ求婚するときに使用される言葉の一つ。
 他国の人間である和樹が、意味を知らずに言ったことはルビーも理解している。
 言葉の意味を知っていれば、彼は絶対に口にはしなかっただろう。

(カズキが国へ帰ってしまったら、もう二度と会えない……)

 屈託のない笑顔で自分に告げた和樹の顔を思い出し、ルビーの胸はズキッと痛んだ。


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