リノンさんは恋愛上手

そらどり

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水族館デート編

どんな時も隣で

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デートを終えた夜、スマホで一通のメッセージを送る。



それをして俺はベッドから起き上がり、ベランダの窓を開けた。



夜の風が心地いい。雨上がりであったが、気分は少し高揚していた。



これはきっと、俺だけではないはずだ。



「……お、お待たせ」



少し風にあたっていると、隣の仕切り窓から声が聞こえてきた。莉乃だ。



「おっす、数時間ぶりだな」



そう言いながら、俺はベランダに足を踏み入れる。一二歩前に進み手すりに手を置くと、隣から静かに顔を覗かせる莉乃の姿が視界に入った。



「別に今日中にまた会わなくても良かったんじゃ……」



莉乃は開幕一番にそう話す。なにが言いたいのかは聞かなくても分かった。



「だって莉乃めっちゃテンパってたし、あのままだと明日から普段通りに話せないだろうと思ってさ」



デート終盤にあった出来事のせいで、莉乃はかなり取り乱していた。



このまま放置するのは明日以降の関係悪化につながる恐れがある。



「でも! ……せめて今日は一人にさせてほしかった」



「ならメッセージ無視すれば良かっただろ? ベランダに出てくる必要なんてなかった」



「それはそうだけど……」



「俺と会うの、そんなに嫌だった?」



「……その言い方、ずるい」



莉乃は素直だった。火照りの冷めない顔を隠しているつもりだろうが、声に乗る感情が全てを物語っている。



時折見せる羞恥の仕草、莉乃は隠し通せていると思っているのか。



「可愛い」



「! や、やめてよ……! また思い出しちゃうでしょ……」



思わず本心が漏れてしまった。でも莉乃には効果的だったらしい。



「そんなに忘れたいのかよ。俺にあんだけ好き好き言っといて逃げるつもりか」



「違うって……! あれは本来の私じゃないというか、自分を抑えられなかったというか、なんというかその……!」



そう言いながら頭を抱えて、莉乃は声にならない声をあげている。彼女にとっては黒歴史だったみたいだ。



「俺は嬉しかったけどな、莉乃に好きって言ってもらえて。それに……普段と違う莉乃も見れたから」



「うわあああああっ―――! もう忘れてよぉ―――!!」



とうとうその場に座り込んでしまう莉乃。ちょっとやり過ぎたか。



でも、あんなに好き好き言われて忘れられるわけないだろ、と反論したくもなる。



「ううっ……、だから会いたくなかったのに……」



「ごめんて、ちょっと言い過ぎた。謝るよ」



必死になだめるが、一向に莉乃は顔をあげない。顔をうずめていつまでも塞ぎ込んでいた。



「……ただ一つだけ、これだけは言いたいんだ」



そう言って俺は莉乃へ語りかける。莉乃が聞いてくれていると信じて。



「莉乃は嫌だというけどさ、俺は莉乃の知らない部分をもっと知りたいって思ってる。他の皆には見せない莉乃を俺だけが独占したい、独り占めしたいってずっと思ってたから……」



顔が熱い。夜風が生暖かく感じる。



でも、そんなことを気にする余裕がなかった。



ただ不器用に想いを伝えていたから。



「俺、本当はずっと莉乃が好きだった。昔からずっとずっと……好きだった」



「え……?」



この気持ちに気づいたのはいつからだろうか。小学生の時? 保育園児の時? それより以前? いつからかは分からないけど、間違いなく恋心だと断定できる。



物心ついた時から隣にいた莉乃の存在がとても大きくて、俺は幼馴染でいること以上にもっと別のなにか、言うなれば恋人になれたらいいなと、淡い期待をしていた。



「中学の時にさ、俺、一度失恋したと思ってたんだ。誰に聞かれたかは覚えてないけど……俺と莉乃が付き合ってるのかって揶揄われたこと、莉乃は覚えてる?」



「……覚えてる」



教室で二人で話している時、不意に隣を通りかかったクラスの人が冗談めいた言い方で聞いてきたんだ。



中二ともなればそう言った話題には皆敏感だ。今になって思えば大した話題ではないと理解できる。



でも俺は莉乃の言葉を聞いて、ひどく悲しい気持ちになったのを今でも忘れない。



「私だって本当は……いや、きっとこの先堂々と宣言する勇気はない、と思う」



「うん、俺だって莉乃が恋人だって自信持って言えないよ。恥ずかしくて縮こまる未来しか見えないから」



幼馴染という言葉は呪いだ。物理的に近過ぎるが故に心が遠ざかってしまう。



何気ない言葉に傷つき、些細な仕草から目を逸らし、いつしか自分の気持ちにも蓋をする。



いつしか後悔すると分かっていても、この関係に甘え続けていた俺には未来を夢見る勇気がない。



「…………だからさ、少しずつでいいから隣で見ていてほしい。俺が莉乃の彼氏だと自信をもって言える日まで、ずっと」



今はまだ子供だ。何か自分を誇れるものも、自らを騙すこともできない。



でもいつか後悔するから、俺はもう後悔したくない。



莉乃が俺のことを好きだと言ってくれたから、俺は少しだけ自分を誇れる。



なら今度は俺が。莉乃が自身を誇れるように。



「莉乃、好きだ」



ただの言葉ではない。



決意を込めた、俺自身に言い聞かせる言葉。



莉乃が俺の彼女だと自信をもって皆に言えるようになるための、俺への鼓舞だった。



「……なんか変。自分で勝手に決めてさ」



そう言って莉乃は立ち上がる。



そしてスッと手を差し出し、俺とのつながりを求めた。



「私だって皆に言えるように頑張るよ、拓海が私の彼氏なんだって。それこそ教室でも堂々と言えるように、ね」



「それは……ちょっと難易度が高すぎないか? クラスでの馴染み具合的に俺と莉乃が釣り合ってるとは思えないんだけど……」



「でも、私の彼氏なんでしょ? それくらい堂々としてないと私に釣り合わないんじゃないの?」



「マウントかよ……さっきまでもじもじしてたくせに」



「もう吹っ切れたの。もう全部晒しちゃったんだから、今更恥ずかしがっても損だし」



そう言いながら莉乃は俺の手を引っ張り、自信の頬に当てる。



「せっかく恋人になれたんだもん。だったらもう前に進むしかないよね」



笑顔を浮かべ、莉乃は嬉しそうにしっぽを振った。



「…………そうだな。俺も吹っ切れないとな」



小さく息を吐き、俺は莉乃に奪われている右手をそのままこちらに動かす。



その際、しっかりと莉乃の顔を寄せながら。



「え……ちょっとまさか、今するの……?」



意図に気づいたのか、莉乃は少し慌てていた。でも関係ない。俺はそのまま近づける。



「ま、待ってよ……お父さんとお母さんに見られたらどうするの……」



「じゃあ、止めるか?」



「だからそういうのズルいんだって……」



「止める?」



「…………する」



渋々といった具合で莉乃は頷く。でも満更でもない様子だった。



「じゃあ、するよ」



「いちいち言わないでよ……女々しいのは嫌いだから」



「分かった、もう言わない」



「……あ、でもやっぱりする時は言ってほしい、かも」



どっちなんだよ、と思ったがもう気にしない。ゆっくりと近づけて、慌てる莉乃の口を塞いだ。



「――――――っ!?」



熱い感触が全身に広がる。甘酸っぱくもどこか落ち着くのは、きっと一度確かめ合ったからだ。



やっと俺から気持ちを伝えられた安心感と、莉乃が俺を求めてくれる高揚感と、なんだか夢心地のようだった。



これが恋人なんだ、と思った。



「―――んっ、はぁ…はぁ……ちょっと急だってば……」



キス終わり、莉乃が文句を言ってきたけど気にしない。この優越感がとても気持ち良かったから。



莉乃は黙って俺を睨んできたが、次第に諦めて代わりに手を出してきた。



「莉乃ってさ、手繋ぐの好きなんだな」



「なに、悪い?」



「いや、うれしい」



そう言って俺も手を差し出す。手を握ると、莉乃は強く握り返してきた。



「……拓海、好きだよ」



莉乃は笑顔になってくれた。気っと許してくれたと思う。



「俺も、莉乃が好きだ」



しっかりと言葉にする。幼馴染という関係でも、言わなければ伝わらないことは山ほどあるから。



きっとこの先、結婚して家族になっても、何十年一緒に付き添っても、俺は言葉を送り続ける。



それが俺にできる愛情表現だと思うから。
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