3 / 37
2.朝のガレージ(佑樹)
しおりを挟む
……そろそろやばいな。
僕は時計を見ながら内心焦りつつあった。
昨日の晩、姉貴が僕に「なぁなぁユウ君、最近うちの[もんちー]の調子が悪いんやけどちょっとみてくれやん?」と言ったのがそもそもの始まりだった。
ちなみに[もんちー]というのは姉貴のバイクの愛称だ。正式名称はHONDA BA-AB27 MONKEY。新聞屋のバイクとしてお馴染みのホンダのスーパーカブと同型のエンジンを搭載しながらも車体はカブよりかなり小さく可愛らしいミニバイクだ。
しかし、可愛らしい見かけによらず、アクセルを捻るだけで走るスクーターなどのオートマチックトランスミッションとは違い、大型のオートバイと同様に手動でクラッチを操作し、左足でギア操作をするマニュアルトランスミッションという玄人仕様なので、いわゆるバイク乗りと呼ばれる玄人連中のセカンドバイクとしても人気が高い。
そして、シンプルな構造なので整備資格を持たない素人でも割りと簡単に分解整備や組み立て、改造が出来るので機械いじりが好きな連中からも愛されている。
つまり、あらゆる年代のバイク好きから普遍的に愛されているミニバイクなのである。
そんな姉貴のモンキーだが、メンテナンスは基本的に僕がしている。
それで、昨日は夜中の十二時近くまで、今日は朝の五時に起きてガレージで姉貴のモンキーをいじってるわけだが、どこが悪いのかさっぱりわからない。
確かに調子は悪い。エンジンをかけてちょっとアクセルをひねって回転数を上げると車体がガタガタと不自然な振動を始める。
しかしエンジンのナットやボルトが緩んでいるわけではない。
エンジンの調子そのものは安定しているから、吸排気系や点火系の異常でもない。
あーでもない、こーでもないと一人で試行錯誤しているうちにも時間は無情に過ぎていく。
バイク通勤している姉貴にとって足がないのは困る。しかし、僕が学校に行くために家を出なくちゃ行けない時間も迫ってきている。
しかたない。僕はスマホを取り出して、バイクいじりの師匠に電話をかけた。
──プルルルル……プルルルル……
『……おう、祐樹か。こんな早くからどうした?』
「あ、ノブさん、おはようございます。すんません出勤前の忙しい時間に。今、ちょっとええすか?」
『ああいいぞ。どうした?』
「姉貴のバイクが調子悪くていじっとったんすけど、原因がわかんなくて」
『どういう症状が出てるんだ?』
「エンジンかけて、回転数を上げるとガタガタとすごい振動がくるんです」
『……ふむ。それは、走ってる時だけか?』
「いや、停車状態のニュートラルでもそうです。エンジンの調子そのものはええんですけどね」
『それな、車体にエンジンを留めてあるマウントボルトが緩んでるんじゃないか? メンテナンスで結構見落としがちになるところだが、普段からよく使ってるバイクほどジワジワ緩んできて、気がついたらグラグラってことはよくあるぞ』
師匠のノブさんから指摘されたボルトを探し、指でつまんでみる。
いとも簡単に回ってしまった。
「……当たりです。むっちゃ緩いです」
『良かったな、原因が分かって。他にはなにかあるか?』
「いや、それだけです。助かりました」
『いいってことよ。……あ、ちょうどよかった。祐樹、お前レストアベースか部品取り用として旧型モンキーいらんか?』
「え? なんすかそれ?」
『いやな、取引先がずっと使ってない古いZ50JZを処分するっていうから回収してきたんだが、正直俺はいらんからな。再生するとなると一苦労だが、部品取り用として欲しければやるぞ? お前らのAB27との互換部品も多いからな』
「まじすか? 欲しいです! 是非下さい」
『うん。じゃあ、また今度軽トラで持って行ってやる。それじゃ、俺はぼちぼち仕事に行くから切るぞ?』
「はい。ありがとうございました!」
僕は頼りになる師匠との通話を終えて、姉貴の[もんちー]と向き合った。
エンジンはマウントボルトと呼ばれる長い二本のボルトでフレームに固定されてあるのだが、調べてみるとその二本ともが指で回せるぐらいに緩んでいた。
これじゃあ、振動で乗りにくいはずだ。てゆーか、ヘタしたら走ってる途中でエンジンが外れるだろうこれ?
背筋に寒いものを感じながら、僕はレンチでその二本のボルトがガッチリと締めなおした。
よし、これでどうだ。
車体にまたがり、イグニッションキーを回して、ニュートラルランプが点灯するのを確認してから、エンジンをかけるためのキックペダルを右足で踏み込む。
──スコンスコン……スコンスコン……バルンッ!
三回目でエンジンがかかる。そのままゆっくりとアクセルをひねって回転数を上げていく。
──バルッバルルルル……
うん、ええな。あの不自然な振動が出なくなった。
「ユウくーん、うちの[もんちー]直ったん?」
エンジン音を聞きつけた姉貴がとてとてと走ってきて、すっかり調子の良くなった愛車を見てふにゃっと相好を崩して笑う。姉貴は本当に[もんちー]が大好きなんだ。
「うん。ノブさんに相談したらすぐ原因が分かったわ。エンジンを車体に取り付けてるボルトが緩んどったみたいやな。締めなおしたら調子よぅなったわ」
「あーよかったぁ! さっすが持つべきものは頼りになる弟とその師匠やねっ。ご飯出来てるから手を洗ってきてー」
「はいはい」
僕はシンクで手を洗ってから作業用のつなぎを脱ぎ、階段を上って二階のダイニングに向かった。
【作者コメント】
モンキーは非常に長い歴史のあるミニバイクで、最初の市販車Z50Mが1967年に発売されて以来、何度もモデルチェンジを繰り返しながら、排ガス規制で50ccとしての生産が終了する2007年までなんと40年間も生産されてきました。シンプルで頑丈な構造なので壊れにくく、カスタムパーツも多いので、かなり古い機種でも現役で稼働しているものは多いです。
僕は時計を見ながら内心焦りつつあった。
昨日の晩、姉貴が僕に「なぁなぁユウ君、最近うちの[もんちー]の調子が悪いんやけどちょっとみてくれやん?」と言ったのがそもそもの始まりだった。
ちなみに[もんちー]というのは姉貴のバイクの愛称だ。正式名称はHONDA BA-AB27 MONKEY。新聞屋のバイクとしてお馴染みのホンダのスーパーカブと同型のエンジンを搭載しながらも車体はカブよりかなり小さく可愛らしいミニバイクだ。
しかし、可愛らしい見かけによらず、アクセルを捻るだけで走るスクーターなどのオートマチックトランスミッションとは違い、大型のオートバイと同様に手動でクラッチを操作し、左足でギア操作をするマニュアルトランスミッションという玄人仕様なので、いわゆるバイク乗りと呼ばれる玄人連中のセカンドバイクとしても人気が高い。
そして、シンプルな構造なので整備資格を持たない素人でも割りと簡単に分解整備や組み立て、改造が出来るので機械いじりが好きな連中からも愛されている。
つまり、あらゆる年代のバイク好きから普遍的に愛されているミニバイクなのである。
そんな姉貴のモンキーだが、メンテナンスは基本的に僕がしている。
それで、昨日は夜中の十二時近くまで、今日は朝の五時に起きてガレージで姉貴のモンキーをいじってるわけだが、どこが悪いのかさっぱりわからない。
確かに調子は悪い。エンジンをかけてちょっとアクセルをひねって回転数を上げると車体がガタガタと不自然な振動を始める。
しかしエンジンのナットやボルトが緩んでいるわけではない。
エンジンの調子そのものは安定しているから、吸排気系や点火系の異常でもない。
あーでもない、こーでもないと一人で試行錯誤しているうちにも時間は無情に過ぎていく。
バイク通勤している姉貴にとって足がないのは困る。しかし、僕が学校に行くために家を出なくちゃ行けない時間も迫ってきている。
しかたない。僕はスマホを取り出して、バイクいじりの師匠に電話をかけた。
──プルルルル……プルルルル……
『……おう、祐樹か。こんな早くからどうした?』
「あ、ノブさん、おはようございます。すんません出勤前の忙しい時間に。今、ちょっとええすか?」
『ああいいぞ。どうした?』
「姉貴のバイクが調子悪くていじっとったんすけど、原因がわかんなくて」
『どういう症状が出てるんだ?』
「エンジンかけて、回転数を上げるとガタガタとすごい振動がくるんです」
『……ふむ。それは、走ってる時だけか?』
「いや、停車状態のニュートラルでもそうです。エンジンの調子そのものはええんですけどね」
『それな、車体にエンジンを留めてあるマウントボルトが緩んでるんじゃないか? メンテナンスで結構見落としがちになるところだが、普段からよく使ってるバイクほどジワジワ緩んできて、気がついたらグラグラってことはよくあるぞ』
師匠のノブさんから指摘されたボルトを探し、指でつまんでみる。
いとも簡単に回ってしまった。
「……当たりです。むっちゃ緩いです」
『良かったな、原因が分かって。他にはなにかあるか?』
「いや、それだけです。助かりました」
『いいってことよ。……あ、ちょうどよかった。祐樹、お前レストアベースか部品取り用として旧型モンキーいらんか?』
「え? なんすかそれ?」
『いやな、取引先がずっと使ってない古いZ50JZを処分するっていうから回収してきたんだが、正直俺はいらんからな。再生するとなると一苦労だが、部品取り用として欲しければやるぞ? お前らのAB27との互換部品も多いからな』
「まじすか? 欲しいです! 是非下さい」
『うん。じゃあ、また今度軽トラで持って行ってやる。それじゃ、俺はぼちぼち仕事に行くから切るぞ?』
「はい。ありがとうございました!」
僕は頼りになる師匠との通話を終えて、姉貴の[もんちー]と向き合った。
エンジンはマウントボルトと呼ばれる長い二本のボルトでフレームに固定されてあるのだが、調べてみるとその二本ともが指で回せるぐらいに緩んでいた。
これじゃあ、振動で乗りにくいはずだ。てゆーか、ヘタしたら走ってる途中でエンジンが外れるだろうこれ?
背筋に寒いものを感じながら、僕はレンチでその二本のボルトがガッチリと締めなおした。
よし、これでどうだ。
車体にまたがり、イグニッションキーを回して、ニュートラルランプが点灯するのを確認してから、エンジンをかけるためのキックペダルを右足で踏み込む。
──スコンスコン……スコンスコン……バルンッ!
三回目でエンジンがかかる。そのままゆっくりとアクセルをひねって回転数を上げていく。
──バルッバルルルル……
うん、ええな。あの不自然な振動が出なくなった。
「ユウくーん、うちの[もんちー]直ったん?」
エンジン音を聞きつけた姉貴がとてとてと走ってきて、すっかり調子の良くなった愛車を見てふにゃっと相好を崩して笑う。姉貴は本当に[もんちー]が大好きなんだ。
「うん。ノブさんに相談したらすぐ原因が分かったわ。エンジンを車体に取り付けてるボルトが緩んどったみたいやな。締めなおしたら調子よぅなったわ」
「あーよかったぁ! さっすが持つべきものは頼りになる弟とその師匠やねっ。ご飯出来てるから手を洗ってきてー」
「はいはい」
僕はシンクで手を洗ってから作業用のつなぎを脱ぎ、階段を上って二階のダイニングに向かった。
【作者コメント】
モンキーは非常に長い歴史のあるミニバイクで、最初の市販車Z50Mが1967年に発売されて以来、何度もモデルチェンジを繰り返しながら、排ガス規制で50ccとしての生産が終了する2007年までなんと40年間も生産されてきました。シンプルで頑丈な構造なので壊れにくく、カスタムパーツも多いので、かなり古い機種でも現役で稼働しているものは多いです。
2
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
義妹と旅する車中泊生活
桜井正宗
青春
義妹の『歩花』(あゆか)は、兄である大学生の『回』(カイ)が大好きで、どこでもついて行く。ある日、回が普通自動車免許を取った。車を買うお金はなかったけれど、カーシェアリングでドライブへ出かけた。帰りに歩花が宝くじを購入。それが高額当選した。そのお金でキャンピングカーを買い、大好きな兄へ送った。
回は、夏休みを利用して可愛いJK義妹と共に全国を巡る旅に出る――。
※カクヨムでも掲載中です
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる