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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た
59. 皇帝陛下の勅命だってさ
しおりを挟む勇者の能力は公開しないはずなのに何で?と思ったら、本当の身分は明かさず他国の客人として親善試合をするのだそうな。
ヤンソンさんたち護衛は勇者の能力を知らないから、その一端が見られると非常に楽しみにしているらしい。
だからって、普段は交代制なのに今日だけ全員出勤なのはおかしくない?
「サカイ殿は、どのような剣をお使いなのですか?」
リーダー格さんから興味津々に尋ねられて、ハッとする。
普通は剣で戦うと思うよね。
物語やゲームに登場する勇者って剣を所持している人が多いし、俺は冒険者をしていると思われていたからな。
「俺は剣を使用しません。見ての通り、魔法使い(の弟子)ですので」
今日も俺はローブを羽織っており、離宮を出たらフードを被り顔を隠すよう指示も受けている。
この国では黒髪・黒目はそう珍しくはないけど、召喚後に国内で似た容姿の人物を捜索していたから一応念の為とのこと。
「魔法使いの勇者様とは……その、模擬戦とはいえ、兵士と戦うことは大丈夫なのでしょうか?」
「えっと、問題はありません」
……実績がありますので。とは、もちろん言わないけど。
護衛さんたちの心配はわかる。
魔法使いが接近戦に不利なことは、どこの国でも常識だもんな。
でも、俺は武闘大会で強者と戦ったからね。
⦅この国にはどのような強者がおるのか、楽しみじゃわい⦆
こんな感じでマホーはやる気満々だから、俺としては誰かさんがやり過ぎないよう抑えに回ることに注力したいと思う。
◇◇◇
軍団本部内にある鍛練場まで歩いているけど……周りを衛兵で囲まれている俺を皆がじろじろと見てきて、かえって目立っている気がする。
それに、俺の隣にはアンディが猫型トーラを抱っこしてついてきているから余計だ。
護衛さんとか宰相さんはアンディやトーラの正体を知っているけど、他の人に情報は開示されていない。
宰相さんはアンディを従僕、トーラは使い魔だと押し通すつもりだとヤンソンさんは言っていた。
トーラはともかく、ご主人様よりいい恰好をしている召使いがいるんですか?と思わず突っ込んじゃったよ。
◇
鍛練場には、大勢の人が集まっていた。
兵士さんはもちろんのこと、ローブを着た宮廷魔導師さんたちもいる。
宰相さんは、あの部下を連れていた。
少し離れた場所にザムルバさんの姿があったから、目礼だけ交わしておく。
俺たちに面識があることは誰にも言っていないし、これからもずっと秘密だ。
正式に挨拶をするまでは、お互い初対面を装う。
「こちらにおられる方は、サカイ殿だ。とある国から非公式に我が国を訪問され、宮殿に滞在されていらっしゃる客人である。くれぐれも粗相のないように」
なるほど。
公式には、俺はそういう立場の人物ということね。
宰相さんの言葉に皆の視線が俺に集中したあと、隣に控えているアンディとトーラに向けられた。
「隣は、従僕のアンディ殿と使い魔のトーラ殿だ。こちらも失礼のないように」
周りからは「あんな子供が召使いなのか?」とか「猫が使い魔って……」と小馬鹿にしたような声も聞こえてくるけど、反対に「猫ではなく、魔獣ではないか?」とか「ただの従僕では、なさそうだぞ……」と、すでに正体を見破った人もちらほらいるみたい。
話し声は宰相さんの耳にも届いているはずだけど、本当にこのまま知らぬ存ぜぬで押し通す気なんだな。
その強引さに、隣で部下が苦笑しているぞ。
「では、さっそく親善試合を行いたいと思う。衛兵の中で、サカイ殿と対戦したい者はおるか?」
問いかけに対し皆がコソコソ話し合っているが、名乗りを上げる人はいないようだ。
⦅ふむ。ざっと鑑定したところ、レベルが55~65くらいの強者が数名おるが、その内『鑑定スキル』を持っておるのは二人だけじゃな⦆
一人は、ザムルバさんだろう?
もう一人は誰だ?
⦅職業が、『宮廷魔導師団 師団長』となっておるのう⦆
つまり、筆頭さんか。
その人のレベルは66で、他の数値もその前後。
『火、水(氷)、土』の属性持ちで、『製薬、鑑定、探知、空間』のスキル持ちとのこと。
氷魔法が使えるのは、さすがというべきかな。
マホーは⦅(俺を)鑑定できないから、皆が尻込みしているのじゃ!⦆と言ったけど、俺は逆の理由じゃないかと思う。
客人だから、ケガをさせたらどうしよう?ってね。
「宰相様、少しよろしいでしょうか?」
手を上げたのは、女性の宮廷魔導師さんだった。
彼女は俺をチラ見したあと、宰相さんへ向き直る。
「なぜ、サカイ殿の対戦相手が『衛兵』に限定されているのか、理由を教えていただきたいのですが?」
「ワッツ副師団長、その質問には私ではなく鑑定スキルを持っている君の上官が答えてくれるだろう」
宰相さんから丸投げされた筆頭さんは、苦笑いを浮かべながら彼へ何かを確認したあと口を開いた。
「通常であれば、同じ魔法の使い手である宮廷魔導師が相手を務めるのだが、残念ながら我々では対戦相手にはなれぬのだ……実力差がありすぎて」
「『実力差がある』とは、どういうことでしょうか?」
「そのまま言葉通りの意味だが……理由を述べても君は納得しないだろうから、一度対戦してみるといい。サカイ殿、よろしいですか?」
いいですか?と聞かれて、嫌です!とは言えないよね。
女性と対戦するのは初めてだけど、手加減が難しいかも……
⦅こやつは、それなりの実力者じゃぞ⦆
そうなんだ。どれどれ……
【名称】 レイチェール・ワッツ/24歳
【職業】 シトローム帝国 宮廷魔導師団 副師団長
【レベル】 55
【魔力】 54
【体力】 35
【攻撃力】 魔法 53
物理 28
【防御力】 41
【属性】 火、水、光
【スキル】 製薬、探知、空間
へえ、光属性を持っている人を初めてみたかも。
この若さで副師団長を務めているだけのことはあるな。
でも、ザムルバさんのほうが魔法の能力だけで見たら上なのに、役職に就いていないのはなぜだろう?
「サカイ殿、よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ」
まずは様子見から……なんて思っていたら、初手からいきなり火球と水球の連続攻撃が来たぞ!
⦅ホッホッホ、なかなか勇ましい女子のようじゃ⦆
笑っている場合じゃないだろう。
とりあえず、いつもの土壁で防ぎつつ攻撃方法を探るか。
と、その前に一つ確認だ。
「宰相さん、この試合の勝敗はどのように決めるのでしょうか?」
「これは失礼いたしました! 相手を降参、もしくは戦闘不能とした方の勝ちとします」
「わかりました」
そうとわかれば、さっそくやりますか。
相手の攻撃をこちらも水球で応戦しつつ、アンディに教えてもらった『土魔法で相手を戦闘不能にする方法』を実践だ。
えっと、縄をイメージして……
これは、ルビー誘拐事件のときにアンディが犯人たちを縛り上げた方法。
土魔法でそんなこともできるのかと、目から鱗だったよ。
地面から現れた棒が、ワッツさんをぐるりと縛る。
もちろん、犯人を縛るわけではないから緩めでね。
うん、初めてにしてはなかなか上手くできたんじゃない?
「勝負あり。勝者、サカイ殿!」
宰相さんの判定で、試合は終了。
攻撃の途中で縛り上げられたワッツさんは呆然としているし、周りで観戦していた魔導師さんたちは皆、無言になっていた。
「あの……サカイ殿、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
後ろにやって来たリーダー格さんが、俺にこっそり話があるみたい。
なんだろう?
「私にはまったく詠唱が聞こえなかったのですが、まさか……」
「俺は、詠唱はしませんので」
「なるほど、だから発動もあんなに早いのですね」
さすが(勇者様)です!と、キラキラした瞳で護衛さんたちから言われてしまった。
一応、勇者としての面目は保てたということでいいのかな?
「……ザムルバ、おまえはサカイ殿を鑑定できたのか、正直に答えよ」
急に筆頭さんから話を振られたザムルバさんが、びっくりしている。
「い、いえ、私はできませんでした」
「ワッツ副師団長、そういうことだ。わかったな?」
「……はい」
ワッツさんは、納得したみたい。
ところで……ザムルバさんはたしかレベル67だったから、俺がそれ以上だと周知されちゃったけど大丈夫なの?
皆がざわざわし始めて、収集がつかなくなっているぞ。
俺の周囲にいるヤンソンさんたちからも、「はあ…」と感嘆のため息がもれた。
「それにしても、衛兵からは誰も名乗りを上げぬとは……皇帝陛下がこの場を設けてくださったというのに、実に嘆かわしいことだ」
この親善試合は、衛兵さんたちに経験を積ませようという皇帝の親心なんだとか。
でも、俺はそんな話を全く聞いていませんけど?
それに、俺のレベルを知ったから、余計に言い出しにくくなったんじゃ……
「……宰相様、不肖ながら私カレブが名乗りを上げさせていただきます!」
「カレブ副軍団長、よくぞ申した。よろしく頼むぞ」
前に出てきたのは、緋色の髪をなびかせた細マッチョなお兄さんだった。
筋肉モリモリの人だと、誰かさんたちのせいでどうしても脳筋イメージが付いて回るよな。
この人は、どうなんだろう?
【名称】 カレブ/31歳
【職業】 シトローム帝国 第三軍団 副軍団長
【レベル】 54
【魔力】 52
【体力】 60
【攻撃力】 魔法 41
物理 56
【防御力】 62
【属性】 水、土
【スキル】 液操作
う~ん、やや脳筋というところかな。
それで、『液操作』という初めましてのスキルがあるけど、マホーは知っているか?
⦅う~む。昔、対戦した相手が持っていたような気もするが……なんじゃったかのう?⦆
覚えていないのかよ!(ツッコミ)
⦅まあ、戦っておる間に思い出すじゃろう⦆
じゃあ、頑張りますか。
細マッチョさんは剣で攻撃しながらも、土魔法で土埃を出して俺の視界を悪くする作戦に出てきた。
ふむふむ…こういう使い方もあるのか。
土魔法は様々な使い方ができるから、使い勝手が一番良いかもしれないな……なんて、風を起こして土埃を吹き飛ばしながら思った。
でも、油断をしているわけではないよ?
『液操作』が何か、わからないからな。
細マッチョさんの剣撃は、早さはないけど一撃一撃が重いようだ。
防御用の土壁が、どんどん削り取られていく。
⦅こやつ、詠唱を始めたようじゃのう⦆
そろそろ、魔法攻撃が来そうだな。
『液操作』ということは、何かを液状化するとか?
⦅それじゃ! おぬし、足元に気を付けよ!!⦆
足元?と思った次の瞬間、俺はずぶずぶと地面に沈んでいった。
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