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「はい、終わったよ。もう病室に戻っていいからね。赤ちゃんは一晩新生児室で預かるから、その間に話し合うといい。簡易ベッドもあるし、君も今日は泊まっていきな」
医師はそう言うとにこりと笑って僕達のところに来る。
「赤ちゃんかわいいだろ?この子はね、一人の親から産まれてくるわけじゃない。どんな子にも親は二人いるんだ。残念なことに産まれた時には一人しかいない子もいるけれど、この子にはちゃんと二人いる。なのにその片方をいま君たちは取り上げようとしている。ちゃんと話し合うべきだ。そしてお互い納得しなくちゃだめだよ。僕の目には少なくとも、父親は納得していないように見える。どんな事情があるかは分からないけど、とことん話してお互いに納得してから決めるべきだ。この子のためにもね」
そう言って出ていった医師と入れ替わるように看護師さんが入ってくる。
「赤ちゃん、新生児室に移しますね」
にこにこ笑いながら僕のところに来た看護師さんは僕の腕からそっと赤ちゃんを抱き上げると、ふと智明を見た。
「抱っこしてみますか?」
看護師さんは事情は分からないまでもこの子の父親だと分かったのか智明にそう言うけれど、当の智明は戸惑ったように僕を見る。
「抱っこしたら?」
別に僕に訊かなくてもいいのに、と思ったけど、ちゃんと僕にお伺いを立てるところは本当に智明らしい。
智明は看護師さんから赤ちゃんを渡されると、まるで宝物を扱うように優しく抱っこして、その顔を柔らかく綻ばせる。その顔が本当に嬉しそうで、幸せそうで、僕の心がわずかに揺れ始める。
そうやってしばらく赤ちゃんを抱っこした後、智明は赤ちゃんを看護師さんに渡し、赤ちゃんは新生児室へ連れていかれた。そして僕達は、別の看護師さんに病室へと案内される。
「ここが病室ですよ。赤ちゃんは問題なければ明日の午後にはこちらへ連れてきますから、今のうちによく休んでくださいね。あと、簡易ベッドがこちらにありますから、お父さんはこれを使ってください」
それからいくつか病室の説明をしたあと、ベッド脇の椅子に置いてある荷物を示した。
「さっき木佐さんが持ってきてくれた荷物はここに置いておきましたから、中身を確認してくださいね。・・・木佐さん、赤ちゃんが産まれるまで廊下にいたんですけど、無事に産まれたのを確認して会社に戻りました。本当にいいごしゅ・・・いい人ですね」
ふふふと誤魔化すように笑って看護師さんは出ていったけど、今『ご主人』て言おうとしたよね・・・。
そりゃそうだよね。今まで健診とかにも何度も一緒に来たし、立ち会いだって本当は木佐さんがするはずだったんだから・・・。
僕、木佐さんにすごく悪いことをしてるんだ。
今の今まで散々木佐さんを頼ってきたのに、いざ産まれるとなったら智明に傍にいて欲しかった。車に乗った時、智明はそのまま僕から離れようとしたのに、僕の方がその手を離したくなくてその手にすがった。
きっとそれが分かったから、木佐さんは智明も車に乗せたんだ。
「あの人と結婚するの?」
しんと静まり返った病室で、不意に智明が言った。
あの人・・・木佐さん?
「あの人が父親?」
それは、赤ちゃんの本当の父親か訊いてるの?それとも、赤ちゃんの父親にこれからなるのかってこと?
「・・・そうなってくれる、て言われた」
その僕の言葉に智明は傷付いた顔をする。
なんでそんな顔をするの?
僕が誰と一緒になったって気になんてならないくせに・・・。
「赤ちゃんの父親は智だよ。あの最後の発情期に授かったみたい。医師に奇跡だって言われた。だからまた授かることは難しいって」
赤ちゃんの父親が智明で、だけど僕の身体が治ったわけじゃない。その事実を本当は本人に言うつもりはなかった。
智明をこれ以上『責任』という言葉で僕に縛り付けたくなかったから。
だけど、この状況じゃ言わざるを得ないのよね。
「・・・僕の子なら、なんで知らせてくれなかったんだ?」
絞り出すようなその声に、僕は話すことを躊躇った。
なぜ智明に知らせなかったのか、それを言うにはなぜ智明から離れたのかという事に繋がる。
医師はそう言うとにこりと笑って僕達のところに来る。
「赤ちゃんかわいいだろ?この子はね、一人の親から産まれてくるわけじゃない。どんな子にも親は二人いるんだ。残念なことに産まれた時には一人しかいない子もいるけれど、この子にはちゃんと二人いる。なのにその片方をいま君たちは取り上げようとしている。ちゃんと話し合うべきだ。そしてお互い納得しなくちゃだめだよ。僕の目には少なくとも、父親は納得していないように見える。どんな事情があるかは分からないけど、とことん話してお互いに納得してから決めるべきだ。この子のためにもね」
そう言って出ていった医師と入れ替わるように看護師さんが入ってくる。
「赤ちゃん、新生児室に移しますね」
にこにこ笑いながら僕のところに来た看護師さんは僕の腕からそっと赤ちゃんを抱き上げると、ふと智明を見た。
「抱っこしてみますか?」
看護師さんは事情は分からないまでもこの子の父親だと分かったのか智明にそう言うけれど、当の智明は戸惑ったように僕を見る。
「抱っこしたら?」
別に僕に訊かなくてもいいのに、と思ったけど、ちゃんと僕にお伺いを立てるところは本当に智明らしい。
智明は看護師さんから赤ちゃんを渡されると、まるで宝物を扱うように優しく抱っこして、その顔を柔らかく綻ばせる。その顔が本当に嬉しそうで、幸せそうで、僕の心がわずかに揺れ始める。
そうやってしばらく赤ちゃんを抱っこした後、智明は赤ちゃんを看護師さんに渡し、赤ちゃんは新生児室へ連れていかれた。そして僕達は、別の看護師さんに病室へと案内される。
「ここが病室ですよ。赤ちゃんは問題なければ明日の午後にはこちらへ連れてきますから、今のうちによく休んでくださいね。あと、簡易ベッドがこちらにありますから、お父さんはこれを使ってください」
それからいくつか病室の説明をしたあと、ベッド脇の椅子に置いてある荷物を示した。
「さっき木佐さんが持ってきてくれた荷物はここに置いておきましたから、中身を確認してくださいね。・・・木佐さん、赤ちゃんが産まれるまで廊下にいたんですけど、無事に産まれたのを確認して会社に戻りました。本当にいいごしゅ・・・いい人ですね」
ふふふと誤魔化すように笑って看護師さんは出ていったけど、今『ご主人』て言おうとしたよね・・・。
そりゃそうだよね。今まで健診とかにも何度も一緒に来たし、立ち会いだって本当は木佐さんがするはずだったんだから・・・。
僕、木佐さんにすごく悪いことをしてるんだ。
今の今まで散々木佐さんを頼ってきたのに、いざ産まれるとなったら智明に傍にいて欲しかった。車に乗った時、智明はそのまま僕から離れようとしたのに、僕の方がその手を離したくなくてその手にすがった。
きっとそれが分かったから、木佐さんは智明も車に乗せたんだ。
「あの人と結婚するの?」
しんと静まり返った病室で、不意に智明が言った。
あの人・・・木佐さん?
「あの人が父親?」
それは、赤ちゃんの本当の父親か訊いてるの?それとも、赤ちゃんの父親にこれからなるのかってこと?
「・・・そうなってくれる、て言われた」
その僕の言葉に智明は傷付いた顔をする。
なんでそんな顔をするの?
僕が誰と一緒になったって気になんてならないくせに・・・。
「赤ちゃんの父親は智だよ。あの最後の発情期に授かったみたい。医師に奇跡だって言われた。だからまた授かることは難しいって」
赤ちゃんの父親が智明で、だけど僕の身体が治ったわけじゃない。その事実を本当は本人に言うつもりはなかった。
智明をこれ以上『責任』という言葉で僕に縛り付けたくなかったから。
だけど、この状況じゃ言わざるを得ないのよね。
「・・・僕の子なら、なんで知らせてくれなかったんだ?」
絞り出すようなその声に、僕は話すことを躊躇った。
なぜ智明に知らせなかったのか、それを言うにはなぜ智明から離れたのかという事に繋がる。
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