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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た
76. 男子の買い物 in 帝都
しおりを挟む皇帝から正式に帰国の許可をもらった俺は、約二か月間滞在した部屋の掃除をしていた。
『立つ鳥跡を濁さず』って言うからね、最後は綺麗にして出ていきたい。
ケイトさんは、何も言わず掃除を手伝ってくれていた。
移動させた家具を元の位置に戻したのは、アンディが新たに召喚した眷属たちだ。
以前のスケルトンではなく、ちゃんと人に見える者たち。
リョーマから聞いた情報をもとにコツを掴んだアンディは、自分と同じように日中の屋外でも活動できる眷属を使役できるようになった。
これなら、村へ帰ってから眷属たちにも村の整備を手伝ってもらえる。
後回しになっている外壁を広げる作業が、グッと進みそうだ。
そして、正式に村の住人となるこの機会に、俺はアンディとトーラの正体を皆へも明かそうと思っている。
リョーマの住むランプト村みたいに、村人たちにもありのままを受け入れてもらいたい。
ただ、俺自身については、帝国でいろいろあったこともあり慎重に見極めてからだけどね。
◇
離宮の俺のもとにザムルバさんがやって来たのは、シトローム帝国を出立する前日だった。
「勇者様の帰国のご希望が叶いましたこと、お喜び申し上げます」
「ありがとうございます。いろいろありましたが、無事に村へ帰ることができてホッとしています」
そうそう、ザムルバさんにもおめでたいことがあったんだよな。
「聞きましたよ。副師団長への就任が決まったそうですね? ザムルバさんこそ、おめでとうございます」
ワッツさんが辞職し、その空いた席にザムルバさんが収まることが決まったのだとか。
まあ、彼の実力から言えば当然で、むしろ遅かったくらいだけどね。
「いいえ、それは辞退いたしました。私は宮廷魔導師の職も辞し、田舎へ帰ります」
明日、俺を見送ったら、ザムルバさんも宮廷を出て行くんだって。
でも、どうして?
「今回の騒動の発端は、すべて私の軽率な行動が招いた結果です。それなのに、副師団長への就任など……この事態を重く受け止め、生涯田舎に蟄居し反省の日々を過ごす所存でございます」
「…………」
「結局、勇者様に対してもなんの償いもできず、誠に申し訳ございません。こちらは、せめてものお詫びの気持ちです。どうぞ、お納めください」
ザムルバさんが差し出したのは、革袋に入った金貨だった。
「……あなたのお気持ちは、たしかに受け取りました。でも、こちらは必要ありません」
俺は金貨の入った袋を、彼の前に戻す。
召喚されてしまったことを、今あれこれ考えたところで意味はない。
過去のことは水に流し、これからのことに目を向けようと俺は決めた。
それに、強制送還からこちらの世界に戻る選択をしたのは俺の意思だから、もうザムルバさんにはなんの関係もない。
今の俺は金銭的に困ってはいないし、村へ戻ったら正規職員として就職する。
扶養家族が増えたし、これからバリバリ働くつもり。
だから、お金も必要ない。
「でも、それでは私の気持ちが済みません……」
「……で、あれば、おぬしも一緒に村へ来ればよいのじゃ。魔法の才を活かし、村の発展に寄与せよ。それが、償いにもなるぞい」
≪爺の申す通りだ。今後は、父上と村のために働けばよいのだ≫
「…………」
「こら! 二人で勝手なことを言うんじゃない。ザムルバさんだって、いろいろ事情が……」
「……もし、勇者様からお許しいただけるのであれば、私も是非お供させていただきたいです」
「えっ? でも、田舎にはご家族がいらっしゃるのでは?」
「妻子も兄弟もいない私は、両親亡き今、天涯孤独の身ですので」
そうか、ザムルバさんも俺と同じ境遇なんだな。
俺がこっちの世界へ戻って来たのは、新たな家族と共に生きていくためだった。
「でしたら、ぜひ村に来てください。ザムルバさんほどの優秀な人材を埋もれさせておくのは、『宝の持ち腐れ』ですからね」
「ありがとうございます。私の生涯を懸けまして、勇者様にお仕えしたいと存じます!」
あっ、えっと……俺にじゃなくて、村に貢献してくださいね!と念を押しておく。
そういえば、ザムルバさんは勇者に対して憧れがあ(りすぎ)る人だったなと思い出す。
俺は村では正体を隠しているから『勇者』と呼ばないでくださいと伝えたら、「では、カズキ様と……」と言われたから、「様付けは禁止です!」と再び念押ししたのは言うまでもない。
◇◇◇
翌日、ケイトさんやヤンソンさんらお世話になった方々へ礼を述べ、俺たちはひっそりと離宮を出た。
宰相さんによると、『勇者は魔力暴走事件で負った傷が癒えず、他国で静養することになった』と後日公表がなされるとのこと。
使用人用の通用門を抜けたところで、俺は「う~ん」と大きく伸びをした。
やれやれ。ようやく、勇者から魔法使いの弟子としての生活に戻れるな。
今の俺は一般庶民の恰好をして、その上からローブを羽織り、アンディの壺とトーラの入ったリュックを背負っている。
髪色や顔を隠すための帽子は、こっちの世界に戻る途中で紛失してしまったから、仕方なくフードを被った。
帝都を出るまでは、あまり顔を見られないようにしないとね。
俺の隣には、同じく庶民の恰好をしたマホーと、後ろに旅装姿のザムルバさんがいる。
マホーは落ち着きなく辺りをきょろきょろと物珍しそうに眺めていて、目についた店に片っ端から出入りを繰り返す。
少しでも目を離すと、大人なのに迷子になりそうだね。
もともと脳内にいるときから好奇心は旺盛だったから、自分で好きなところへ行けるのが楽しくて仕方ないのだろうな。
いつも面倒をみてくれるお孫さんは、今は人目を避けるために壺の中に居るから、俺が代わりに目を光らせていた。
「あの、勇…カズキさんは、買いたい物があるのですよね? 私がマホー殿に付いておりますから、どうぞ目的の店へ行ってきてください」
「でも……」
「儂は、一人でも大丈夫じゃわい。おぬしは、ルビーへの土産を早く買ってくるのじゃ」
いやいや、マホーは何を言ってるの?
危なっかしいから、一人になんて絶対にしないぞ。
でも、ルビーへの土産は買いたいから……
「ザムルバさん、すみません。すぐに行ってきますので、マホーをよろしくお願いします!」
「かしこまりました」
ザムルバさんへトーラごとリュックを渡し後を任せると、俺は急いで目的の店へ向かった。
◇
ケイトさんから教えてもらった店は、帝都の目抜き通りからは一本奥に入った通り沿いにあった。
「『ヴィヴィアン装飾品店』……ここだな」
メモで店名を確認してから、中へ入る。
不審者と思われないよう、店内ではフードを脱いだ。
ライデン王国の王都にあった店よりは規模が小さいが、それでも、陳列されている商品の数は負けていない。
国が違うからか、同じ髪留めでもデザインが異なっており、ついつい見入ってしまった。
「いらっしゃいませ。本日は、髪留めをお探しですか?」
声をかけてきたのは、上品な中年の女性だ。
おそらく、この店の店主なのだろう。
「あっ、えっと……今日は、土産用の指輪を買いにきました」
「身に着けていらっしゃるそちらのペンダントの贈り主の方へ、贈られるのですね」
「そうですが……どうしてわかったのですか?」
「ふふふ……商売柄、ペンダントの意匠を見ればすぐにわかります。そちらは、二つで一対になるものですから」
「……えっ、二つで一対?」
店主の女性は微笑ましいと言わんばかりに笑っているけど、突然そんな話を聞かされた俺はただただびっくり!
『ペア』ということは、普通に考えればもう一つは……
「お相手の方がお持ちだと思いますが……その様子だと、ご存知ではなかった?」
「はい。『髪留めのお返し』と、『道中のお守りとして』と渡されただけで……」
なぜだか、急に胸がドキドキしてきた。
どうしてルビーが、俺と対になるお揃いのペンダントを持っているのか?
それを、なぜ俺に黙っているのか?
その理由は、やっぱり……
いやいや、勘違いをするな。
これは、あくまでも『友情の証』であって、決して『恋情』ではない。
ルビーがあの時に言わなかったのは、周りに皆がいたから。
きっと、そうなんだ。
顔を赤くしながら首をブンブンと横に振る俺は、ただの挙動不審な客だと思う。
「あの……」
「す、すみません! 指輪を買ってすぐに出ていきますので!!」
「いいえ、そうではなく、老婆心ながら少しだけ……」
「?」
「……女性は、好意を持っていない殿方から贈られた装飾品を身に着けることは、絶対にございません。相手や周囲に誤解されては自身が困りますから、受け取りもしないかと。ましてや、お揃いの物を持つなど、有り得ません!」
なるほど。
女心とは、そういうものなんですね。
大変勉強になりま…………ん?
ということは……
「……ですから、もしお客様がそういうおつもりでないのであれば、その方へ装飾品の贈り物をされるのはもうお止めください。その優しさが、結果的にお相手を傷付けることになりますから」
俺の目を見て、店主ははっきりと言った。
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