目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

74. その後の、あれこれ

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 マホーが消滅せずに戻ってきた。
 それが、ただただ嬉しい。

「アンディ、拘束を解いてやってくれ」

≪了解した≫

 マホーを抱き起して、まずは口の周りを回復魔法で治療する。
 なんせ、血だらけだったからね。

「勇者様、よろしいのですか? ジノムが、そのマホーという方に成りすましている可能性も……」

 ザムルバさんの懸念は理解できる。
 マホーがジノムではないと証明するため、アイテムボックスから書物を何冊か取り出した。
 大魔法使い様が五百年もの間に集めた、英知の結晶。
 それを、声に出して読んでもらう。
 ザムルバさんは古語に精通しているから、「ジノム本人であれば、これほど流暢に読むことはできませんね」とすぐに納得してくれた。

「あの……私では少々理解が追いつかないのですが、マホー殿は自我を持ったスキルということですか?」

「まあ、簡単に言えばそういうことです」

 マホーは、自分の『DNA』が蚊に取り込まれたからではないか?と言っていた。
 でも、この事象がマホーだけのことなのか他の人でも起こり得るかは、『蚊奪取』が消えてしまった今となっては検証は不可能だ。

「それで、ジノムのほうはどうなったのでしょう?」

 俺も、それは気になっていた。
 マホーに乗っ取られたから、やっぱり……消滅?

「あやつなら、おるぞい。『体を返せー!』と、ずっと騒いでおる」

「だったら、また取り返されるかもしれないのか……」

「それは大丈夫じゃ。もう、スキルは消えてしまったからのう」

 スキル?
 どういうことだ?と尋ねたら、こっちの世界に戻ったときにマホーも固有スキルをもらったとのこと。
 その名も、『乗取のっとり』。
 行使できるのは一度きりだが、対象者の体を乗っ取ることができるという何とも恐ろしいスキルだった。
 儂の願望が叶ったのじゃ!とマホーはご満悦だけど、もしかして俺が乗っ取られていた可能性もあるんじゃ……

「大切な家族である弟子に、儂がそんなことをするわけなかろう! 前にも言ったが、この国にいる間に人材を吟味して、あちらに帰る前におぬしの中から出ようと思っておったのじゃ」

 どうして、村に帰る前なんだ?
 なにか、理由でもあるのか?

「儂がいつまでもおぬしの中におると、これからいろいろと不都合が出てくるじゃろうからな。さすがの儂でも、『空気は読める』ぞい。『人の恋路を邪魔するやつは……』ってことじゃな」

 ……うん?
 言っていることはよくわからんが、とにかくマホーの願いが叶ったならよかった。

「目を付けておった者は、何人かいたのじゃ。たとえば、こやつとかな……」

 マホーが視線を向けたのは、なんとザムルバさん!
 たしかに、彼の能力を高く評価していたよね。

「わ、私ですか?」

 こらこら、マホー。
 ザムルバさんがめっちゃ引いているから、名残惜しそうに見るのはやめなさい!

 二人をすぐさま引き離し、マホーから話を聞いた。
 こちらの世界に戻りマホーの意識が戻ったときには、すでにジノムの中にいて暴走が始まっていたらしい。
 俺たちへ全力攻撃を仕掛けるジノムを内側から抑え、アンディに取り押さえてもらうことに成功。
 俺からの呼びかけで『蚊召喚』を発動させ脱出を試みたところ、ジノムが蚊を成敗しようとしていることに気付き、やむなく『乗取』を発動させる。
 それは、まさに間一髪の出来事だった。
 
「おぬしの懸念を覚えておったおかげで、助かったわい」

 ……と、俺は深く感謝されたのだった。


 ◇◇◇


 物語では『悪者を捕まえて、一件落着!』で終わるけど、実際は後始末が大変だ。
 まず、俺たちが部屋で倒れている人たちを起こしている間に、ザムルバさんにお願いをして師団長さんを通じて宰相さんへ極秘に連絡。
 なぜ極秘かというと、いろいろなことが同時に起こりすぎて、すべての出来事をおおやけにしてもよいかどうか俺では判断できなかったから。
 
 決して、丸投げをしたわけではないぞ?
 そして、やはりこの行動は間違ってはいなかった。


 ◇


 後日、国から公式に発表されたのは以下の通り。

 一、宮殿内で突如発生した副師団長の体内魔力暴走により、周囲にいた者が昏睡状態に陥ったこと。
 二、偶然居合わせた勇者により大事には至らなかったが、勇者がケガを負ったこと。

 以上の二点だけで、副師団長の逆恨みによる勇者送還儀式やジノムの勇者スキル強奪については、一切触れられていない。
 事実を公表すれば周囲へ与える影響は計り知れず、宰相さんからは「申し訳ございません」と謝罪されてしまったが、俺に不満はない。
 だって、当事者を処罰されてしまったら(ジノムの姿をした)マホーが罰を受けることになってしまうからね。

 ただ、全くお咎めがなかったわけではないようだ。
 ワッツさんは表向きは宮廷魔導師団を辞めて領地で静養するとのことだが、事実上の幽閉の身となるらしい。
 どうやら、国の上層部とワッツ侯爵家の間で何らかの政治的な取引があったっぽい。
 事実を公表せずワッツ家の名誉を守る代わりに、未来永劫まで皇家への忠誠を誓わされたのではないか?とザムルバさんは言っていた。
 でも、もともと先祖代々皇帝に仕えてきた名家だから、これまでと何も変わらないよなと思っていたら、アンディいわく≪『忠誠』の意味合いが違うのだ≫とのこと。

≪おそらく、皇帝の忠犬になったのであろう≫

 主の言うことであれば何でも「かしこまりました」と言うことを聞く、飼い犬に成り下がったというのだ。

≪名家だからこそ、自尊心も強い……あの女がそうであったように。だから、ある意味、皇帝にとっては目の上の瘤 (こぶ)だったであろうな≫

 なるほどね。
 忠誠は誓っているけど、これまでは国へ言いたいことも言ってきた。
 それが、絶対服従の『イエスマン』になったというわけか。
 皇帝はこの一件で、強力な手駒を手に入れたってこと。
 
 ホント、この国の皇帝陛下(と宰相さん)はなかなかやりますな。
 一般庶民の俺では、到底太刀打ちできないね。

「でも、あやつらのおかげでジノムも放逐されたのじゃから、感謝せねばなるまい」

 まあ、そうだな。
 あの事件以降、マホーは離宮の俺の部屋に滞在している……勇者の従者として。

 ジノムが勇者の従者となった(表向きの)経緯いきさつはこんな感じ。
 あの日、ザムルバさんと魔道具を運んでいたジノムは異常魔力暴走を感知して、二人で現場に駆け付けた。
 勇者に協力して三人で魔力暴走を抑えることには成功したが、これが原因でジノムの体内魔力等々が消失。
 宮廷魔導師団を辞めざるを得なくなった。
 そんなジノムを、俺が従者として引き取ったというわけ。

 ジノムの実家の男爵家には、宰相さんが事実を報告している。
 呼び出しを受けた現当主の父親は息子の仕出かしたことに卒倒したそうだが、ワッツ家と同じでこちらも表沙汰にはしない。
 その代わり、ジノムを一族からの放逐…つまり、勘当処分を申し付ける → 即決となったそう。
 家の取り潰しも覚悟していた父親は、皇帝の寛大な処分に涙を流したと聞く。
 息子と縁を切れと親へ命令することに関しては、両親のいない俺的には複雑な気持ちだったが、これを受け入れなければ連座制が適用されるのだとか。
 ルビー誘拐事件のときもそうだったけど、当人以外の家族がとばっちりで罰を受けるのはイヤだから、これで良かったのだと自分を納得させた。


 ◇


「それで、我々はいつまでここに待機しておればいいのじゃ?」

 俺たちがいま居るのは、離宮ではなく宮殿内にある控え室。
 俺はいつものように着飾られていて、隣に座っているマホーは宮廷魔導師の制服を着ている。
 そう、これから延期になっていた皇帝への(非公式な)謁見があるのだ。

「あちらの準備が整えば、すぐに呼ばれるだろう。その前に、マホーへ言っておくことがある」

「おぬしに言われずとも、儂はおとなしくこやつらと後ろに控えておるから安心せい。弟子に恥をかかせるようなことはせん」

 マホーは、自信満々に宣言したけど……
 アンディやトーラについては何も心配していないが、うちの師匠に関しては不安要素しかない。
 これまでは、俺の脳内だけで好き勝手にやっていたから問題はそれほどなかったけど、『人』として外に出てしまったからな。

≪父上、爺(じい)は私が目を光らせておるから、安心してくれ≫

「アンディ、世話をかけて申し訳ないが、このおじいちゃんを頼むな!」

「おぬしは、また爺さんと言うたな。あれほど、年寄りを敬えと言うておるのに……」

 マホーは、俺が『爺さん』と言うと怒るくせに、アンディが『爺』と呼ぶことには何も言わない。
 普段の二人のやり取りを観察していると、俺とじいちゃんみたいに、ちょっと頼りない祖父の面倒を孫が見ているって感じ。
 懐かしい光景に少々目が潤んだのは、俺だけの内緒の話。
 表向きの年齢は、ジノムが二十五歳でアンディが七歳(実年齢は、マホーが五百歳でアンディは六百歳くらい?)。
 事情を知らないケイトさんや護衛さんたちは、不思議な関係を構築している二人に首をかしげているけどね。
 
 不敬なことをやらかすのではと俺が今からハラハラしていると、コンコンとドアがノックされた。

「勇者様、大変お待たせいたしました」

 ああ、ついにキター!
 マホーへ無言の視線を送ると、うんうんと大きく頷いている。
 本当に、大丈夫なんだろうな?
 アンディへ再度マホーのことをお願いして、俺たちは席を立ったのだった。


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