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第一章:覚醒せよ、灰かぶりの勇者――ゴーストタウンに隠された声
第29話:灰となるまで
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悲劇は、予告なく訪れる。
朝から、お母さんの熱が下がらなかった。
「しっかりしろよ……! すぐ医者を呼んでくる!」
「慌てすぎよ、あなた。ただの風邪よ。寝ていれば治るから」
そう言うお母さんの顔は、明らかに風邪どころではないほど苦しそうだった。
お父さんも今までに見たことのないほど取り乱していて――
まるで、これから訪れる"結末"を、どこかで悟っていたかのようだった。
「お父さん、医者を探してくる。ユキナはお母さんのそばで看病しててくれ」
「……ダメ」
私は、なぜか咄嗟にお父さんを引き止めていた。
行っちゃダメ。
この家から出たら、もう――
お父さんは帰ってこない。
この小さな家族が、壊れてしまう。
「どうした? 今日のユキナはやけに甘えん坊だな……大丈夫、お父さんはすぐ帰ってくるからな」
そう言って優しく頭を撫で、玄関を出ていったお父さんは――
二度と帰ってこなかった。
お母さんの容態は悪化する一方だった。
いくら冷たいタオルを変えても、呼吸は荒く、意識もどんどん朧げになっていく。
「ユ……キ……ナ……」
「お母さん!」
もう、ほとんど声も出せないはずなのに――
お母さんは、最後の力を振り絞るように言った。
「お母さん……ユキナの……花嫁姿が……見たかった……」
「……なにを言ってるの。ユキナは、まだ十四歳だよ? そんなの、まだ早いよ……
でもね、お母さん。あと何年かかっても、ちゃんと立派なお嫁さんになるから。だから――」
「……そっか……それは……楽しみね……」
そう言ったお母さんは、それっきり――二度と目を開けることはなかった。
そして、彼女の身体は、まるで燃え尽きるように……
灰となって消えた。
不思議と、私は涙を流さなかった。
――知っていたのだ。
公爵が村を訪れたことも。
村が封鎖されたことも。
お父さんが戻ってこないことも。
お母さんが死ぬことも。
……そして、この村が地獄に変わることも。
扉を開けると、そこには地獄があった。
苦しみながら助けを求める人。
愛する人を失って泣き叫ぶ人。
現実を受け入れられず錯乱する人。
絶望に打ちひしがれて、世界を呪う人――
だけど、誰ひとりとして助からない。
やがて皆、灰になる。
この光景を、"私の中のユキナ"は――
三十年前から、ずっと見続けていた。
この悪夢から、誰も目覚めることはなかった。
私は医者の家へ向かった。
そこにあったのは、かつてのお父さんだった"何か"の、名残だった。
火がすべてを焼いた。
炎は、この村にあった記憶を――そして幸せを、焼き尽くした。
そして同じ頃、王都では――
「よくぞ来てくれました、異世界の勇者よ。我らの世界を、どうかお救いください!」
異世界勇者の召喚は、成功した。
世界を救うという"勇者様"。
――なぜ、私たちの村は、救ってくれなかったのですか?
朝から、お母さんの熱が下がらなかった。
「しっかりしろよ……! すぐ医者を呼んでくる!」
「慌てすぎよ、あなた。ただの風邪よ。寝ていれば治るから」
そう言うお母さんの顔は、明らかに風邪どころではないほど苦しそうだった。
お父さんも今までに見たことのないほど取り乱していて――
まるで、これから訪れる"結末"を、どこかで悟っていたかのようだった。
「お父さん、医者を探してくる。ユキナはお母さんのそばで看病しててくれ」
「……ダメ」
私は、なぜか咄嗟にお父さんを引き止めていた。
行っちゃダメ。
この家から出たら、もう――
お父さんは帰ってこない。
この小さな家族が、壊れてしまう。
「どうした? 今日のユキナはやけに甘えん坊だな……大丈夫、お父さんはすぐ帰ってくるからな」
そう言って優しく頭を撫で、玄関を出ていったお父さんは――
二度と帰ってこなかった。
お母さんの容態は悪化する一方だった。
いくら冷たいタオルを変えても、呼吸は荒く、意識もどんどん朧げになっていく。
「ユ……キ……ナ……」
「お母さん!」
もう、ほとんど声も出せないはずなのに――
お母さんは、最後の力を振り絞るように言った。
「お母さん……ユキナの……花嫁姿が……見たかった……」
「……なにを言ってるの。ユキナは、まだ十四歳だよ? そんなの、まだ早いよ……
でもね、お母さん。あと何年かかっても、ちゃんと立派なお嫁さんになるから。だから――」
「……そっか……それは……楽しみね……」
そう言ったお母さんは、それっきり――二度と目を開けることはなかった。
そして、彼女の身体は、まるで燃え尽きるように……
灰となって消えた。
不思議と、私は涙を流さなかった。
――知っていたのだ。
公爵が村を訪れたことも。
村が封鎖されたことも。
お父さんが戻ってこないことも。
お母さんが死ぬことも。
……そして、この村が地獄に変わることも。
扉を開けると、そこには地獄があった。
苦しみながら助けを求める人。
愛する人を失って泣き叫ぶ人。
現実を受け入れられず錯乱する人。
絶望に打ちひしがれて、世界を呪う人――
だけど、誰ひとりとして助からない。
やがて皆、灰になる。
この光景を、"私の中のユキナ"は――
三十年前から、ずっと見続けていた。
この悪夢から、誰も目覚めることはなかった。
私は医者の家へ向かった。
そこにあったのは、かつてのお父さんだった"何か"の、名残だった。
火がすべてを焼いた。
炎は、この村にあった記憶を――そして幸せを、焼き尽くした。
そして同じ頃、王都では――
「よくぞ来てくれました、異世界の勇者よ。我らの世界を、どうかお救いください!」
異世界勇者の召喚は、成功した。
世界を救うという"勇者様"。
――なぜ、私たちの村は、救ってくれなかったのですか?
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