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5.初めてのアプローチ(後編)
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「うわっ、なに……」
しかし、俺の決死の覚悟は呆気なく崩される。通り過ぎる直前、突然成海くんに腕を引かれたのだ。
「なにはこっちの台詞。俺のこと無視するなんて、珍しいね」
成海くんは近くで俺を見下ろして、物珍しそうに俺の顔を凝視している。
まさか家の中で成海くんの方から声を掛けられるなんて……。
七年間一緒に過ごしてきたが、思い出す限り今までに一度だってなかった。
「どしたの。もう飽きた? どうでもよくなったんだ?」
「や、そういうんじゃ……ってかちょっと、顔近い」
彫刻のように綺麗な顔が無垢な瞳で迫ってくるので、視線のやり場に困ってしまう。
それが気に食わなかったのか、近くでむっとする気配を感じた。
「どうせあんたのことだから、髪乾かさないと風邪引くよ、とかなんとか言ってくるもんだと思ってたんだけど」
さすがは成海くん。まさに俺は数秒前までそう言おうとしていたところだ。
「髪は……乾かした方がいいと思います」
「めんどくせえからイヤ」
「そんなこと言わずにさ。成海くん、風邪引くと長引くタイプだから心配なんだよ」
「はー……ちょっと咳出てるだけで大袈裟に心配すんの、やめてほしいんだよね」
成海くんは腕を組んで壁にもたりかかりながら、気怠そうに溜息を吐いている。
そりゃ心配もするだろう。小さい頃は喘息になりかけていたし、成海くんの咳に人一倍敏感に反応してしまうのは許してほしい。
「てかずっと言おうと思ってたんだけど」
相変わらず小生意気な顔をした成海くんの視線が、俺に向けられた。
「部屋入ってくんなら、夕飯のすぐ後にしてよ」
「えっ……?」
「その時間なら大体課題やってて暇だから。俺、ゲーム中断されるの大っ嫌いなんだよね」
その瞳からはいつもの蔑むような色は見えなくて、あっけらかんと発せられた言葉からは刺々しさも感じられない。
聞き間違いだろうかと耳を疑ってしまう。
どうやら空想の中で成海くんを愛ですぎて、現実でも自分に都合のいいようにフィルターがかかってしまっているようだ。
だってまさか、これじゃあまるで──俺が成海くんの部屋に行ってもいいみたいな口ぶりじゃないか。
「ちょっと待って。俺、成海くんに声掛けてもいいの?」
「いいよ別に。TPOさえ弁えてくれれば」
「でも、この前迷惑って……」
「それは沙也ちゃんが通話中にタイミング悪く入ってくるから。他の奴らに聞かれたらどうすんの」
「さ、サヤチャン……?」
初めて呼ばれたあだ名に動揺を通り越して思考が止まった。
え、沙也ちゃんって俺のこと?
そんな呼ばれ方は今まで一度たりともされたことがないはずだ。
目を点にする俺とは対照的に、成海くんは当たり前のような顔をして腕を組んでいる。
「とにかく、俺は言ったからね。あとで聞いてないとか泣き言言ってもノーカンだよ」
返事のない俺を置いて成海くんが階段を上って、自分の部屋に消えていく。
それでも今起きたことが信じられず呆然と立ち尽くしていた俺は、風呂に入ろうとリビングから出てきた父さんの「ウオッ!?」という大きな声でようやく我に返った。
「ユメ……?」
もう一度頬をつねってみた。
鈍い痛みを走らせるそれが、これが夢じゃないということをひしひしと物語っていた。
しかし、俺の決死の覚悟は呆気なく崩される。通り過ぎる直前、突然成海くんに腕を引かれたのだ。
「なにはこっちの台詞。俺のこと無視するなんて、珍しいね」
成海くんは近くで俺を見下ろして、物珍しそうに俺の顔を凝視している。
まさか家の中で成海くんの方から声を掛けられるなんて……。
七年間一緒に過ごしてきたが、思い出す限り今までに一度だってなかった。
「どしたの。もう飽きた? どうでもよくなったんだ?」
「や、そういうんじゃ……ってかちょっと、顔近い」
彫刻のように綺麗な顔が無垢な瞳で迫ってくるので、視線のやり場に困ってしまう。
それが気に食わなかったのか、近くでむっとする気配を感じた。
「どうせあんたのことだから、髪乾かさないと風邪引くよ、とかなんとか言ってくるもんだと思ってたんだけど」
さすがは成海くん。まさに俺は数秒前までそう言おうとしていたところだ。
「髪は……乾かした方がいいと思います」
「めんどくせえからイヤ」
「そんなこと言わずにさ。成海くん、風邪引くと長引くタイプだから心配なんだよ」
「はー……ちょっと咳出てるだけで大袈裟に心配すんの、やめてほしいんだよね」
成海くんは腕を組んで壁にもたりかかりながら、気怠そうに溜息を吐いている。
そりゃ心配もするだろう。小さい頃は喘息になりかけていたし、成海くんの咳に人一倍敏感に反応してしまうのは許してほしい。
「てかずっと言おうと思ってたんだけど」
相変わらず小生意気な顔をした成海くんの視線が、俺に向けられた。
「部屋入ってくんなら、夕飯のすぐ後にしてよ」
「えっ……?」
「その時間なら大体課題やってて暇だから。俺、ゲーム中断されるの大っ嫌いなんだよね」
その瞳からはいつもの蔑むような色は見えなくて、あっけらかんと発せられた言葉からは刺々しさも感じられない。
聞き間違いだろうかと耳を疑ってしまう。
どうやら空想の中で成海くんを愛ですぎて、現実でも自分に都合のいいようにフィルターがかかってしまっているようだ。
だってまさか、これじゃあまるで──俺が成海くんの部屋に行ってもいいみたいな口ぶりじゃないか。
「ちょっと待って。俺、成海くんに声掛けてもいいの?」
「いいよ別に。TPOさえ弁えてくれれば」
「でも、この前迷惑って……」
「それは沙也ちゃんが通話中にタイミング悪く入ってくるから。他の奴らに聞かれたらどうすんの」
「さ、サヤチャン……?」
初めて呼ばれたあだ名に動揺を通り越して思考が止まった。
え、沙也ちゃんって俺のこと?
そんな呼ばれ方は今まで一度たりともされたことがないはずだ。
目を点にする俺とは対照的に、成海くんは当たり前のような顔をして腕を組んでいる。
「とにかく、俺は言ったからね。あとで聞いてないとか泣き言言ってもノーカンだよ」
返事のない俺を置いて成海くんが階段を上って、自分の部屋に消えていく。
それでも今起きたことが信じられず呆然と立ち尽くしていた俺は、風呂に入ろうとリビングから出てきた父さんの「ウオッ!?」という大きな声でようやく我に返った。
「ユメ……?」
もう一度頬をつねってみた。
鈍い痛みを走らせるそれが、これが夢じゃないということをひしひしと物語っていた。
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