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第三章 雨降って、地固まる?
50. またまた仲間が増えました
しおりを挟む村役場の応接室にいるのは、ゴウドさんとドレファスさんの二人。
彼らと向かい合っているのは、さらりとした長めの金髪を一つに縛り、青い瞳を持つ人物……あの魔剣士さんことヒューゴ・エミネルさんだ。
そして、なぜか俺も同席させられている。
「……つまり、エミネル様は当村への移住を希望されているということですか?」
「はい。是非とも、私を受け入れていただきたいのです!」
ドレファスさんの問いかけに、魔剣士さんは元気よく答えた。
「あの……立ち入ったことをお伺いします。ご実家のエミネル侯爵家の家督は、別の方が継がれるのでしょうか?」
えっ!? 魔剣士さんって、侯爵家の人なの?
ドレファスさんによると、エミネル侯爵家はカヴィル公爵家の遠戚にあたる家柄なのだとか。
しかも、カヴィル公爵の三女との婚約話も出ているみたいだけど……
「家督は弟へ譲ると書き置きをしてきましたので、婚約話はそのまま弟へ引き継がれるでしょう。ですから、問題ございません!」
いやいや、大問題ですよ!
しかも、騎士団へは再び退職願…ではなく、退職届を置いてきたらしい。
前回受理されなかったから、今回は置き逃げをしてきたようだ。
でも、また連れ戻されるのではないかと思ったら、乗っ取り事件で国の上層部がピリピリしているなか、たとえ別件であっても公爵家が騎士たちをこの村へ差し向けることは、国王様の心証を悪くする。
だから、それは絶対にありません!と魔剣士さんは言い切った。
「私は、この絶好の好機を逃すわけには参りません。どうしても、モホー殿に弟子入りをしたいのです! そのためには、どんなことだってやります!!」
たしかに、いろんなことをやらかしているよな。
家督相続・婚約の辞退。
騎士団を辞職。
そして、出奔……うん、この人結構ヤバいな。
「ですが、モホーさんは村に定住されているわけではないのです。今回は、たまたまいらっしゃっていただけで……」
えっと……ゴウドさんもドレファスさんも、チラチラと俺を見ないでください。
お二人が言いたいことは、わかってますよ。
俺に、魔剣士さんの面倒を見ろってことでしょう?
でも、この件に関しては俺はまったく悪くないと思うんですよ?
武闘大会のときに、はっきり、きっぱりと断ったのに、これ以上どうしろと?
⦅責任を取って、面倒をみてやることじゃな⦆
トーラを召喚したときのように、簡単に言わないでくれ。
だったら、マホーがどうにか俺の脳内から抜け出て、魔剣士さんを弟子にしてあげれば?
俺じゃあ、どう考えたって弟子を育てるのは無理! ムリ!! むりー!!!
⦅なるほど、その手があったか! おぬしに血を飛ばしてもらい、どこぞの誰かの体を乗っ取れるか試してみるのはアリじゃな……⦆
こらこら、ちょっと待て!
今のは、冗談だからな!!
マホーなら本当に実行して、成功させそうだから怖い。
「モホー殿が常時いらっしゃらないのはわかっておりますし、弟子入りの件は一度はっきりと断られております。ですので、私はこちらに定住し、村へ貢献していこうと考えています。まずは行動で示し、彼に私自身を認めてもらうことから始めたいと思っています」
「モホーさんは高齢を理由に弟子を取るつもりは一切ないと、これまで村に来られた弟子志望の方々にも伝えています。ですので、エミネル様が弟子になれる可能性は限りなく低いと思いますが……」
「それは、覚悟の上です」
ゴウドさんの話にも、魔剣士さんの決意は揺るがない。
思い込みが激しかったり、暴走したりと、いろいろと残念なところはあるけど、基本的にこの人は真面目なんだよな。
ここまで覚悟を決めてきた人に、簡単に「領地へお帰りください」なんてとても言えない。
「……ご本人がここまで仰っているのですから、雇用期間を設定した仮採用ということで一度村で働いてもらうのはどうでしょう? 貴族と庶民では生活環境もまったく異なりますし、まずはそれに適応できるかどうか見極めてからでも遅くはないのでは?」
これが、今の俺にできる精一杯の妥協案だ。
庶民の生活スタイルに慣れなければ、魔剣士さんも納得して諦めもつくかもしれない。
そのときのために、騎士へ戻れる道を残しておいてあげよう。
こうして、(モホーである)俺がそう提案したことで、ひとます魔剣士さんを村に受け入れることが決まったのだった。
◇◇◇
魔剣士さんこと、エミネルさんが村に来てからひと月、彼はすっかり周囲に馴染んでいた。
侯爵家の跡取りだったから、田舎の村で生活なんてできるのか?と思っていたけど、意外にも順応性が高かったみたい。
今日も警備担当者用の藍色の制服を着て、村内を元気に巡回している。
決勝戦でモホーと堂々と戦い潔く負けを認めた引き際のよさと、元々の顔の良さも相まって、武闘大会以降王都民からは人気が高かった。
そんな彼が働いているのだから女性客が放っておくはずはなく、エミネルさん目当てで村にやって来る観光客も増加中。
そして、その人気に目を付けたのがドレファスさんだった。
彼は『エミネル殿と行く、オバーケ観光』なるものを企画したのだ。
これは参加人数限定で事前予約が必要なものだが、ルビーによるとキャンセル待ちが出るほどの人気商品になっているのだとか。
内容としては、ダンジョン攻略ではなく本当にお化け屋敷のようなもので、人を脅かしにアンデッドが洞窟のあちこちから出てくる、完全に一般女性向けのツアーとなっている。
アンデッドたちがモホーの眷属であると知り、エミネルさんはやる気満々。
ドレファスさんからは「警備も集客もできる逸材を連れてきてくださり、本当にありがとうございます!」と大感謝されたけど、エミネルさんは自らやって来た人だからね……。
モホーに認められて弟子にしてもらおうと頑張るエミネルさんを見ていると、正体を隠していることにかなり良心が咎める。
さすがに弟子にはできないけど、せめてもの罪滅ぼしに、たまにモホーに変装し洞窟内で模擬戦をすることにした。
ルビーから本人へ伝えてもらったら涙を流して喜んでいたそうで、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいの俺だった。
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