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第一章:領主一年目
酒場の完成
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アンゲリカの店が完成したと連絡が入ったので様子を見にきた。場所は中央広場の東で、教会や商店と同じ並びだ。作業をしていたみんなはすでに帰ったのか、店の周囲には誰もいないようだ。
「立派なお店ですね。夢のようです」
「そうだな。ここがいっぱいになるといいな」
「はい」
店の表には『アンゲリカの酒場』という看板が取り付けられている。いつの間にか店の名前も決まっていたようだ。今後はこの名前で呼ぶか。
「名前はこれでよかったのか?」
「アンゲリカとエルマーの店でもよかったのですが、そうするとエルマー様が料理すると思われてしまいますので」
「できなくはないが、金が取れるほどの腕前ではないからな」
「今度作っていただけませんか?」
「そのうちな。では中を見てみるか」
まだ錠もないので誰でも立ち入ることができる。営業を開始するころにはそのあたりも用意しなければならないだろう。
「広いですね。壁があまりありませんが大丈夫でしょうか?」
「柱と梁で支えているようだな。うちのあたりの建て方ではこうはいかないな。フランツとオットマーが頑張ってくれんだろう」
壁を作ってからその上に屋根を乗せるのがこの国でよく見られる家の建て方だ。壁ではなく柱を使っているということは……
「なるほど、木の柱の外側に石を巻いて、さらに土魔法で強化されているな。シュタイナーたちも協力してくれたのか。おそらくこれなら酔っ払いが何かしても建物に問題が起きることはないだろう」
「それなら大丈夫ですね」
仮に鉄の棒で殴り続けて石が割れたとしても中には木の柱があるから、その木の部分までどうにかならない限りは建物が潰れることはない。俺が住民を運ぶ鍋を作ったのと基本は同じだ。柱はそれなりの数があるが、壁で向こうが見えないよりはずっと見通しがいい。
ホールにはカウンター席とテーブル席がある。あくまで飲食店なので二階はない。二階とは、まあ連れ込み宿だ。いずれはそのような店も必要になるだろう。そうは言ってもどのように店員を集めるかが問題だが。
最初から娼婦になりたくてなる者はいない。他の仕事がないならなることがほとんどだ。中には金持ちに取り入ることで成り上がろうと考えている野心的な者もいるそうだが、なかなかそう上手くはいかないだろう。
「扉がいくつもあるな」
「端から順番に見ていきましょう」
「それでは一番奥からにするか」
ホールの一番端にあった扉を開ける。開けるとさらに扉が三つあり、それぞれ中がトイレだった。数からして客用だろう。
「トイレは中か」
「外ではないのですね」
「掃除の手間を考えれば外の方がいいが、これなら水でざっと流せばいいか」
当然トイレは下水に繋がっているが、おそらく床にある穴は掃除の水を流すためのものだろう。気になるなら森の掃除屋を置いておけばいいだろう。
「それでは次だな」
ホールの壁には二つ扉がある。二つとも、それぞれ一〇人ほど食事ができそうな部屋になっていた。
「個室だろうな」
「身内で何かお祝いでもするのにいいですね」
「そうだな。ハイデなら、何かめでたいことがあればみんなで祝ったが、人が増えればそうもいかないだろう」
いつまでも前のままではいけない。人が増えればやり方も変えなくてはならない。
「あちらが厨房か」
「かなり広いですね。カウンターも立派ですね」
おそらく土魔法で表面をなめらかにした立派なカウンターの向こうには、厨房にありそうな石窯などが並んで……いなかった。
「何もないですね」
「場所は空いているから、まだ作っていないだけか、それとも何か理由でもあるのか。付け忘れということもないだろう。設置するならこのあたりになるはずだからな。この後で確認しよう」
「はい」
そのカウンターの横にも扉が二つあり、やはり一度に一〇人ほどが食事ができそうだ。ただし場所が微妙だな。
「ここも……個室か、それとも物置か、微妙なところだな」
「厨房が近いので食材置き場として使えそうですね」
「だが厨房の裏もあるから、食材を置くならそちらじゃないか?」
「それもそうですね。扉を開け閉めする手間を考えれば。休憩室に使えばいいでしょうか。でもこの扉だけ閉じ具合が違うのが気になります。ピッタリと閉まります」
「何だろうな。厨房の熱が伝わりにくいとかか?」
そこから裏口の方に向かうと、トイレがあった。
「ここにもトイレがありますね」
「場所的には店員用だろうな」
裏口も設置されていて、その近くにトイレがあった。裏口にも錠がないので用意しなければいけないな。厨房の裏側、客からは見えないスペースはおそらく荷物置き場になるだろう。
結局、カウンターの裏が物置、その側には裏口とトイレ、カウンターの近くに小部屋が二つ、ホールに小部屋が二つ、端にトイレの入り口、おそらくそうなっているはずだ。石窯などがまったくないことだけは確認しないとな。
◆ ◆ ◆
「ああ、ヨハン、いいところにいた」
「何かありましたか?」
アンゲリカの酒場の確認が終わったので城へ戻る途中、商店のところにヨハンがいたので厨房について確認することにした。
「いや、立派な店だった。思った以上だった。それで先ほど中を見て回って気付いたんだが、厨房に石窯や焜炉がなかっただろう。設置はこれからか?」
「それはエルマー様が魔道具を用意して設置するだろうと親方が言いましたので、場所だけ空けておきました」
親方とはフランツとオットマーの二人だ。彼らは大工として専門的な知識があるので、棟梁たちから親方と呼ばれるようになった。ヨハンたちは見様見真似で大工をしていたから、今さらだが二人から技術を学んでいる。親方の下に棟梁というのも正しいのか間違っているのかよく分からないが、誰のことか分かればそれでいい。
「俺が魔道具を? まあ王都で仕入れるし、設置も土魔法でできるが」
「はい、エルマー様なら必ずそうするだろうから任せておけばいいと」
「なぜ必ずなんだ?」
「……あれ? アンゲリカさんって……」
「私に何かありましたか?」
「いえ、エルマー様と……そういうご関係なのでは?」
……どこからそういう話が出たんだ? おい、アンゲリカ、その笑顔は何だ?
「フランツたちがそう言ったのか?」
「はい。大きな町なら領主が愛人に店を持たせるのはよくあることだと。町の女性陣に紹介していたのもそういう意味があったのだろうと。自分の女が店を持つことになるから繁盛させてやってくれ、でも絶対に手は出すなよ、ということだろうと言っていました。違ったのですか?」
「違う違う。そもそもここは大きな町じゃないだろう」
「私はいつでも問題ありません!」
「混ぜっ返すな、アンゲリカ。ヨハン、みんなには違うと言っておいてくれ」
「主婦たちが広めていたのでもう難しいかもしれませんが、一応そう言っておきます」
どうしてそんな話になった? 俺が何かしたか? 手を出した覚えもない……あ、俺がいないときに男や寄ってきたら足の甲を踏みつけてとか何とか、主婦の誰かがアンゲリカに言っていたが、あのときからそう思われていたのか?
「そもそも、アンゲリカと知り合ってから、まだあまり日が経っていないぞ」
「でもカレン様とは知り合った次の日ご結婚されたはずでしたよね? ハイデでそう聞きましたが」
…………それを言われるとキツい。そのあたりの経緯もカレンが酔って話したから、ハイデの連中にはバレている。そうすると早いか遅いかは問題なしになってしまう。
「ヨハンさん、小部屋がいくつもありましたが、あれは全部個室ですか? 一つだけ閉まり具合が違う扉がありましたが」
「ええっと、ホールにあったのは普通の個室です。奥の二つですが、カウンターに近い方は普通に休憩室として使えるそうです。裏口に近い方は、どれだけ大きな声を出しても漏れないようになっているそうです。親方たちの力作だそうです」
「ありがとうございます! 頑張ります! みなさんにもよろしくお伝えください!」
アンゲリカは胸の前でグッと拳を握っている。
「待て、そっちは頑張らなくていい。頑張るなら料理の方だ」
「立派なお店ですね。夢のようです」
「そうだな。ここがいっぱいになるといいな」
「はい」
店の表には『アンゲリカの酒場』という看板が取り付けられている。いつの間にか店の名前も決まっていたようだ。今後はこの名前で呼ぶか。
「名前はこれでよかったのか?」
「アンゲリカとエルマーの店でもよかったのですが、そうするとエルマー様が料理すると思われてしまいますので」
「できなくはないが、金が取れるほどの腕前ではないからな」
「今度作っていただけませんか?」
「そのうちな。では中を見てみるか」
まだ錠もないので誰でも立ち入ることができる。営業を開始するころにはそのあたりも用意しなければならないだろう。
「広いですね。壁があまりありませんが大丈夫でしょうか?」
「柱と梁で支えているようだな。うちのあたりの建て方ではこうはいかないな。フランツとオットマーが頑張ってくれんだろう」
壁を作ってからその上に屋根を乗せるのがこの国でよく見られる家の建て方だ。壁ではなく柱を使っているということは……
「なるほど、木の柱の外側に石を巻いて、さらに土魔法で強化されているな。シュタイナーたちも協力してくれたのか。おそらくこれなら酔っ払いが何かしても建物に問題が起きることはないだろう」
「それなら大丈夫ですね」
仮に鉄の棒で殴り続けて石が割れたとしても中には木の柱があるから、その木の部分までどうにかならない限りは建物が潰れることはない。俺が住民を運ぶ鍋を作ったのと基本は同じだ。柱はそれなりの数があるが、壁で向こうが見えないよりはずっと見通しがいい。
ホールにはカウンター席とテーブル席がある。あくまで飲食店なので二階はない。二階とは、まあ連れ込み宿だ。いずれはそのような店も必要になるだろう。そうは言ってもどのように店員を集めるかが問題だが。
最初から娼婦になりたくてなる者はいない。他の仕事がないならなることがほとんどだ。中には金持ちに取り入ることで成り上がろうと考えている野心的な者もいるそうだが、なかなかそう上手くはいかないだろう。
「扉がいくつもあるな」
「端から順番に見ていきましょう」
「それでは一番奥からにするか」
ホールの一番端にあった扉を開ける。開けるとさらに扉が三つあり、それぞれ中がトイレだった。数からして客用だろう。
「トイレは中か」
「外ではないのですね」
「掃除の手間を考えれば外の方がいいが、これなら水でざっと流せばいいか」
当然トイレは下水に繋がっているが、おそらく床にある穴は掃除の水を流すためのものだろう。気になるなら森の掃除屋を置いておけばいいだろう。
「それでは次だな」
ホールの壁には二つ扉がある。二つとも、それぞれ一〇人ほど食事ができそうな部屋になっていた。
「個室だろうな」
「身内で何かお祝いでもするのにいいですね」
「そうだな。ハイデなら、何かめでたいことがあればみんなで祝ったが、人が増えればそうもいかないだろう」
いつまでも前のままではいけない。人が増えればやり方も変えなくてはならない。
「あちらが厨房か」
「かなり広いですね。カウンターも立派ですね」
おそらく土魔法で表面をなめらかにした立派なカウンターの向こうには、厨房にありそうな石窯などが並んで……いなかった。
「何もないですね」
「場所は空いているから、まだ作っていないだけか、それとも何か理由でもあるのか。付け忘れということもないだろう。設置するならこのあたりになるはずだからな。この後で確認しよう」
「はい」
そのカウンターの横にも扉が二つあり、やはり一度に一〇人ほどが食事ができそうだ。ただし場所が微妙だな。
「ここも……個室か、それとも物置か、微妙なところだな」
「厨房が近いので食材置き場として使えそうですね」
「だが厨房の裏もあるから、食材を置くならそちらじゃないか?」
「それもそうですね。扉を開け閉めする手間を考えれば。休憩室に使えばいいでしょうか。でもこの扉だけ閉じ具合が違うのが気になります。ピッタリと閉まります」
「何だろうな。厨房の熱が伝わりにくいとかか?」
そこから裏口の方に向かうと、トイレがあった。
「ここにもトイレがありますね」
「場所的には店員用だろうな」
裏口も設置されていて、その近くにトイレがあった。裏口にも錠がないので用意しなければいけないな。厨房の裏側、客からは見えないスペースはおそらく荷物置き場になるだろう。
結局、カウンターの裏が物置、その側には裏口とトイレ、カウンターの近くに小部屋が二つ、ホールに小部屋が二つ、端にトイレの入り口、おそらくそうなっているはずだ。石窯などがまったくないことだけは確認しないとな。
◆ ◆ ◆
「ああ、ヨハン、いいところにいた」
「何かありましたか?」
アンゲリカの酒場の確認が終わったので城へ戻る途中、商店のところにヨハンがいたので厨房について確認することにした。
「いや、立派な店だった。思った以上だった。それで先ほど中を見て回って気付いたんだが、厨房に石窯や焜炉がなかっただろう。設置はこれからか?」
「それはエルマー様が魔道具を用意して設置するだろうと親方が言いましたので、場所だけ空けておきました」
親方とはフランツとオットマーの二人だ。彼らは大工として専門的な知識があるので、棟梁たちから親方と呼ばれるようになった。ヨハンたちは見様見真似で大工をしていたから、今さらだが二人から技術を学んでいる。親方の下に棟梁というのも正しいのか間違っているのかよく分からないが、誰のことか分かればそれでいい。
「俺が魔道具を? まあ王都で仕入れるし、設置も土魔法でできるが」
「はい、エルマー様なら必ずそうするだろうから任せておけばいいと」
「なぜ必ずなんだ?」
「……あれ? アンゲリカさんって……」
「私に何かありましたか?」
「いえ、エルマー様と……そういうご関係なのでは?」
……どこからそういう話が出たんだ? おい、アンゲリカ、その笑顔は何だ?
「フランツたちがそう言ったのか?」
「はい。大きな町なら領主が愛人に店を持たせるのはよくあることだと。町の女性陣に紹介していたのもそういう意味があったのだろうと。自分の女が店を持つことになるから繁盛させてやってくれ、でも絶対に手は出すなよ、ということだろうと言っていました。違ったのですか?」
「違う違う。そもそもここは大きな町じゃないだろう」
「私はいつでも問題ありません!」
「混ぜっ返すな、アンゲリカ。ヨハン、みんなには違うと言っておいてくれ」
「主婦たちが広めていたのでもう難しいかもしれませんが、一応そう言っておきます」
どうしてそんな話になった? 俺が何かしたか? 手を出した覚えもない……あ、俺がいないときに男や寄ってきたら足の甲を踏みつけてとか何とか、主婦の誰かがアンゲリカに言っていたが、あのときからそう思われていたのか?
「そもそも、アンゲリカと知り合ってから、まだあまり日が経っていないぞ」
「でもカレン様とは知り合った次の日ご結婚されたはずでしたよね? ハイデでそう聞きましたが」
…………それを言われるとキツい。そのあたりの経緯もカレンが酔って話したから、ハイデの連中にはバレている。そうすると早いか遅いかは問題なしになってしまう。
「ヨハンさん、小部屋がいくつもありましたが、あれは全部個室ですか? 一つだけ閉まり具合が違う扉がありましたが」
「ええっと、ホールにあったのは普通の個室です。奥の二つですが、カウンターに近い方は普通に休憩室として使えるそうです。裏口に近い方は、どれだけ大きな声を出しても漏れないようになっているそうです。親方たちの力作だそうです」
「ありがとうございます! 頑張ります! みなさんにもよろしくお伝えください!」
アンゲリカは胸の前でグッと拳を握っている。
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