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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た
65. 毒草の駆除とアンディの告白
しおりを挟む今日は良い天気だ。
あちらの世界で言うところの、『秋晴れ』ってやつ。
俺は、帝都郊外に広がる草原に来ていた。
目的は、この辺りに自生する毒草を駆除するため。
気候の良い季節にグングンと勢力を伸ばした毒草は花が枯れ、これから綿毛を付ける時期となる。
風に飛ばされ周囲に毒草の種が拡散しないよう、毎年この時期になると宮廷魔導師団が行う恒例行事なんだとか。
ここまでしても、毒草は全滅することなくまた来年には芽を出してくるのだから、その生命力は凄まじいものがあるよな。
それで、その手伝いに俺も駆り出されたというわけ。
⦅今回は、『皇帝との謁見』を餌にされたのじゃろ?⦆
しょうがないだろう。
宰相さんから「勇者様、皇帝陛下との謁見の日取りが決まりました。ところで、お願いがあるのですが……」なんて一緒に話を持ち出されたら、非常に断りにくいもんな。
まあ、皇帝に謁見して、その場で正式に帰国の許可を得たら帰れるんだからさ。
日にちは来週と決まったし、あともう少しの辛抱だ。
◇
総勢五十名ほどの魔導師たちを取り仕切っているのは、副師団長ことワッツさん。
本当は師団長さんが参加するはずが急な体調不良となり、残りの魔導師たちと宮殿の留守を預かっているとのこと。
俺の傍には、アンディとトーラ。護衛さんたち。そして、ザムルバさんがいる。
さっきこっそり聞いた話によると、ザムルバさんは師団長から俺の接待担当に任命されたらしい。
「私の主な仕事は魔道具の管理ですから、宮殿を出ることなど滅多にありません。ですから、たまには外に出るのも気分転換になって良いものですね」
そう言って笑っていたけど、彼ほどの実力者が第一線ではなく閑職に配属されているのには、なにか大人の事情がありそう。
もちろん、その事情が何かなんて俺は聞かないよ。
それに、まったく面識のない人に担当されるより、俺の事情を知っているザムルバさんのほうが有り難いし。
広い草原をエリアごとに区切り、班ごとに分かれて毒草の駆除を行っている。
魔導師さんたちは数名で一つのグループだけど、俺とザムルバさんは二人だけ。
つまり、それだけの魔力を持っていると認識されているということ。
⦅おぬしらは氷魔法も使えるでのう、一人二役ということじゃ⦆
そういうことだね。
毒草の駆除は、まず火魔法の使い手が燃やし、次に水魔法の使い手が周囲に延焼しないようすぐに消火。
それをひたすら繰り返している。
でも氷魔法なら、草を凍らせて即終了。
そのまま放置しても、氷が融けるころには細胞が壊死しているからまったく問題はないもんな。
◇
午前中の作業は順調に進み、昼休憩の時間になった。
俺は、ケイトさんが用意してくれた特製のお弁当(といっても超豪華なやつ)を広げる。
量が沢山あるから、ヤンソンさんやザムルバさんへもおすそ分け。
ケイトさんは俺の行動を熟知しているのか、取り分けしやすい物ばかりが並んでいる。
さすが、侍女の鏡だね。
護衛さんたちが交代で立ち食いしているから、「傍にアンディもトーラもいますから、ご飯のときくらい座って食べてください」と言ってみたけど、「職務ですから」と言われてしまった。
最近トーラは、俺の膝の上にいることが多い。
やっぱり、ルビーの膝が恋しいのかな?なんて思っている。
「サカイ殿、よろしければ皆さんでお飲みください」
ワッツさんが持ってきたのは、ポットと木のコップだった。
「ワッツ領で栽培している茶葉から作られた特産品の紅茶ですので、お口に合えばよろしいのですが」
「ありがとうございます」
ワッツさんは、まず最初に護衛の前でポットの紅茶の毒味をする。
それを護衛も飲んで確認したものを、すべてのコップへ注いだ。
「ほう、これは香りの良い紅茶ですね……」
ザムルバさんが美味しそうに飲んでいるから、俺もさっそくと手を伸ばしたら急にトーラが勢いよく起き上がり、弾みでコップを倒してしまう。
「サカイ殿! 火傷はされませんでしたか?」
「俺は大丈夫ですが、せっかくの紅茶が……」
「まだ、あちらにもございますので、すぐに持って参ります!」
ごめんなさい、ワッツさん。ご面倒をおかけします。
トーラはくるっと向きを変えると何事もなかったかのようにまた俺の膝で昼寝を始め、そんなトーラの頭をアンディが撫でている。
新たに受け取った紅茶を慎重に口元へ持っていくが、今度はトーラは動かず、俺は無事に美味しい紅茶を飲むことができた。
「来週、サカイ殿は皇帝陛下へ謁見されるそうですね?」
「あっ、えっと……そうなんですか?」
ワッツさんの問いかけに、思わずとぼける。
宰相さんからは、勇者が皇帝陛下と謁見すると大々的に公表してしまうと、またいろんな憶測を生んでしまうから内密にと言われていた。
でも、完全に情報が洩れているぞ……
「皇帝陛下から、正式に『師団長』の地位を拝命すると聞いております」
「えっ!?」
「まあ、サカイ殿の実力であれば、納得ですが」
いやいや。
まだまだ現役の方(師団長さん)がいらっしゃるのに、なんで俺が任命されるんだ?
そもそも、副師団長のワッツさんだっているのに。
「俺は村へ帰るから、余計な役職は絶対にいりません!」と声を大にして言いたい。
でも、宰相さんから「勇者様がこの国からいなくなることは、まだ口外しないでください」と言われているから言えないけど。
この国で俺の事情をすべて知っているのは、ザムルバさん。
俺がいなくなることを知っているのは、護衛さんたちとケイトさんのみ。
国民へは、勇者のことは公表されていないと聞いている。
だから、『勇者様は、お帰りになられました!』と貴族たちに事後報告するのだと思っていたけど、違うのか?
皇帝が何を考えているのか、さっぱりわからん。
⦅このまま、いいように利用されねばよいが……⦆
そうなんだよね。
⦅一度、あやつに聞いてみるのはどうじゃ?⦆
アンディに、お父さんのときはどうだったのかを?
まあ、実の息子だもんな……
⦅あまり、乗り気ではないようじゃな?⦆
う~ん。
これまでのアンディの様子を見ていると、一番最初に勇者の子供って聞いたあとは一切話が出ない。
それが、ちょっと気になっていて。
⦅おぬしに、気を遣っているだけではないのか?⦆
たとえば、俺が母親と再婚して義理父に…というならわかるけど、本当の父親になったわけじゃないから気を遣う必要はないよな?
おそらく、話題にしたくないんじゃないかなって……
俺自身も、小学生のときに両親のことを友達から聞かれるのが嫌だったからね。
そもそも、アンディはどうしてアンデッドになったんだろう?
霊が成仏せずにこの世に留まるのは、何か思い残しがあるからだと俺は思っている。
それが、家族に対する思慕ならわかるけど、アンディが居たのはシトロエンデ帝国ではなく他国だった。
それが、何を意味しているのか……
◇
離宮に戻った俺は、就寝前にいつものように出かけようとしたアンディを呼び止める。
「アンディのお父さんについて、尋ねたいことがあるんだ」
父親が召喚されてから母親と結婚するまでに皇帝とどんなやり取りがあったのか、知っていることがあったら教えてほしいと聞いてみた。
≪私も、昔のことはあまり知らぬだ。何分、子供であったからな≫
「そうか、そうだよな」
普段が大人びているからついつい忘れてしまうけど、アンディはまだ七歳。
体の大きいトーラだって、中身は子供だもんな。
≪父上は、その……元の世界に戻るつもりはないと言ったが、その気持ちは今も変わっていないのか?≫
「うん。アンディやトーラをこちらの世界に置いたまま、俺がいなくなることはないよ」
≪…………≫
「出かけるところを呼び止めて悪かったな。やりたいことがあるんだろう? 俺はもう寝るから、いってらっしゃい!」
俺がベッドに横になると、大型トーラはいつものようにその真横の床にごろんと寝転がる。
彼は何回か寝返りをうって、しっくりくる体勢を決めるんだけど……
ちょっと、トーラさん。
やっぱり、お腹の肉が少々弛んでいますよ?
≪……私は、父上の本当の子供であったら良かったのにな≫
(!?)
バルコニー側の壁をすり抜けようとしたアンディが、急にそんなことを言う。
彼にしては、珍しく弱気な発言。
これまでは『親しき仲にも礼儀あり』だと、プライベートなことには口を出さないようにしていた。
でも、ここは踏み込むべきだな。
「昔、ご両親と何かあったのか?」
≪…………≫
「その……無理に聞き出すつもりはないんだ。もしアンディが話したくなったら、俺はいつでも話を聞くからな」
今日は、このくらいにしておこう。
無理強いはよくないし、あとはどうするか本人が決めることだから。
≪私は、父上に……見捨てられたのだ≫
「……えっ?」
それは、俺が想像もしていなかったアンディの告白だった。
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