リノンさんは恋愛上手

そらどり

文字の大きさ
12 / 25
勉強会編

緊張してたんだよ

しおりを挟む
日没が近づき、窓の外から烏の鳴き声が聞こえる。近くの仲間へ自身の存在を主張すると、彼らは次第に群れを形成し始める。



今日の活動を終え、ねぐらへと集まっているのだろう。膝元の雑木林に移動した彼らはそのまま陣取り、迫りくる夜に備えていた。



「……もう夕方だし、今日のところは終わりにするか」



その光景を見てようやく、今日の勉強会をお開きにする口実を得られるのだ。



「え、もう? 私、全然切りが良くないんだけど」



莉乃の手元を見ると、ノートはめくられた形跡もなく無地のまま。というより、殆ど手付かずの状態だった。



「はぁ……」



思わず溜息をついてしまう。「なによ」と不機嫌そうに聞いてくる莉乃。



「莉乃、来た時とノートがまるで変化してないみたいだけど? 切りが悪いどころか、スタートラインにさえ立ってないんじゃないの?」



「あ、いや、これは……その……」



口ごもる莉乃。その姿を見て、思い出したように俺は訂正する。



「……ごめん、莉乃を責めてるわけじゃなくって……、俺に色々教えてくれてたからってのはもちろん理解してるつもり」



願い事と称して俺の勉強に付き合ってくれた手前、莉乃には感謝している。



でも、それが莉乃の成績不振に繋がるのかもとなれば、どうしても罪悪感が生まれる。



「俺って莉乃が集中できなくなるようなことしてたか? 無意識だとしても、莉乃の邪魔をしてたなら、俺、謝るよ」



肩が触れるような距離から遠ざかり、面と向かって莉乃に向き合う。



「……! ちょっと止めてよ……!」



が、意図に気づいたのか、その途中で俺の服の裾を掴んで動きを制した。



「拓海が悪い訳じゃなくって……というか、そんな深刻な感じじゃないから……!」



「……え、そうなの? 目合わせないから、てっきり俺に言い難いことなのかとばかり……」



「……まあ、そうだけど。でも、拓海は悪くないから!」



「そうなのか……」



罪悪感が晴れ、ほっとする。



が、同時に一つの疑問が頭に浮かんでくる。



「じゃあ、なんでボンヤリしてたんだよ?」



「それは……」



この流れになれば、俺がこの質問をしてくることは察しがつくはず。それでも、目の前で正座している莉乃はその質問に動揺を見せていた。



目を逸らして、一向に俺と目を合わせようとしない。



「……」



莉乃は隠し事が苦手だ。



俺の誕生日にサプライズを計画していたこともあったが、ニンマリとした顔を見れば何かしら企んでいるのは容易に想像がつく。指摘すれば、毎度あっさりと白状してくれる。



莉乃は何でもかんでも顔に出てしまう。が、恐らく本人は気づいていない。



「(言えないことでもあるのかな……)」



窓から差し込む夕焼けが、表情に陰りをもたらす。その陰影は、まるで真実を朧げにさせるように、莉乃を覆っていた。



その覆われたヴェールから時折覗かせる瞳。その瞬間、俺は状況を全て察する。



「なんだ……それならそうと早く言ってくれたら良かったのに」



「え?」と驚きの声を上げる莉乃。顔を上げ、表情が露わになる。



「もう気づいてたってこと……? な、なんで……」



それは愚問だ。俺には分かる。



「確かに相手を意識するばかりで、肝心な方が疎かになる……俺も同じだから、その気持ちは凄く分かるよ」



「――――……っ!」



ヴェールは剥がれ、夕日に照らされた表情が浮き彫りになる。



それを見て、俺は確信した。彼女も同じだと。



だからこそ、自分と同じ思いを抱える幼馴染へ、伝えたい――――







「……俺も一人じゃないと集中できないタイプなんだ」





「――――――――は?」





冷たく吐かれた声。



「え――――……」



その瞬間、俺は息を失った。



たちまち莉乃の雰囲気が変わっていく。



「え、なに? 一人? 集中? 急になに言ってんの? 全ッ然意味分かんないんだけど?」



「だから……一人で勉強するほうが捗るタイプなのかなって。ほら、勉強会って結局はただの名目で、大抵は勉強しないで友達と遊ぶと聞くし」



「いや、脈絡! どっからそうなったの!?」



「どこからって……最初から?」



「最初って―――……じゃあ単なる思わせぶりじゃない!」



怒涛の嵐に弁明することしかできない。



「(あれ、違うの……?)」



俺の確信は全くの見当違いだったらしい。



「えっと、ごめん……」



「ほんっとにもう……! 馬鹿! 最悪! 有り得ない!」



最後には罵声まで浴びせられる始末だった。



「ほんとごめん」



「……絶対に反省してよ」



そう言うと、莉乃はそれ以上黙り込んでしまった。



目の前で顔を赤らめている莉乃。その姿を間近に、俺は身体を動かすことさえできずに座ったまま。



どのくらい時間が経ったかも分からない。一瞬だったかもしれないし、数十分経ったかもしれない。



その間もずっと袖を掴んだまま、莉乃は手を離さなかった。



「…………久しぶりなんだよ、拓海の部屋に来たの」



口を開いた莉乃はそう呟く。が、どうすればいいのか分からず、俺は押し黙る。



「拓海はさ、緊張とかしないの……?」



「俺は……勉強会とかしたことないし……ほら、俺って友達いないから」



「あはは、なにそれ……でも、そういう意味じゃないんだけどな……」



そうぼやくと、莉乃は袖から手を離して前かがみの姿勢を正す。



「……まあ、今はいいや。まだ時間はあるしね」



崩れていた服装を直し、畏まってから莉乃はそう言った。



「莉乃、帰るのか?」



「うん、もうお母さんも帰って来ると思うし」



荷物をまとめて立ち上がり、ドアノブに手を掛けながら、「また明日」と残す莉乃。



扉の開閉音がした後、俺は自身の部屋に一人取り残される。残された俺は、彼女の残滓を眺めることしかできない。



いなくなった光景をただ真っ直ぐと眺めることしか、俺にはできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

処理中です...