9 / 40
9
しおりを挟む
最初はスマホの画面を通して、それから少しずつ外に出る練習をして対面で受けられるようになった。それと並行してバース科にも通い、発情期の周期を調べたり、フェロモンチェックをして発情期の始まりと終わりを正確に調べてもらったりして、僕は困らない程度に外出できるようになった。
そこまで出来るようになるまでには実家の母に手伝ってもらった。まだ外に出るのが不安な時は一緒に行ってもらったり、交通機関が使えない時は車を出してもらったり。
智明がいない平日にしていたので母ばかりに頼ってしまったけど、父もとても心配しながらそんな僕を応援してくれた。
大検を受けて合格してからようやく、僕は大学を受験しようと思っていることを智明に告げた。
智明は、最初はとても驚いたけどすぐに喜んで賛成してくれた。僕が外に出られないことを案じてくれたけど、本当は最初からそんなに深刻な状態じゃなかったと嘘をついた。実はものすごく大変だったなんて言ったら、ますます智明の罪の意識は深まり、苦しめてしまうと思ったから。だから全然大したことじゃないよ、と軽い態度を演じた。
それから僕も智明も受験に集中して、二人とも第一志望校に合格した。僕は大したことないと言いながらも、毎日通うことはまだ出来なかったので、通信制の大学にした。そこに関してはずっと家にいたから毎日通う体力がないと誤魔化した。
そうして僕達は大学の4年間も変わらず穏やかに暮らし、僕はその間もさらに外出の練習を重ね、就職も決めることが出来た。
智明はもちろん名門大学を卒業して、大手の会社に就職。僕は、実は小さい頃から好きだった絵を描くことを生かし、大学でデザインを学んで中堅のデザイン事務所に就職した。
そうして僕達は社会人になっても、変わらず二人で暮らしていた。
本当に何も変わらずに・・・。
理想を絵に書いたような僕たちの生活はいつも穏やかで、お互いの誕生日も祝いあった。だけど、クリスマスだけは毎年何も出来ないでいた。その日はいつも、智明がいないからだ。
僕は毎年、クリスマスも必ずささやかだけどいつもとは違う食卓を用意する。
チキンを焼いて、ケーキを作って、そして部屋を飾ってプレゼントを用意して・・・。だけど、それを智明と過ごしたことは無かった。
智明はいつも、何かと理由をつけてこの日の帰りが遅かったから。
ある時には学校の用事が。またある時には実家に呼ばれて。先輩が、先生が、親が・・・。毎年色々な理由でこの日だけは帰りが遅かった。なのに律儀に日付が変わってから帰ってくるのだ。タクシーまで使って。
最初はせっかく用意したのに残念だな、と思ってたけど、それが3回4回と続くとさすがに故意にやってると気づいてしまう。
クリスマスはあのことがあった日だもんね。
僕が智明の人生を狂わせてしまった日。そんな日にお祝いなんてしたくないよね。
きっと智明にとっては最悪な日なんだろうな・・・。
でも僕はそんな智明に気付かない振りをして、毎年この日の予定を聞く。そしてダメだと分かっていても、クリスマスの用意をして待ってるのだ。
毎年律儀にしなくても、とは思う。どうせ早くは帰ってこないのだから。だけど、智明が本当に断れない用で帰れないと言う演技をするから、それに合わせるしかないのだ。だって僕は気づいてないのだから。本当はその日を嫌っている智明の本心に。だから、僕は毎年クリスマスを用意して、帰らない智明を待つのだ。
そして今年もクリスマスがやってきた。
「智、今日はごちそうを用意するから早く帰ってきてね」
朝食をとりながら僕が無邪気にそう言うと、いつも笑顔の智明の顔が少し曇る。
「ごめん。今日は上司と飲み会があるんだ。早く抜けられるといいんだけど、今日の上司は必ず二次会をやるから、何時に帰れるか分からないんだ」
本当に申し訳なさそうに項垂れる。
「そっかぁ。上司と飲み会じゃしょうがないね。でも用意はしておくから、早く帰れたら帰ってきてね」
「ありがとう。でも帰れなさそうだったらメッセージ入れるから」
「うん。分かった。無理しないでね」
笑顔で答える僕の言葉に、智明はほっとした表情をする。
そこまで出来るようになるまでには実家の母に手伝ってもらった。まだ外に出るのが不安な時は一緒に行ってもらったり、交通機関が使えない時は車を出してもらったり。
智明がいない平日にしていたので母ばかりに頼ってしまったけど、父もとても心配しながらそんな僕を応援してくれた。
大検を受けて合格してからようやく、僕は大学を受験しようと思っていることを智明に告げた。
智明は、最初はとても驚いたけどすぐに喜んで賛成してくれた。僕が外に出られないことを案じてくれたけど、本当は最初からそんなに深刻な状態じゃなかったと嘘をついた。実はものすごく大変だったなんて言ったら、ますます智明の罪の意識は深まり、苦しめてしまうと思ったから。だから全然大したことじゃないよ、と軽い態度を演じた。
それから僕も智明も受験に集中して、二人とも第一志望校に合格した。僕は大したことないと言いながらも、毎日通うことはまだ出来なかったので、通信制の大学にした。そこに関してはずっと家にいたから毎日通う体力がないと誤魔化した。
そうして僕達は大学の4年間も変わらず穏やかに暮らし、僕はその間もさらに外出の練習を重ね、就職も決めることが出来た。
智明はもちろん名門大学を卒業して、大手の会社に就職。僕は、実は小さい頃から好きだった絵を描くことを生かし、大学でデザインを学んで中堅のデザイン事務所に就職した。
そうして僕達は社会人になっても、変わらず二人で暮らしていた。
本当に何も変わらずに・・・。
理想を絵に書いたような僕たちの生活はいつも穏やかで、お互いの誕生日も祝いあった。だけど、クリスマスだけは毎年何も出来ないでいた。その日はいつも、智明がいないからだ。
僕は毎年、クリスマスも必ずささやかだけどいつもとは違う食卓を用意する。
チキンを焼いて、ケーキを作って、そして部屋を飾ってプレゼントを用意して・・・。だけど、それを智明と過ごしたことは無かった。
智明はいつも、何かと理由をつけてこの日の帰りが遅かったから。
ある時には学校の用事が。またある時には実家に呼ばれて。先輩が、先生が、親が・・・。毎年色々な理由でこの日だけは帰りが遅かった。なのに律儀に日付が変わってから帰ってくるのだ。タクシーまで使って。
最初はせっかく用意したのに残念だな、と思ってたけど、それが3回4回と続くとさすがに故意にやってると気づいてしまう。
クリスマスはあのことがあった日だもんね。
僕が智明の人生を狂わせてしまった日。そんな日にお祝いなんてしたくないよね。
きっと智明にとっては最悪な日なんだろうな・・・。
でも僕はそんな智明に気付かない振りをして、毎年この日の予定を聞く。そしてダメだと分かっていても、クリスマスの用意をして待ってるのだ。
毎年律儀にしなくても、とは思う。どうせ早くは帰ってこないのだから。だけど、智明が本当に断れない用で帰れないと言う演技をするから、それに合わせるしかないのだ。だって僕は気づいてないのだから。本当はその日を嫌っている智明の本心に。だから、僕は毎年クリスマスを用意して、帰らない智明を待つのだ。
そして今年もクリスマスがやってきた。
「智、今日はごちそうを用意するから早く帰ってきてね」
朝食をとりながら僕が無邪気にそう言うと、いつも笑顔の智明の顔が少し曇る。
「ごめん。今日は上司と飲み会があるんだ。早く抜けられるといいんだけど、今日の上司は必ず二次会をやるから、何時に帰れるか分からないんだ」
本当に申し訳なさそうに項垂れる。
「そっかぁ。上司と飲み会じゃしょうがないね。でも用意はしておくから、早く帰れたら帰ってきてね」
「ありがとう。でも帰れなさそうだったらメッセージ入れるから」
「うん。分かった。無理しないでね」
笑顔で答える僕の言葉に、智明はほっとした表情をする。
64
あなたにおすすめの小説
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
至高のオメガとガラスの靴
むー
BL
幼なじみのアカリちゃんは男の子だけどオメガ。
誰よりも綺麗で勉強も運動も出来る。
そして、アカリちゃんから漂うフェロモンは誰もが惹きつけらる。
正に"至高のオメガ"
僕-ヒロ-はアルファだけど見た目は普通、勉強も普通、運動なんて普通以下。
だから周りは僕を"欠陥品のアルファ"と呼ぶ。
そんな僕をアカリちゃんはいつも「大好き」と言って僕のそばに居てくれる。
周りに群がる優秀なアルファなんかに一切目もくれない。
"欠陥品"の僕が"至高"のアカリちゃんのそばにずっと居ていいのかな…?
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】←今ココ
↓
【金の野獣と薔薇の番】
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
王子殿下が恋した人は誰ですか
月齢
BL
イルギアス王国のリーリウス王子は、老若男女を虜にする無敵のイケメン。誰もが彼に夢中になるが、自由気ままな情事を楽しむ彼は、結婚適齢期に至るも本気で恋をしたことがなかった。
――仮装舞踏会の夜、運命の出会いをするまでは。
「私の結婚相手は、彼しかいない」
一夜の情事ののち消えたその人を、リーリウスは捜す。
仮面を付けていたから顔もわからず、手がかりは「抱けばわかる、それのみ」というトンデモ案件だが、親友たちに協力を頼むと(一部強制すると)、優秀な心の友たちは候補者を五人に絞り込んでくれた。そこにリーリウスが求める人はいるのだろうか。
「当たりが出るまで、抱いてみる」
優雅な笑顔でとんでもないことをヤらかす王子の、彼なりに真剣な花嫁さがし。
※性モラルのゆるい世界観。主人公は複数人とあれこれヤりますので、苦手な方はご遠慮ください。何でもありの大人の童話とご理解いただける方向け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる