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第一章:覚醒せよ、灰かぶりの勇者――ゴーストタウンに隠された声
第31話:終始円環(オーロボロス・コンチェルト)
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「――聖剣戦略! 私再改造!!」
その一言が、夜の静寂を切り裂いた。
まばゆい光が足元から巻き上がり、聖なる羽根が宙を舞う。銀色の光線が少女の体をなぞるように走り、まるで裁縫師が糸を紡ぐように、彼女の身に"衣"が織り込まれていく。
完成したのは、黒を基調としたクラシカルなメイド服――しかし、ただの従者の装いではない。白銀の羽飾りと金の縁取りが加わり、"聖域の守護者"としての神聖な威厳が備わっていた。
背中からは透き通った光翼がふわりと広がり、羽ばたくたびに金と白の粒子が夜空を舞う。柔らかな髪が光に揺れ、額には淡く輝くティアラのような光輪が浮かび、慈愛と威厳を帯びた眼差しが宵闇を貫いた。
「え……なにこれ……」
状況を理解する間もなく、セリナは天に手をかざし、呪文を唱え、そのまま長い変身シーンに突入した。
「なるほど……"天使化"か」
聖剣は、天界との契約を具現化した存在。その加護を受けて天使の力を引き出すことも、ありえない話ではない。
そういえば『勇者ジャスティスライター』にも独自の変身呪文があったな……ただ、セリナのは……どこか魔法少女寄りだ。気のせいか?
――にしても。
このタイミングで第二形態突入だと? まさか三段変身まであるベタ展開じゃないだろうな!?
おい、ボスキャラはこっちだぞ!? 勇者側にだけ盛るな! クレームもんだぞ!!
「……まあ、いい。ここまで辿り着いたのは見事。育成計画が成功した証だ。よし、私も少し本気を出すとしよう。それで死ぬなよ、勇者セリナ」
「マオウさん? なに一人で盛り上がってるんですか……あれ? ここは……?」
正気に戻ったか? いや、油断は禁物だ。怨霊がセリナの口調を真似て油断を誘っている可能性もある。慎重に見極めねば――
「マオウさん、私……背中に翼が生えてます。これって、病気でしょうか……?」
本物だ。この天然は誰にも真似できない。
「……天使化、ですか。すごいですね。そんなことまでできるんですね」
他人事のようなその口ぶり。どれだけ見た目が変わっても、中身はやっぱりあのセリナだ。
呆れながらも、なぜか心が落ち着いた。
「ところで、"育成計画"ってなんですか?」
「君の教育方針についての話だ。この依頼が終わったら教養面も強化しようと思っていた。最近は体ばかり鍛えていて、バカになってないか心配だから」
「ひどいです! 私、バカじゃありませんよ! 失礼です!!」
ああ、バカな娘で助かった。
――これで遠慮なく、幽霊たちに引導を渡せる。
だが、そのときセリナが私の前に立ちはだかった。
「ダメです。この幽霊さんたちは"敵"じゃありません。彼らは……!」
「勇者カズキを召喚するための人柱――ああ、知っているとも。
だがな……ここまでよくも、この私を滑稽にしてくれたな。
先に言っておくが、これは"正義"じゃない。私怨だ」
「やめてください。大人になりましょうよ、マオウさん……」
「……本当にできるんだろうな。失敗すれば、私が直ちに魔法で強制的に成仏させてやる。――いいな?」
「もう……信じてください、マオウさん!」
セリナはそう言って、ふわりと空へ舞い上がった。
怨霊たちが、まるで彼女に救いを求めるかのように、空へと集まっていく。
そして――
「始まりは終わり、終わりは始まり。
廻れ、命の車輪よ。
世界を繋ぐ輪を成せ、理の環よ。
今ここに、時と意志とを交わらせ、
汝なんじの憎しみも、愛も、すべてを抱いて――
導け……」
「――終始円環オーロボロス・コンチェルト」
聖剣が天に掲げられたその瞬間、まばゆい光が夜空を裂き、ゴーストタウンの隅々まで降り注いだ。
光が怨霊たちの体を優しく包み、その表情を安らかに変えていく。泣き声はやがて静まり、魂たちは安らかな表情で、この世を後にした。
これは、攻撃じゃない。
セリナの――その優しさの、具現だった。
なぜ、前の勇者一行は"封印"を選んだのか。
勇者カズキは、自分には彼らの憎しみを受け続けるべきだと考えたのだろう。
だから、その苦しみに蓋をして、その業を背負う道を選んだ。
でも、セリナなら。
彼女なら、その憎しみも、怒りも、悲しみも――
すべてを、包み込み、抱きしめてあげられる。
ゴーストタウンに閉じ込められ、三十年もの間苦しみ続けた魂たちは――
ようやく、あの日の悲劇から解き放たれた。
ホップタウンはもう存在しない。
けれど、"ゴーストタウン"という呪われた名も、今この日をもって歴史となった。
……まったく、たいした勇者だ。
私はただ、光の中に舞い降りた――天使のような彼女を、静かに見つめていた。
その一言が、夜の静寂を切り裂いた。
まばゆい光が足元から巻き上がり、聖なる羽根が宙を舞う。銀色の光線が少女の体をなぞるように走り、まるで裁縫師が糸を紡ぐように、彼女の身に"衣"が織り込まれていく。
完成したのは、黒を基調としたクラシカルなメイド服――しかし、ただの従者の装いではない。白銀の羽飾りと金の縁取りが加わり、"聖域の守護者"としての神聖な威厳が備わっていた。
背中からは透き通った光翼がふわりと広がり、羽ばたくたびに金と白の粒子が夜空を舞う。柔らかな髪が光に揺れ、額には淡く輝くティアラのような光輪が浮かび、慈愛と威厳を帯びた眼差しが宵闇を貫いた。
「え……なにこれ……」
状況を理解する間もなく、セリナは天に手をかざし、呪文を唱え、そのまま長い変身シーンに突入した。
「なるほど……"天使化"か」
聖剣は、天界との契約を具現化した存在。その加護を受けて天使の力を引き出すことも、ありえない話ではない。
そういえば『勇者ジャスティスライター』にも独自の変身呪文があったな……ただ、セリナのは……どこか魔法少女寄りだ。気のせいか?
――にしても。
このタイミングで第二形態突入だと? まさか三段変身まであるベタ展開じゃないだろうな!?
おい、ボスキャラはこっちだぞ!? 勇者側にだけ盛るな! クレームもんだぞ!!
「……まあ、いい。ここまで辿り着いたのは見事。育成計画が成功した証だ。よし、私も少し本気を出すとしよう。それで死ぬなよ、勇者セリナ」
「マオウさん? なに一人で盛り上がってるんですか……あれ? ここは……?」
正気に戻ったか? いや、油断は禁物だ。怨霊がセリナの口調を真似て油断を誘っている可能性もある。慎重に見極めねば――
「マオウさん、私……背中に翼が生えてます。これって、病気でしょうか……?」
本物だ。この天然は誰にも真似できない。
「……天使化、ですか。すごいですね。そんなことまでできるんですね」
他人事のようなその口ぶり。どれだけ見た目が変わっても、中身はやっぱりあのセリナだ。
呆れながらも、なぜか心が落ち着いた。
「ところで、"育成計画"ってなんですか?」
「君の教育方針についての話だ。この依頼が終わったら教養面も強化しようと思っていた。最近は体ばかり鍛えていて、バカになってないか心配だから」
「ひどいです! 私、バカじゃありませんよ! 失礼です!!」
ああ、バカな娘で助かった。
――これで遠慮なく、幽霊たちに引導を渡せる。
だが、そのときセリナが私の前に立ちはだかった。
「ダメです。この幽霊さんたちは"敵"じゃありません。彼らは……!」
「勇者カズキを召喚するための人柱――ああ、知っているとも。
だがな……ここまでよくも、この私を滑稽にしてくれたな。
先に言っておくが、これは"正義"じゃない。私怨だ」
「やめてください。大人になりましょうよ、マオウさん……」
「……本当にできるんだろうな。失敗すれば、私が直ちに魔法で強制的に成仏させてやる。――いいな?」
「もう……信じてください、マオウさん!」
セリナはそう言って、ふわりと空へ舞い上がった。
怨霊たちが、まるで彼女に救いを求めるかのように、空へと集まっていく。
そして――
「始まりは終わり、終わりは始まり。
廻れ、命の車輪よ。
世界を繋ぐ輪を成せ、理の環よ。
今ここに、時と意志とを交わらせ、
汝なんじの憎しみも、愛も、すべてを抱いて――
導け……」
「――終始円環オーロボロス・コンチェルト」
聖剣が天に掲げられたその瞬間、まばゆい光が夜空を裂き、ゴーストタウンの隅々まで降り注いだ。
光が怨霊たちの体を優しく包み、その表情を安らかに変えていく。泣き声はやがて静まり、魂たちは安らかな表情で、この世を後にした。
これは、攻撃じゃない。
セリナの――その優しさの、具現だった。
なぜ、前の勇者一行は"封印"を選んだのか。
勇者カズキは、自分には彼らの憎しみを受け続けるべきだと考えたのだろう。
だから、その苦しみに蓋をして、その業を背負う道を選んだ。
でも、セリナなら。
彼女なら、その憎しみも、怒りも、悲しみも――
すべてを、包み込み、抱きしめてあげられる。
ゴーストタウンに閉じ込められ、三十年もの間苦しみ続けた魂たちは――
ようやく、あの日の悲劇から解き放たれた。
ホップタウンはもう存在しない。
けれど、"ゴーストタウン"という呪われた名も、今この日をもって歴史となった。
……まったく、たいした勇者だ。
私はただ、光の中に舞い降りた――天使のような彼女を、静かに見つめていた。
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