まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
18 / 171
序章:すべての旅は、茶番から始まる――剣も魔法もまだいらない

第18話:沈黙の真実、銀の嘘

しおりを挟む
「隊長!『例の魔法使い風の怪しい男』が中央エリアに現れたとの報告です!」



「隣に少年はいたか?」



「はい、帽子を被っていますが、確かに少年のような子が一緒に……」



「それが姫様だ。今すぐ兵士を集めろ。できるだけ多くだ。やつらが町を出る前に、必ず捕まえる!」



「はっ……ですが、よろしいのでしょうか。これ以上中央に兵を送れば、城門の守備が――」



「馬鹿者! 姫様は剣の達人、あの剣聖にすら勝ったお方だぞ。今は剣を持っていないからまだいいが、我々が束になっても勝てる相手ではない。数で押さえるしかない! 城門には最低限の兵だけ残せ!」



「了解!」



こうして、町中のほぼすべての兵士が、中央区に集結した――“剣を持たない姫”を捕らえるために。







「ご協力をお願いしまーす! ただいま、指名手配中の『児童誘拐犯』を捜索中でーす!」



……遠くから、衛兵の声が響く。どうやら最後まで“誘拐犯事件”として通すつもりらしい。まあいい。優しき魔王様は、もう少しこの茶番に付き合ってやろう。



「動くな、誘拐犯! その子どもをすぐに解放しろ! 貴様らはすでに包囲されている!」



「誘拐犯とは物騒な。私は法律を守り、税も漏らさぬ立派な良民だ。名誉毀損で訴えるぞ、税金泥棒が」



「そこにいる少年がなによりの証拠だ! まさか、自分の子供だと言い張るつもりか?」



「我が子だと主張してもいいが、さすがに芸がないな。どうだ? この子の意見も聞いてみよう。さあ、私は君を誘拐したか?」



少年は、ゆっくりと首を横に振った。――違う、と。



「ほら見ろ。本人が否定しているではないか。ただ大人と子供が一緒に歩いていただけですぐ犯罪者とか、ロリコンとかほざく、これだから、人間は手に負えない。……で? この子の“本当の親”はどこに?」



「それは……」



「できるわけがない。か? 自分の子ではないと主張しながら、“本当の親”の姿も示せぬ。今の状況では、君たちこそが誘拐犯に見えるぞ?」



少年――いや、少女は黙って頷いた。



「話は終わりだ! 魔法使いに構うな! まずはその子どもを――!」



「……なるほど、これが“自由都市”の正体か。証拠もなく罪人扱い。悲しいことだな、なあ? 勇者セリナよ」



「はい。悲しいです、マオウさん」



「……なにっ!?」



帽子を取った“少年”の姿は――レンではない。



それは、我らが勇者セリナだった。



「騙された!? 全兵、門へ急げ!!」







――お前たちの敗因を五つ、教えてやろう。



①:私がセリナの随伴者だと知らなかった。そのため“この少年がセリナである”可能性を無視した。



②:私をレンの協力者だと決めつけた。だが、私とレンが常に一緒にいるとは限らない。



③:“メイド服と聖剣”でしかセリナを識別していなかった。顔すら覚えぬとは、まるで熾天使ルキエルにでもなったつもりか?



④:城門の兵を減らしたのは失策だ。いくらレンの剣を恐れていても、武器を持たぬ十四歳の少女に、町中の兵を集中させるとは――思考が恐怖に支配されている。



⑤:あくまで私を“誘拐犯”と決めつけ、堂々と時間稼ぎに付き合ったことだ。



――感謝する。とても助かった。







一方このころ、城門に一人のメイド少女が見合わない剣を背負って町を出ようとしている。



「あれが、噂のメイド勇者か……本当にメイド服で聖剣を背負っている。それでも勇者になったつもりか?」



「門を開けてくださ~いな、衛兵のお・に・い・さ・ん♪」



「は? なんだ貴様……メイド勇者風情が――ひっ!?」



セリナ(?)が腰の装飾用聖剣を抜いた瞬間、場の空気が一変した。



それは、まるで真剣のような殺気。衛兵の喉元に、一瞬で突きつけられたそれを、冗談と受け取る者などいない。



「門をあ・け・ろ♪こ・ろ・す・ぞ♪」



――門は、開かれた。



潇洒に、門を駆け抜ける銀髪のメイド勇者。



「あの娘から貰った聖剣の模造品…剣として軽すぎのが難点だね、力加減を間違ったら本当に殺してしまったかも。」



もはや、彼女を止めるものは何もない。



「それでは、諸君。私は“勇者のお供”として、“魔王を倒す”という重大な使命があるゆえ、これにて失礼させていただくよ。……セリナ君。」



「はい! なんかよく分かりませんが、マオウさんの言う通りにしてれば、なんとかなる気がします!」



――かくして、魔王と勇者(仮)は、自由都市グラナールをあとにした。



一件落着(?)!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...