目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

文字の大きさ
24 / 79
第二章 村のために、いろいろ頑張る!

24. お土産を開発しよう!

しおりを挟む

「フフッ、これは良い土産になりそうだぞ……」

「えっ、これが?」

 嬉しくて、つい笑ってしまった俺を、ルビーは怪訝な顔で見つめていた。


 ◇◇◇


 温泉開業から二か月、従業員たちは仕事に慣れ、ゴウドさんやルビーたちは客から寄せられた様々な要望に対応する余裕が出てきたみたい。
 俺がルビーから相談された件も、その内の一つだった。

「トーアル村でしか手に入らない土産がほしい?」

「そう。どこにでも売っているような物じゃなくて、このオンセン観光地ならではの土産なんだけど……」

 なるほど。
 いわゆる地域限定商品ってことか。
 たしかに、土産を貰った人へもトーアル村の宣伝ができるし、いいかも。

「ちょうど、ぴったりの商品を作れそうな温泉があるぞ」

「もしかして……壁の外にある、あの二つのオンセン?」

「うん」

「あれが?」

 ルビーは半信半疑のようだから、作った物を見てもらうのが一番早い。
 
「材料を持って、さっそく行こう」

 用意してもらったのは、卵とハチミツ。
 二つとも村で生産されているものだ。

⦅籠やスプーン、それにコップを忘れるでないぞ⦆

 そうだ、道具も必要だったな。
 マホー、教えてくれてサンキュー。
 壁の外へ行くけど、トーラもいるから魔物の心配はない。
 今日は清掃の仕事じゃないから、リュックは必要ないよな。


 ◇


 最初にやって来たのは、モクモクと湯気の出ている温泉。
 湧き出ている源泉が高温のため、危険だから周辺を囲いで覆っている。

「ここはオンセンの温度が高すぎて、加水しないと入れないのよね」

「さすがにこのまま入ったら、大ヤケドだもんな。でも、この高温を利用して、ゆで玉子を作ろうと思う」

「だから、卵と籠を持ってきたのね」

 ルビーが納得したところで、さっそく調理開始。
 籠に卵を入れ、湯に浸けるだけと超カンタン。
 あっちの世界の某温泉名物は、一個食べると数年寿命が延びるとか言われていたっけ。
 セットし終えると、次の温泉へ向かう。
 もう一つはさらに簡単に作れるから、茹でている間に終わる。


 ◇


 森の木々に囲まれた中に、滾々こんこんと泉が湧き出ている。
 トーラが水をなめようとしたから、ちょっと待って!と抱きかかえた。

「こっちは逆に温度が低すぎて、加温しないといけないわ。せっかくの『泡オンセン(炭酸泉)』なのに……」

「厳密に言うと、これは温泉じゃないんだ。成分は含まれているけど、かなり少ないからな」

 これを温泉とうたったら、日本なら偽装表示とかで問題になるかも。
 まあ、ここは異世界だからいいかもしれないけど。
 
「じゃあ、これはどうするの?」

「これにハチミツを溶かして飲む!(だって、強炭酸だから)」

 鑑定したときに温泉成分が少なすぎてガッカリしたけど、泡が立っていることに気付く。
 もしかしてと思って飲んでみたら普通の炭酸水で、これを『温泉サイダー』として売り出したらどうかとひらめいた。

「商品にしたときの甘さをどうするかはルビーたちにお任せするけど、まずは飲んでみてくれ」

 ルビーに勧め、俺も一口飲む。
 シュワシュワとしたあの感じが出ていて、かなり美味しいと思う。
 ルビーは恐る恐る口を付けているけど、どうかな?

「……エールのようでエールとも違う、何とも不思議な口当たりだけど、美味しいわ」

 『エール』って、あのビールみたいなお酒のことだよな。
 俺はあっちの世界でもアルコール飲料は苦手でほとんど飲まなかったけど、ルビーたちはたまに夕食で飲んでいるらしい。
 ゴウドさんから勧められて一口だけ飲んでみたことはあるけど、やっぱり俺には合わなかった。
 ちなみに、この国は十五歳で成人だから、十九歳のルビーは未成年者の飲酒ではないよ。

「今日はハチミツを入れたけど、濃い果実水を入れてもいいと思う。果物によって味や色が変わるから、この国の人たちの好みに合わせて作ってみてくれ」

 国が違えば、好みも違う。
 他国民(というか異世界人)の俺は、この手の飲み物はもっと冷えているほうが好きだけど、それは、常温が当たり前のこの世界では非常識だから。

 トーラが飲みたそうにしていたから、ハチミツ入りと炭酸水だけのと両方あげた。
 でも、舌がピリピリするのが気になる(マホー訳)みたいで、あまり好みではなかったみたい。


 ◇


 さて、そろそろ卵が茹で上がるころかな。
 籠を引き上げたら、ルビーが目を丸くした。
 
「こんなの、本当に売れるの?」

「これは、良い土産になりそうだぞ……」

「えっ、これが?」

 目の前には赤に緑に黄色に青……ゆで玉子は、白ではなくいろんな色になっていた。
 ゴウドさんやドレファスさんたちにも試食してもらうため、卵を五個ほど茹でた。
 それが、すべて薄めの、赤・青・緑・黄・紫色に染まっている。

⦅ホッホッホ……これが、『ファンタジーの世界』と言うのかのう?⦆

 そうだな。
 まさに、異世界ファンタジーだね。

「中はどうなっているのかしら?」

「一つ割って、食べてみるか」

 試しに緑の殻を剥いて半分に割ってみると、中は白身と黄身の普通のゆで玉子だった。
 うん、味も変わらず美味しい。
 俺をじっと見上げるつぶらな瞳の圧に負け、ルビーではなくトーラと半分こした。

「中が普通なら、案外可愛いお土産になるかもしれないわ」

「可能なら、実際にお客さんの目の前で茹でたほうが売れるだろうな」

「そうね。殻に着色していると思われそうだから、違いますよって証明するためにもね」

 まずは、ゴウドさんたちにも試飲・試食をしてもらって、反応が良ければ外壁を広げてもらう手配や設備を整えたり……なんて、ルビーとアイデアを出し合いながら話をするのは、やっぱり楽しいな。
 トーアル村の発展は、身元不明の俺を温かく迎え入れてくれた彼らへの恩返しになる。

 ――――このときの俺は、そう信じて疑わなかった


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜

ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。 ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...