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第三章 雨降って、地固まる?
45. ――魔王と、なる?
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ルビーはすぐに発見できたが、馬車で移動しているため転移してもすぐに引き離されてしまう。
追いつくためには、同じように高速での移動が必要だ。
……というわけで、さっそく行動開始。
マホー、俺の魔力残量が少なくなったら教えてくれ。
⦅任せておけ⦆
俺は、お蔵入りさせていた『飛行』を発動させる。
風魔法との合わせ技で、馬車を目視できる位置まですぐに追いついた。
「火球を投げて馬車を止めるから、アンディはトーラと共に衝撃からルビーを守り、救出してくれ」
≪ルビー嬢には、傷一つ付けさせない。トーラ、行くぞ!≫
マホーは補助を頼む。
⦅了解じゃ⦆
大きな火球を二台の馬車の前方へ投げると、衝撃音と同時に辺りが一瞬明るくなる。
停止した一台目の馬車からは、すぐに男たちが出てきた。
バカ息子率いる冒険者パーティーのメンバーだ。
こいつら、さっきはよくも村内で乱闘騒ぎを起こしてくれたな。
その落とし前も、きっちりつけてもらうぞ。
俺は気付いていなかったが、マホーは逃げ出したやつらをしっかり鑑定していた。
それで、以前も見かけたアーチーの仲間だとわかったようだ。
男たちは、馬車に追いついた俺をぐるりと取り囲む。
「どうやって追いかけてきたかは知らんが、おまえはたった一人で俺たちの相手をしようというのか?」
「俺らは、個々ではAランクやBランクの冒険者だぞ!」
うん、知っている。
でも、それが何だというんだ?
「おまえらは、あのバカ息子に命じられてやったんだろう? だったら、俺におとなしく捕まれば、ケガまでさせるつもりはない」
「ハハハ! おまえこそ、貴族の馬車を襲撃した罪人として騎士団へ突き出してやるからな!!」
相手は全く聞く耳を持たなかったが、一応(形だけの)警告はしたから遠慮なくいかせてもらう。
やつらは武器を持ち、連携して俺に向かってきた。
でもね……剣で斬りかかってくるスピードが遅いから、俺でも余裕でかわせる。
槍は突かれる前に水球で真っ二つに折ったし、弓矢なんて真っ先に凍らせちゃったけど……それでも、まだ俺に立ち向かってくるつもりかな?
⦅なんとも、歯応えのない連中じゃ⦆
マホー、ルカさんや魔剣士さんと一緒にしないであげて。レベルが違いすぎるから。
そもそも、比較する相手が間違っているし。
「お、おまえ……何者だ?」
「俺は、トーアル村を守るただの(臨時)警備担当ですけど?」
「「「「噓を吐くなー!!」」」」
失礼なやつらだな! 俺は、嘘は吐いていないぞ!!
戦意を喪失したらしいけど、大事な証人だから逃げられないように全員の足元を固めておく。
「足が冷たい!」とか「痛てえぞ!!」と騒いでいるけど、氷魔法で凍結させているから当たり前だよな。
だから、さっきおとなしく投降していればよかったのに。
足は、壊死まではしないと思う……多分ね。
「カズキ……」
気付いたらルビーがいて、胸に飛び込んできた。
俺はしっかりと受け止め、「もう、大丈夫だぞ」と声をかける。
体が震えているのは、相当怖い思いをしたからだな。
可哀想に……て、そういえば、ルビーとめっちゃ密着しているんですけど!?
ちょっとどころか、かなりドキドキしてしまう。
「……カズキの鼓動が異常に早いわ。急いで助けに来てくれたのね」
「そ、その、助けにくるのが遅くなって、ごめんな!」
「ううん、いつもいつも助けてくれて、本当にありがとう……」
えっと……ルビーさん。
さらにギュッと抱きつかれたから、俺の心臓はそろそろ停止するかもしれませんよ?
アイテムボックスから向こうの世界で着ていた上着を出して、ルビーに掛けてあげたら、「ふふふ……カズキの匂いがする」と言われた。
まさか……加齢臭?
いやいや、俺はまだ二十歳だし。
◇
ルビーが落ち着いたところで、最後に(小物だけど)ラスボス退治といきますか。
馬車の扉を開けると、中年の女性とアーチーが呻いていた。
ルビーによれば、女性は母親だそう。つまり、伯爵夫人ということね。
「あ、あなた、伯爵家の馬車を襲撃して、わたくしたちにケガを負わせたのよ! これからどうなるか、わかっているのでしょうね?」
「俺がわかっているのは、あなたたちが国王様から重い罰を受けるということだけです」
「俺たちは、何もしていないぞ! 配下が勝手にルビーさんを誘拐してきたから、村へ丁重に送り届ける途中だったのだ!!」
「そうよ! 恩人に対してこの仕打ち。村長へも、厳重に抗議させていただくわ!!」
ふむふむ、なるほど。
配下へ、すべての罪を擦り付けるおつもりですか。
⦅『盗人、猛々しい』とは、このことじゃな……⦆
ホント、その通りだよな。
≪丁重に送り届けているはずのルビー嬢が、縛られたままだったのは、なぜだ?≫
おっ! アンディが鋭いところをついたぞ。
どう言い訳するのかと思ったら、「縄を切るものが、無かったから」だって。
でも、冒険者の方々は、切れ味の良さげなものをたくさんお持ちでしたけど?
「このように証人もいますので、さっさと罪を認めたらどうですか?」
「知らないものは、知らん!」
「貴族の証言と、庶民の証言。どちらが信用されるのかしらね……ホホホ」
往生際の悪いやつらだな。
そっちがそういう態度なら、こっちにも考えがあるぞ。
「では、こちらはモホー殿に証言してもらいます」
「「なっ!?」」
「村長の娘を誘拐し村の乗っ取りを企んだ貴族に対し、彼はどう思われるでしょうか? 国王様とも約束をしたのに、それを反故にされたのですから激怒するだろうな……」
「「…………」」
モホーの名を出したら、急にだんまり。
スコット領が、壊滅するかも……なんて、さらに言ってやったら顔色が悪くなったけど、もちろんそんなことはしないよ。
「モホー殿は、村には居ないはずだ! いい加減なことを言うな!!」
そのことも、調査済みってわけか。
だから、こんな大胆な犯行に及んだわけね。
「あなた方は、俺がどうやってここまで来たのか不思議に思いませんでしたか? 馬も馬車もない状態で、走行中の馬車に追いついたんですよ?」
「ま、まさか……」
「そこに居る黒猫ですが、あれは本当は……」
トーラが待ってました!とばかりに、元の大きさになる。
突如現れた大型魔獣メガタイガーに、母子・冒険者たち双方から悲鳴が上がった。
「……というわけですので、モホー殿は今日の一件はすべてご存知です」
「「…………」」
納得したようで、なにより。
やれやれ、ようやく終わったな。
⦅そういえば、おぬしにもう一つ言い忘れておったが……⦆
マホー、ちょっと待って。
ルビーが手首にケガをしている。
⦅待つのじゃ! 今、そんなことをすれば……⦆
うん、回復魔法で擦り傷も治療できた。
「ルビー、もう大丈夫だ……ぞ」
あれ? 急に力が入らなくなっ……た
「カズキ!」
薄れゆく意識の中で聞こえたのは、ルビーの叫び声と、⦅『魔力欠乏症』じゃ⦆と言うマホーの呆れた声だった。
◆◆◆
「カズキ!」
≪父上!≫
自分を治療してくれたと思ったら、急に和樹が倒れた。
ルビーは慌てて抱きとめようとしたが体格差があり、支えきれない。
せめて和樹だけでも……彼を庇い共に倒れたルビーを救ったのは、またしてもトーラだった。
大きな尻尾を伸ばし、二人を衝撃から守ったのだ。
≪トーラ、よくぞ父上たちを守った。私からも、礼を言わせてもらうぞ≫
そのまま二人を守るように横になったトーラの頭を、アンディが撫でている。
といっても、トーラに触られている感覚はまったくないだろうが。
「アンディ、カズキは……」
≪おそらく、魔力が欠乏したのであろう。さすがに父上と言えども、魔力を使い過ぎたのだ≫
でも、心配は要らぬ…とアンディは微笑む。
父上はすぐに回復するから、問題ないと。
≪では、父上が目覚める前に、私があの者たちの始末をつけておこう≫
アンディは、地べたに座り込むアーチー母子と冒険者たちを交互に見やる。
≪おまえたちに、選択肢をやろう。自分たちでおとなしく馬車に乗り込むか、担ぎ込まれたいか。好きなほうを選べ≫
貴族のような恰好をした幼い美少年から選択を問われた彼らは、皆一様に同じ考えに至る。
あの警備担当者が意識を失っている今が、逃げ出す絶好の好機であると。
殊勝なフリをした彼らは口々に反省の弁を述べ、まんまと少年を騙し通せた……と思っていた。
馬車に乗り込む彼らを傍らから見張っていたアンディは、後ろから喉元に刃物を突き付けられる。
「……坊や、良い子だから皆を開放なさい。そうすれば、命だけは助けてあげるわ」
それは、侍女…の恰好をした冒険者パーティーの女だった。
女は馬車が急停止させられたあとも馬車に留まり、ずっと機会を窺っていたのだ。
「いいぞ、よくやった!」
「さあ、今のうちに早く逃げるよ!!」
仲間を急かし、メンバー全員が馬車に乗ったことを確認すると、女はニヤリと勝利の笑みを浮かべた。
アンディは刃物を突き付けられたまま、微動だにしない。
「わ、わたくしたちも連れていきなさい!」
「俺たちは、雇い主だぞ!!」
「お断りだね。あんたらは、あたいたちに罪を擦り付けようとしたんだ。あのじいさんに、制裁されるがいいさ」
仲間割れを始めた彼らを、ルビーは呆れ顔で眺めていた。
和樹を抱え込むようにして座っているルビーを、トーラがしっかりと守っている。
≪私は、おまえたちに勝手な行動を許した覚えはない。三つ数える間に止めなければ……≫
「ははは! どうなるっていうのさ?」
≪こうなる≫
きっちり三秒後、地面から長い棒のようなものが出現した。
それは蛇のように動き出し、女を雁字搦めに縛り上げる。
馬車に乗り込んだ男たちも、アンディの眷属スケルトンたちによって車外に放り出され、一人残らず同じように縛り上げられた。
もちろん、母子も。
「う、腕が折れそうだ! 頼む、助け……」
アーチーの騒ぎ声は、すぐに静かになる。
アンディの氷魔法によって、口だけ塞がれてしまったから。
≪言っておくが、私は父上のように優しくはないぞ。ここで死にたくなければ、おとなしくすることだ≫
アンディは冷静に、冷酷に告げる。
二つの月明かりに照らされた少年の顔は、ハッと息を呑むほどに美しい……ゾッと身の毛がよだつほどにも。
――――美少年の皮を被った魔王
アンディは、皆の心に一生消えることのない傷を負わせたのだった。
追いつくためには、同じように高速での移動が必要だ。
……というわけで、さっそく行動開始。
マホー、俺の魔力残量が少なくなったら教えてくれ。
⦅任せておけ⦆
俺は、お蔵入りさせていた『飛行』を発動させる。
風魔法との合わせ技で、馬車を目視できる位置まですぐに追いついた。
「火球を投げて馬車を止めるから、アンディはトーラと共に衝撃からルビーを守り、救出してくれ」
≪ルビー嬢には、傷一つ付けさせない。トーラ、行くぞ!≫
マホーは補助を頼む。
⦅了解じゃ⦆
大きな火球を二台の馬車の前方へ投げると、衝撃音と同時に辺りが一瞬明るくなる。
停止した一台目の馬車からは、すぐに男たちが出てきた。
バカ息子率いる冒険者パーティーのメンバーだ。
こいつら、さっきはよくも村内で乱闘騒ぎを起こしてくれたな。
その落とし前も、きっちりつけてもらうぞ。
俺は気付いていなかったが、マホーは逃げ出したやつらをしっかり鑑定していた。
それで、以前も見かけたアーチーの仲間だとわかったようだ。
男たちは、馬車に追いついた俺をぐるりと取り囲む。
「どうやって追いかけてきたかは知らんが、おまえはたった一人で俺たちの相手をしようというのか?」
「俺らは、個々ではAランクやBランクの冒険者だぞ!」
うん、知っている。
でも、それが何だというんだ?
「おまえらは、あのバカ息子に命じられてやったんだろう? だったら、俺におとなしく捕まれば、ケガまでさせるつもりはない」
「ハハハ! おまえこそ、貴族の馬車を襲撃した罪人として騎士団へ突き出してやるからな!!」
相手は全く聞く耳を持たなかったが、一応(形だけの)警告はしたから遠慮なくいかせてもらう。
やつらは武器を持ち、連携して俺に向かってきた。
でもね……剣で斬りかかってくるスピードが遅いから、俺でも余裕でかわせる。
槍は突かれる前に水球で真っ二つに折ったし、弓矢なんて真っ先に凍らせちゃったけど……それでも、まだ俺に立ち向かってくるつもりかな?
⦅なんとも、歯応えのない連中じゃ⦆
マホー、ルカさんや魔剣士さんと一緒にしないであげて。レベルが違いすぎるから。
そもそも、比較する相手が間違っているし。
「お、おまえ……何者だ?」
「俺は、トーアル村を守るただの(臨時)警備担当ですけど?」
「「「「噓を吐くなー!!」」」」
失礼なやつらだな! 俺は、嘘は吐いていないぞ!!
戦意を喪失したらしいけど、大事な証人だから逃げられないように全員の足元を固めておく。
「足が冷たい!」とか「痛てえぞ!!」と騒いでいるけど、氷魔法で凍結させているから当たり前だよな。
だから、さっきおとなしく投降していればよかったのに。
足は、壊死まではしないと思う……多分ね。
「カズキ……」
気付いたらルビーがいて、胸に飛び込んできた。
俺はしっかりと受け止め、「もう、大丈夫だぞ」と声をかける。
体が震えているのは、相当怖い思いをしたからだな。
可哀想に……て、そういえば、ルビーとめっちゃ密着しているんですけど!?
ちょっとどころか、かなりドキドキしてしまう。
「……カズキの鼓動が異常に早いわ。急いで助けに来てくれたのね」
「そ、その、助けにくるのが遅くなって、ごめんな!」
「ううん、いつもいつも助けてくれて、本当にありがとう……」
えっと……ルビーさん。
さらにギュッと抱きつかれたから、俺の心臓はそろそろ停止するかもしれませんよ?
アイテムボックスから向こうの世界で着ていた上着を出して、ルビーに掛けてあげたら、「ふふふ……カズキの匂いがする」と言われた。
まさか……加齢臭?
いやいや、俺はまだ二十歳だし。
◇
ルビーが落ち着いたところで、最後に(小物だけど)ラスボス退治といきますか。
馬車の扉を開けると、中年の女性とアーチーが呻いていた。
ルビーによれば、女性は母親だそう。つまり、伯爵夫人ということね。
「あ、あなた、伯爵家の馬車を襲撃して、わたくしたちにケガを負わせたのよ! これからどうなるか、わかっているのでしょうね?」
「俺がわかっているのは、あなたたちが国王様から重い罰を受けるということだけです」
「俺たちは、何もしていないぞ! 配下が勝手にルビーさんを誘拐してきたから、村へ丁重に送り届ける途中だったのだ!!」
「そうよ! 恩人に対してこの仕打ち。村長へも、厳重に抗議させていただくわ!!」
ふむふむ、なるほど。
配下へ、すべての罪を擦り付けるおつもりですか。
⦅『盗人、猛々しい』とは、このことじゃな……⦆
ホント、その通りだよな。
≪丁重に送り届けているはずのルビー嬢が、縛られたままだったのは、なぜだ?≫
おっ! アンディが鋭いところをついたぞ。
どう言い訳するのかと思ったら、「縄を切るものが、無かったから」だって。
でも、冒険者の方々は、切れ味の良さげなものをたくさんお持ちでしたけど?
「このように証人もいますので、さっさと罪を認めたらどうですか?」
「知らないものは、知らん!」
「貴族の証言と、庶民の証言。どちらが信用されるのかしらね……ホホホ」
往生際の悪いやつらだな。
そっちがそういう態度なら、こっちにも考えがあるぞ。
「では、こちらはモホー殿に証言してもらいます」
「「なっ!?」」
「村長の娘を誘拐し村の乗っ取りを企んだ貴族に対し、彼はどう思われるでしょうか? 国王様とも約束をしたのに、それを反故にされたのですから激怒するだろうな……」
「「…………」」
モホーの名を出したら、急にだんまり。
スコット領が、壊滅するかも……なんて、さらに言ってやったら顔色が悪くなったけど、もちろんそんなことはしないよ。
「モホー殿は、村には居ないはずだ! いい加減なことを言うな!!」
そのことも、調査済みってわけか。
だから、こんな大胆な犯行に及んだわけね。
「あなた方は、俺がどうやってここまで来たのか不思議に思いませんでしたか? 馬も馬車もない状態で、走行中の馬車に追いついたんですよ?」
「ま、まさか……」
「そこに居る黒猫ですが、あれは本当は……」
トーラが待ってました!とばかりに、元の大きさになる。
突如現れた大型魔獣メガタイガーに、母子・冒険者たち双方から悲鳴が上がった。
「……というわけですので、モホー殿は今日の一件はすべてご存知です」
「「…………」」
納得したようで、なにより。
やれやれ、ようやく終わったな。
⦅そういえば、おぬしにもう一つ言い忘れておったが……⦆
マホー、ちょっと待って。
ルビーが手首にケガをしている。
⦅待つのじゃ! 今、そんなことをすれば……⦆
うん、回復魔法で擦り傷も治療できた。
「ルビー、もう大丈夫だ……ぞ」
あれ? 急に力が入らなくなっ……た
「カズキ!」
薄れゆく意識の中で聞こえたのは、ルビーの叫び声と、⦅『魔力欠乏症』じゃ⦆と言うマホーの呆れた声だった。
◆◆◆
「カズキ!」
≪父上!≫
自分を治療してくれたと思ったら、急に和樹が倒れた。
ルビーは慌てて抱きとめようとしたが体格差があり、支えきれない。
せめて和樹だけでも……彼を庇い共に倒れたルビーを救ったのは、またしてもトーラだった。
大きな尻尾を伸ばし、二人を衝撃から守ったのだ。
≪トーラ、よくぞ父上たちを守った。私からも、礼を言わせてもらうぞ≫
そのまま二人を守るように横になったトーラの頭を、アンディが撫でている。
といっても、トーラに触られている感覚はまったくないだろうが。
「アンディ、カズキは……」
≪おそらく、魔力が欠乏したのであろう。さすがに父上と言えども、魔力を使い過ぎたのだ≫
でも、心配は要らぬ…とアンディは微笑む。
父上はすぐに回復するから、問題ないと。
≪では、父上が目覚める前に、私があの者たちの始末をつけておこう≫
アンディは、地べたに座り込むアーチー母子と冒険者たちを交互に見やる。
≪おまえたちに、選択肢をやろう。自分たちでおとなしく馬車に乗り込むか、担ぎ込まれたいか。好きなほうを選べ≫
貴族のような恰好をした幼い美少年から選択を問われた彼らは、皆一様に同じ考えに至る。
あの警備担当者が意識を失っている今が、逃げ出す絶好の好機であると。
殊勝なフリをした彼らは口々に反省の弁を述べ、まんまと少年を騙し通せた……と思っていた。
馬車に乗り込む彼らを傍らから見張っていたアンディは、後ろから喉元に刃物を突き付けられる。
「……坊や、良い子だから皆を開放なさい。そうすれば、命だけは助けてあげるわ」
それは、侍女…の恰好をした冒険者パーティーの女だった。
女は馬車が急停止させられたあとも馬車に留まり、ずっと機会を窺っていたのだ。
「いいぞ、よくやった!」
「さあ、今のうちに早く逃げるよ!!」
仲間を急かし、メンバー全員が馬車に乗ったことを確認すると、女はニヤリと勝利の笑みを浮かべた。
アンディは刃物を突き付けられたまま、微動だにしない。
「わ、わたくしたちも連れていきなさい!」
「俺たちは、雇い主だぞ!!」
「お断りだね。あんたらは、あたいたちに罪を擦り付けようとしたんだ。あのじいさんに、制裁されるがいいさ」
仲間割れを始めた彼らを、ルビーは呆れ顔で眺めていた。
和樹を抱え込むようにして座っているルビーを、トーラがしっかりと守っている。
≪私は、おまえたちに勝手な行動を許した覚えはない。三つ数える間に止めなければ……≫
「ははは! どうなるっていうのさ?」
≪こうなる≫
きっちり三秒後、地面から長い棒のようなものが出現した。
それは蛇のように動き出し、女を雁字搦めに縛り上げる。
馬車に乗り込んだ男たちも、アンディの眷属スケルトンたちによって車外に放り出され、一人残らず同じように縛り上げられた。
もちろん、母子も。
「う、腕が折れそうだ! 頼む、助け……」
アーチーの騒ぎ声は、すぐに静かになる。
アンディの氷魔法によって、口だけ塞がれてしまったから。
≪言っておくが、私は父上のように優しくはないぞ。ここで死にたくなければ、おとなしくすることだ≫
アンディは冷静に、冷酷に告げる。
二つの月明かりに照らされた少年の顔は、ハッと息を呑むほどに美しい……ゾッと身の毛がよだつほどにも。
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アンディは、皆の心に一生消えることのない傷を負わせたのだった。
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