目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン

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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た

75. 皇帝への謁見

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 俺たちが案内されたのは、大広間でも小広間でもない部屋。
 玉座などはなく、本当にごく普通の部屋だ。
 指定された席に俺は座り、後ろに二人と一匹が控える。
 
 そして、やって来たのは三人の男性。
 外に護衛兵士さんたちはいるけど、部屋の中にいるのは俺たちとその三名だけ。
 本当にわずかな人数だけで、謁見というより極秘会談の雰囲気だね。
 宰相さんと息子のエドワーズさんの顔はわかるから、中央に座ったこの人が……

「こちらにおわすお方が、シトローム帝国リーラック・テンタレス皇帝陛下でございます」

 ライデン王国の国王と同じような年代の、こちらは凛々しい顔立ちをした壮年の男性。
 かなり日焼けをしている彼は、日々精力的に活動をしているような印象を受けた。

「初めまして。私は、サカイと申します」

「フフッ、やはり気付かぬか。余が其方と会うのは、今日が三回目であるぞ」

「どちらかで、お会いしたのでしょうか? まったく記憶がないのですが……」

 ワッハッハと楽しげに笑う皇帝は、いたずらが成功して喜んでいる子供みたい。
 『皇帝』というと、冷徹とか冷酷な独裁者のイメージがあるから緊張していたが、案外気さくな人なのか?
 それにしても、すでに二回会っていると言われたけど……はて、どこで?

「……陛下、少しは威厳を」

「他国の使者であれば余も取り繕うが、勇者殿の前では構わぬであろう?」

 後ろに控える宰相さんの苦言にも、どこ吹く風のようだ。
 そういえば、宰相さんは後ろで立ったままなのに、息子のエドワーズさんが皇帝の隣に座っているのは、なぜ?
 着ている衣装も、いやに煌びやかだけど……

 俺の視線に気付いたエドワーズさんが、にこりと微笑む。

「勇者様、私はあなたに嘘を吐いておりました。私の本当の名は、シーラック・テンタレスと言います」

「『テンタレス』ということは、もしかして……」

「シーラック様は、皇太子殿下にあらせられます」

 マジですか!
 たしか、皇太子は数年前から他国へ留学中と聞いていたぞ。
 そんなあなたが、なぜ文官のような真似を?

「勇者様が我が国に現れたと聞き、身代わりを置いて極秘に帰国しました。あのような真似をしたのは、あなたという人物を見極めるためです」

 皇帝や皇太子にとっても、勇者が召喚されたことは寝耳に水の出来事だった。
 自国の歴史は王位継承者が学ぶべき教育の一つで、数百年前にも勇者召喚が行われたことは知っていたが、まさか自分たちの時代に儀式が行われるなど想定もしていなかった。
 しかし、勇者が召喚されてしまった以上、何らかの対策を講じなければならない。
 伝承によれば、先の勇者は計り知れない能力を持っていたとある。
 もし、その力が善行ではなく悪行に利用されてしまったら……国内外へ被害を及ぼす前に、召喚国の責任として身柄を確保する義務がある。
 こうして、勇者の捜索が開始され、俺自らがこの国へとやって来た。

「宰相と一緒に其方の能力を確認したときは、我が目を疑った。まさか、召喚されて半年足らずでこれほどとは」

「えっ、まさか皇帝陛下も、文官の恰好をされていたのですか?」

 宰相さんの部下のような顔をして後ろで控えていた壮年のイケメン文官さんが、皇帝だったんだ。
 だから、能力鑑定のときと親善試合のとき、今日を合わせて合計三回ということか。
 でも、親善試合のときは誰も皇帝と気付いていなかったみたいだけど……

「堂々としておれば、案外気付かれぬものだぞ」

 それって、威張って言うことじゃないよな。
 ほらほら、宰相さんも渋い顔をしているぞ。
 皇帝によれば、親善試合が終わったら、身分を明かさないまま俺を帰国させてくれる予定だったらしい。
 でも、ジノムが余計なことをして計画が狂い、結果、大事件まで起きてしまった。

「父上や宰相は、あなたは害のない人物だと判断しました。しかし、私は自分の目で直接確かめたかったのです」

 こうして、シーラック皇太子はエドワーズさんに成りすまし、お披露目パーティーに同行することを決める。
 ちなみに、本物のエドワーズさんは皇太子の留学先に同行していて、今は身代わり役をやらされているんだって。
 二人は遠戚関係でもあるから顔つきは似ているらしく、瞳の色も同じ。
 皇太子は「髪を染めてしまえば、貴族は誰も私だとは気付かなかった」と笑っているけど……うん、似たもの父子だな。
 宰相さんは、さぞかし苦労しているんだろうなとちょっぴり同情してしまった。
 お披露目パーティーではいろいろあったけど、俺は信頼するに足りる人物と皇太子も判断してくれたみたい。


 ◇


「帰国を許可する前にこのような非公式の場を設けたのは、其方に直接確認したいことが三つあったからだ」

 そう言うと、皇帝は俺の後ろに控える二人と一匹に目を向ける。

「まずは一つ目。そこに控える従魔の飼い主が、魔獣の返還を求めておる。副師団長が、相手方へ情報を漏らしたようでな」

 俺を送還したあと、ワッツさんはアンディを浄化、トーラは元の飼い主へ返還する計画も立てていて実行した。
 幸いそっちの計画は失敗に終わったが、一歩間違えば一家離散の危機だったんだよな。
 勇者が自分の婿にならず、密会していた他貴族の令嬢と結婚すれば、師団長の座は奪われ先祖と同じ道を辿る……なんて思い込んで犯行に及んだわけだけど、嫉妬というのは本当に恐ろしいね。

「トーラは私の大切な家族ですので、飼い主の方へは金銭でどうにか話をつけたいと思っています」

 トーラ、そんな不安そうな顔をしなくても、俺はお前を絶対に手放したりはしない。
 相手の言い値で買取りたいと言ったら、皇帝は首を横に振った。
 でも、金銭以外で俺が相手に差し出せるものなんて……

「誤解するでない。魔獣は、副師団長の魔力暴走に巻き込まれて死んだのだ。宰相、それで良いな?」

「はい。陛下の仰せのままに……」

 えっ、本当にそれでいいの?
 こちらとしては、非常に有り難いけど。
 
「其方には、大きな『借り』があるのだ。だから……わかっておるな?」

 ああ、なるほど。
 これで、お互い貸し借りはなし。
 ついでに、帰国後もこの国での出来事をむやみに口外するなってことね。
 もちろん、俺も自分が勇者だってことを言うつもりはないから、それも大丈夫。

「次は、ジノムのことだが……本当に、問題はないのだな?」

「はい。彼の中身は私の師匠ですので、今後も人や国に害を与えるようなことは絶対にありません!」
 
 ここは、きっぱりと言い切っておく。
 宰相さんへは、俺の固有スキルがジノムの体を乗っ取ったと事実を報告済み。
 そのときに、もし人格がジノムのままだったら死罪が確定していたと言われた。
 国や国民の脅威となり得る人物を生かしておくのは、それだけリスクが高まるから、当然といえば当然の判断なのかもしれないが。
 ジノムは自業自得だが、マホーが道連れにされなくて本当に良かった。
 
「儂が、『世界征服』などするわけがなかろう。これから、弟子や孫弟子の指導に忙しくなるのじゃからな」

「マホー、勝手にしゃべるんじゃない!」

≪……爺、父上を困らせてはならぬぞ≫

「それは、すまんかったのう……」

 俺ではなくアンディに言われたらすぐにしおらしい態度になるけど、この違いはなんなの?
 少しむくれた俺を見て、皇太子がクスッと笑った。

「こちらのアンディ…いや、アンドリュー・ソネザキ殿がいらっしゃれば、大丈夫ですね」

≪其方は、私の正体に気付いていたのか?≫

「宝物庫の中に、先の勇者様とご家族の肖像画が収蔵されておりまして、私は以前からお顔を存じ上げておりました」

 皇太子の話に、皇帝も大きく頷いている。
 なるほど。
 だから、俺が先の勇者の子孫に会いたいと言ったときも、非常に協力的だったわけか。

「先の勇者の子息とのちの勇者が出会ったのは、運命的なものであろうな」

 たしかに、運命的な出会いと言ってもいいかもしれない。
 俺は、アンディのお父さんが息子の誤解を解いてもらおうと、俺たちを引き合わせたのだと勝手に思っているけどね。

「其方が希望すれば、ソネザキ家へ爵位を与え、貴族として再興させることもできるが?」

 どうする?とアンディへ視線を送ったら、彼は迷うことなく首を横に振った。

≪私は望まぬ。リョーマは、今の暮らしに十分満足しておるからな。それに、人にはそれぞれ適性があるのだ……この世界の父上のように≫

 アンディはそう言うと、フフッと笑ったのだった。







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