まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ

第106話:反撃の狼煙、英雄たちの帰還

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王都旧北門前、真・勇者マサコは両親であるカズキ王夫妻救出のため、衛兵隊と激突していた。
しかし戦況は圧倒的に不利だった。
「矢を放て!」
遠い所から一斉に放たれる矢の雨。剣士であるマサコにとって、この遠距離攻撃は対処しつらい脅威だった。
「槍兵隊、前へ!」
槍の穂先が太陽の光を反射しながら壁を形成する。剣の届かない距離から、衛兵たちは確実に彼女を押し戻す。
(くっ...じわじわと消耗させていく気か)
額を伝う汗が地面に落ちる。師匠の王小梅と背中合わせになりながら、マサコは歯を食いしばった。
マサコはある事実に気付いていた。
(師匠の動き...俺を守るために制約を受けている...!)
「双龍旋掌(そうりゅうせんしょう)」王小梅が両手を大きく開き、その場で高速回転を始める。
竜巻のような気の渦が、飛来する矢を次々と弾き返していく。
(パリン! パリン!)
マサコに向かう矢さえも、寸前で弾かれる。
敵司令官の目が鋭く光った。
(師匠の弱点が俺だと気づかれている)
即座に命令が飛ぶ。
「全員、王子を優先狙撃せよ!」
衛兵たちの槍が一斉にマサコへと襲いかかる、槍の穂先が次々と彼女に突き立てられる。
「八卦震脚陣(はっけしんきゃくじん)」王小梅が地面を蹴りつける。その足跡が八卦陣を描きながら、
(ドーン!)
衝撃波が地を這い、半径十メートル以内の衛兵をなぎ倒した。
(師匠...)
マサコは守られながらも、小梅の状態に気づいていた。
額に浮かぶ脂汗、次第に深くなる呼吸、わずかに震える指尖。すでに3時間に及ぶ戦闘。高密度な"気"の使用が、さすがの師匠にも影響を及ぼし始めている。
そして敵は。
「第二陣、交代!」
衛兵たちは疲れを知らないように新手と入れ替わる。まるで無限の兵隊が待機しているかのようだ。
(この消耗戦...まさに蟻地獄だ)
マサコが拳を握りしめる。
(このままでは師匠が...!)
「第三弓兵隊、射撃用意!」
指令が響いた次の瞬間──
ヒュン、ヒュン、ヒュン──!
矢の雨が再び降り注ぐ。その密度は前回よりも増していた。
「双龍旋掌(そうりゅうせんしょう)」小梅はまだ姿勢を構え回転は速度は明らかに鈍っている。そこに隙が生じた。
「ッ!」鋭い痛みが走る。右腕に2本、肩に1本、左脚1本。要処を外させたものの、怪我と疲労で彼女の呼吸が乱れ、”気”の流れに淀みが生じた。
「今だ!」
敵兵たちが見逃すはずもない。無数の槍が一斉に小梅に向けて突き出される。
「師匠に何をする──っ!!」
マサコが猛然と前に躍り出る。剣が閃き、
(キン! キン!)
槍の穂先を次々と弾き飛ばした。
(師匠は正しかった。)
マサコの拳が微かに震える。地面に落ちた汗が血と混ざり合う。
マサコの視線の先には、果てしなく続く敵兵の波。鎧のきらめきが夕日に照らされ、無数の槍が蟻塚のように蠢いている。
「こんな大軍を前にして...」
握り締めた剣から血が滴る。
「王宮に入るどころか...城門の前で足止めを食らうなんて...」
ふと、頬を伝う汗が傷口に染みる。もし師匠の加護がなければ──
(あの矢の雨の中...三度目には...)
「俺の判断は...間違ってたのか?」
「ふん!」
小梅の声が鋭く響く。
「戦士が己の選んだ道を後悔するなどみっともないある!」
小梅の赤髪が戦場の風に舞う。その瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。
「 小梅は覚悟を決めて弟子と死地に飛び込んだね。たとえこれが最期となろうとも、小梅は一片の後悔もないある!」
「...師匠」
掌から滴る血を気にも留めず、小梅はマサコの肩を強く叩く。
「小梅の弟子が、情けない顔をするのを見たくないね」
「そうだだ」マサコは剣を握り締めた。
「女になってから弱気になってた...格好悪いぜ」
背中を小梅に預けながら、
「間違ってなんかいない!胸を張って進むだけだ!師匠と共に死ぬまで戦おう!」
「小梅は死ぬ気ないね、百歳以上長生きするつもりある。」
「ああ、俺もだ!史上最強の勇者になるまでは!」
二人の"気"が共鳴し、眩い黄金のオーラが渦巻いた。次の瞬間──
(バン!)
二人の姿が視界から消え、槍兵たちが次々と空中へ吹き飛ばされる。
「奴らを仕留めろ! 弓隊は──」
衛兵隊長の命令は途中で途切れた。
(ズブッ!)
一本の矢が彼の眉間を貫く。
「狙撃手がいる! 探せ!」
(ズドン!)
二本目の矢が喉元に突き刺さり、隊長は崩れ落ちた。
「どこから──あッ!」
城壁上の弓兵たちが、次々と不可視の矢に倒れていく。
千メートル離れた屋根の上、カルド・ファルケンが弓弦を撫でながら呟いた。
「やっぱりこっちの方が使いやすいな」
ストーン爺さんが必死に走り、教会で真・勇者パーティーに知らせた甲斐があった。
「あれが...マサキか?」
ガルドが目を細める。修行に出たはずの幼馴染は、どう見ても少女だった。
「俺の目が悪いのか? ...いや、間違いない」
普段無表情な彼の口元に、わずかに微笑みが浮かんだ。
「...間に合ってよかった」

「あの矢の技量...間違いない、ガルドだ! ということは──」
遠方から地響きのような轟音が近づいてくる。逃げ惑う衛兵たちの群れを押し分け、その正体が現れた。
「バカ王子、生きてたっすか! ...って、なんだその美少女姿! で、でか...うちより胸デカいじゃないっすか!」
10メートル級の霜石ゴーレムを従え、ウェディングドレス姿のリリアンヌが登場した。"氷の魔女"の異名を持つ彼女は、指先で描く魔法陣だけで属性付きゴーレムを錬成できる実力者だ。
「リリ! お前結婚したのか? なんで俺呼ばれてないんだよ」
"結婚"という単語に、リリアンヌの眉がピクッと跳ね上がった。
「おのれクセリオスめ! うちの結婚式を台無しにしやがって...行き遅れになったらどうしてくれるっすか! 氷漬けにして極地で永久冷蔵してやるっす!」
ゴーレムが巨大な拳を高々と掲げ、地面めがけて叩きつける──
(ドゴォォン!)
衝撃波が周囲の敵兵を吹き飛ばした。
「バカ! 俺たちも巻き込まれてるぞ!」
マサコと小梅も例外なく空中に放り出されるが、その時──
(ピカーン!)
二つの光が弧を描き、二人を優しくキャッチした。
「マーリン!」
ヴァルキリー化したマーリンが微笑む。
「マサキ様、お久しぶりです。随分と...可愛らしくなられましたね」
「フィ老師!」
元勇者パーティーの聖女、現大司祭フィロメナが頷く。
「小梅ちゃん、立派に弟子を守れるほど成長されたんですね。神に感謝しなければ」
「全軍、戦線を維持せよ!」
指揮官が怒声を張り上げるも、崩れゆく陣形を止められない。血と塵にまみれた部下に向かい、
「急げ! 南門から増援を──」
「申し訳ありません! 南門より先刻から『至急援軍を』との連絡が...」
「何だと!?」
指揮官の顔が蒼白になる。鎧の下で冷や汗が背中を伝う。
「...馬鹿な。これまで南門襲撃の兆候など...」
「それが…」

「アスにゃんの恋愛相談所出張サービス、今なら無料の上地獄への旅をおつけします♡片道のチケットしかないですけど」
南門が突然うねりだし、漆黒の門へと変貌した。門上部に刻まれた72のシジルのうち、2つが不気味に輝く。
色気たっぷりに現れたのは色欲の悪魔アスモデウス。その傍らには──
「アスちゃん、罪人の魂が食べ放題で本当?ベルそのためだけ来た、デース。」黒いマント付きのロープを羽織り死んだ魚のような目をした少女がぶら下がっている。
「もうちんだよ♡、だ・け・ど、明星が起きる前のタイム制限があるよ。どのくらい食べられるかアルルしたいね♡」
「え~面倒くさいデース」
突然現れた二人に衛兵が剣を構える。
「何者だ! 反乱勢力の──」
「あなた、美味しそうな魂をしているデース、ちょっと味見を」少女の手から黒いデスサイズが現れ、
(ザクッ!)
次の瞬間、衛兵は欠片なく喰らい尽くした。
「これは病みつきになるほど罪な味デース、でも足りない。」舌なめずりしながら、先の味を吟味している。周囲の衛兵たちは異様を感じ彼女たちを囲んだ。少女は周囲の衛兵たちを見回す。
「おや、食事が自分から集まってきたデース?いい宴になりそうデース。」不気味に首を傾げ
「では、テーブルマナーとして名乗らせください」突然、背中から黒い翼が広がった。「72柱の悪魔の一柱、暴食の悪魔ベリアル、デース。みなさんの穢らわしい魂をご馳走するために地獄から参ったデース」
「さあ...」
デスサイズが不自然にねじれ、
「いただきますデース...」
最後の言葉と共に、周囲の衛兵たちが次々と黒い炎に飲み込まれていった。
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