とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko

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マダム・フルール

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(そう言えば、いつからお互いを名前で呼ぶようになったんだっけ?)
 
 ディナーのお店に向かう辻馬車の中でふと思う。
 向かい側に座るレイの整いすぎた顔はやっぱり反則だ。こっそり見惚れる私を許して!

 (…特にお互いに許可とったわけじゃないんだよね。なりゆき?)
 
 何だか可笑しくなって一人でクスクス笑ってしまった。
 
 いつの間にか隣にいてくれるのがごく自然で、当たり前で。意識せずにレイと呼んでいた。

 (ありがとう、レイ)

 「……どうした?何か可笑しかった?」

 「違うの。私、いつからレイのこと呼び捨てにしてたかなって。…許可も取らずにごめんなさい」

 「……別にリリーなら構わないが」

 「……恩人だから?」

 「あ、いや、そうだが、そうじゃなくてだな……」
 
 ちょっと困ったレイが可愛い。
 クスクス笑う私の肩や頭をレイが小突いてくる。

 「レイ、もうっ!」
 
 私はお返しにレイの肩や膝を小突く。

 「やったな!」

 「きゃっ!」

 「あはは」

 「……」
 
 一瞬の静寂。
 レイと自然と視線が絡み合う。
 次の瞬間、レイの唇が私の唇に近づいてくる。
 唇同士がスローモーションのように触れ合う。
 温かくて、柔らかくて。
 私の初めてのキス。

 「……好きだよ。愛してる」
 
 わー!レイとキスなんて…!夢みたい…!
 レイは私が心から欲しかった言葉を聞かせてくれた。

 (素敵な誕生日プレゼント……!)

 「……ありがとう。すごく嬉しいっ!私も……大好きっ!」
 
 私はレイの首に両手を絡ませると、お返しのキスをする。

 「……」
 
 レイは私の手を掴み、私を抱き寄せた。
 大きくて鍛えられた胸板にドキドキしてしまう。
 レイの心臓の鼓動を感じる。

 「……もう、離したくない」

 「……!」
 
 甘い言葉に慣れない私は、恥ずかしくてレイの胸に顔を埋めたままコクンと頷いた。
 
 どれくらい時が経ったんだろう?というほどの永遠な訳もなく、この幸せな時間の終わりを無情にも御者が告げた。

 「到着しました」

 「……ありがとう」

 (ああ、私の心の声が駄々漏れなテンションのありがとうだった……)
 
 到着した先は、見慣れない店の前だった。

 「ここは?」

 「サザーランド商会が経営している店だ。まずは町娘から変身しないとな。リリー、入って?」
 
 嘘っ?
 ――あの人気で予約が半年待ちのマダム・フルール!!!!!
 
 私は店の前で目をぱちくりしながら看板を見上げていた。

 「引きこもりな私でも知ってる大人気のお店っ!」
 
 中に入らない私に店員と思われる人物が中へと促す。レイは顔見知りな様子で会話してるし。

 (さすが、自分の商会のお店だっ!)

 「無理言ってすまなかった」
 
 レイがかしこまってお詫びしている。私のために無理矢理予約をねじこませたのだろう。申し訳ない気持ちと嬉しさと半々な複雑な気持ちだった。

 (この方、良く見たら……。この上品な佇まい……)

 「とんでもございません。アルフォンス様のお陰で今のわたくしがありますから。本日はこちらの大切な方のエスコートを当店で出来ますこと、有り難く存じます」
 
 その上品な女性はレイに深々とおじぎをした。

 「……レ、レイ。こちらの方、もしかしたら、マダム・フルールさん?」

 「ああ、そうだ」

 (わー!やっぱり!嬉しい!)

 「お目にかかれて光栄です。私は、リリアーヌ・フォンデンベルグです。訳あってこのような格好で失礼致します」
 
 町娘姿じゃお呼びじゃないお店ですわ……。

 「とても可愛いお嬢様ですわね?アルフォンス様がお連れしたお客様ですから、最高のおもてなしをさせて頂きますわ」

 「頼んだ。これから彼女とディナーなんだ。ドレスや宝飾品を頼む。私はしばらく商会に顔を出してくる」

 「かしこまりました。では、リリアーヌ様、最高に素敵な姿でアルフォンス様をお出迎え致しましょう」
 
 私は店の入り口でレイを見送り、女子憧れのお店に足を踏み入れた。

 「……!わー!」
 
 店内はきらびやかなデザインの素敵なドレスや小物がセンス良く並べられていた。

 「リリアーヌ様、こちらのお部屋にどうぞ」
 
 奥の個室に案内された。

 (私の使用人部屋よりも広い!)
 
 あまりに広くて落ち着かない私は、辺りをキョロキョロしてしまう。

 (レイの手前、貴族令嬢らしくしないと……)
 
 先ほど名のったので、私が侯爵令嬢であることは分かったはずだ。ま、町娘だけど。

 「早速ですが、ディナーとのことで、いくつかこちらでピックアップさせて頂きました」
 
 マダムが私に似合うデザインで、ディナーに相応しいドレスを並べてくれた。

 「どれもとっても素敵!私、訳あって、普段はメイド服着てるんですよ。だから、何だか夢みたいで。ありがとうございます!」

 私はその中でも特に気に入った一枚のドレスに手をかけた。

 「こちらを試着させて頂いても?」

 「もちろんですわ。このターコイズブルーのマーメイドラインのドレス、着るとリリアーヌ様のお顔が更に美しくきらびやかになりますわ。スタイルも更に素敵に見えます。アルフォンス様もきっと喜ばれますわ」
 
 そうマダムに言われ、気恥ずかしくて一気に顔が赤くなってしまった。
 試着室で試着してみたが、マダムの話は本当で、まるで私でない私がそこにいるようだった。

 「では、こちらを大至急で手直しさせて頂きます。メイクとヘアセットもさせて頂きますので、後程ご案内させて頂きます」
 
 マダムは優雅な笑みを浮かべ、他のスタッフと共に退室していった。
 残された私は、ソファに腰かけて出された紅茶に手をかけた。

 (そ、そういえば……)
 
 唇の感触がよみがえってきていた。
 
 マダム・フルールのお店に興奮してしまい、忘れかけていたが、さっきレイとキスしたのだ。

 (……あのキスの意味って?)
 
 愛している、離したくないとも言ってくれたレイ。

 (……もう恋人ってことかな?)
 
 つきあって欲しいとは言われていないものの、気分的にはもう恋人だった。

 (……後でディナーの時にレイに聞いてみよう!)
 
 今日は何だか朝からマリーベルさんの乱入から始まり、あまりに濃すぎた一日で、ずっと全力疾走している感覚だ。

 「リリアーヌ様、お待たせ致しました」
 
 大して待っていないが、さすが、マダムのお店。仕事が早い。サイズ調整されたドレスに、宝飾品、メイク道具などを携えたスタッフが部屋に入るとテキパキと準備を始めた。

 「「リリアーヌ様、よろしくお願いいたします!」」

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