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第五章:領主二年目第四部
王都か領地か、それが問題だ
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間もなく年末だ。本来なら冬になれば春まで王都で社交が行われる。厳密にいつからいつまでと決まっているわけではないが、寒くなってから暖かくなるまでは王都で晩餐会などを開くのが貴族の習慣だった。だったというのは、それを積極的に行っていた大公派がいなくなったからだ。だからこの年末年始も前の年末年始もあまり行われなかった。
かつてこの国の貴族は、国王派が三、大公派が四、それ以外が三、という具合に別れていた。俺は王太子殿下の学友だったので国王派だ。もっとも何も力はなかったが。その最大派閥の大公派がなくなり、その代わりに新しい貴族が多く作られ、正直なところ国内が大慌てだったのがこの一年と九か月ほどだった。
国王派ですら大騒ぎだった。例えばヴァルター。彼は俺の部下として去年の春の出征で功績を立て、めでたくリンデンシュタールの準男爵になった。だが王都で暮らす屋敷を準備しようと思ったものの空いた屋敷がなく、ようやく先月になって入居できた。
同じように俺の部下だったロルフとハインツの二人は、それぞれ男爵家の実家が隣の領地を吸収したので、増えた分の領地の半分をもらって準男爵になった。ロルフはタント準男爵、ハインツはギュンスター準男爵になった。それがようやく決まったのが先月だったか。だから二人の屋敷はまだ王都にはない。来年になればここで会えるだろう。
一番上手くやったのがツェーデン子爵だ。彼は大公派が失脚したと知るとすぐにノイフィーア伯爵の屋敷を購入して引っ越しをした。その地下に秘密の通路があったのは災難だったが。
俺は俺で大公派の残党の嫌がらせで父から受け継ぐはずだった領地を失い、この国の一番北に転封のような扱いになった。今考えればこれが正解だった気がするが、あの時は生涯初めてというくらいに腹が立った。
まあそれでも国王派は陞爵、加増、恩賞など、それまで大公派に奪われていた分を回復することができた。それならその他はどうかといえば、日和見主義者たちは先日社交で使う活動資金の多くを美術品に吸い取られることになった。
この二〇年ほどの間に大公派が台頭すると、それ以外の貴族たちは大きな社交から遠ざかった。逆に言えば、そうすれば余計な金を使わなくてもいい。だから彼らは万が一に備えてせっせと蓄財していた。
一方で国としては大公経由で大金がゴール王国に流れ、その回収ができていない。いずれゴール王国から賠償金が支払われることになるが、その前に国庫が空になってはどうしようもない。麦ならいくらでも作ることはできるが、残念ながら金貨は地面からは生えてこない。だからその他の貴族たちに出してもらうことになった。それが先日の美術品の放出だ。
とりあえず俺の持っている博物館が一定の貢献をしたということで、金貨五〇枚の褒賞を頂いた。それは博物館の運営費用などに回すつもりだ。
それで何が言いたいかというと、大公派は大公派で忙しく、日和見主義の貴族たちは大金を使ってしまい余裕がない。新しく貴族になった者たちもそれほど余裕がない。そういう状況なのでこの年末年始も比較的大人しくなりそうだというのが大方の予想だ。
だがそうなるとそのために食材を用意する店などが困ることになる。特に年末年始から年明けにかけては貴族の屋敷から高級食材の注文が引っ切りなしに入る。それがないとなると購入した食材をどうすればいいのか。二年続けてそうなってしまうと、潰れる商会も増えるだろう。
「うちだけでは使い切れないが」
「安いうちに買い込んで、高くなったら売ればいいのです。それに新街区の方の飲食店に回せばいいでしょう。安くて質の高い食材が手に入るとなれば喜ぶでしょう」
新街区とはうちが土地を整理した区域のことだ。一番新しい街区なのでそのような呼び方がされている。今では集合住宅や飲食店を含め、様々な建物ができている。活気があるという点では王都でもかなり上の方だろうと思う。
商会長のアントンの言葉通り、とにかく王都は食材が余っているらしい。マジックバッグがあれば保存はできるが、そうでなければできるだけ早く売り切りたい。売れなければ破産するからだ。
どこの商会でも同じだが、去年の年末は無理かもしれないと思って仕入れを控えたところは多い。だがさすがに今年はどの貴族も社交を積極的に行うだろうと思っていたところ、それ以外に金を使いすぎて余裕がない。仕入れも長年の付き合いがあるので今年はいりませんとはなかなか言いづらい。結局そこそこの量を買うことになり、それが売れる見込みがなくなり、金に余裕がある商会が面倒を見ることになった。
「それはいいが、かなり俺が関わっているんだが、俺があちこちの商会を困窮させて買い叩いたと思われないか?」
「考えすぎでしょう。結局金銭的な余裕がなくなったのは計画的に使えなかったせいで、旦那様が切っ掛けとはいえ、それは個々の貴族の問題でしょう」
「理屈はそうだがな」
俺としては陛下から日和見主義の貴族たちから金を搾り取るように頼まれてそれを実行したわけだ。そのおかげで国庫が潤ったのは間違いないが、煽りを食って多くの商会が潰れそうになったのも事実だった。
◆ ◆ ◆
王都にいるべきかドラゴネットにいるべきか、それに悩んだがローサの一言で解決してしまった。
「渡した転移ドアを王都の屋敷に置いたら?」
そういえばそれがあった。まだブリギッタには渡していないから、二組ある。ドラゴネットと王都にそれぞれ置けば移動しやすい。
「これはどうすればいいんだ?」
「ただ置くだけよ。少人数ずつなら長く、まとまった人数ならすぐに閉じるから、二つあれば問題なく移動できると思うわ」
それなら……城と王都の屋敷に置くか。とりあえず二組の片方ずつを王都の屋敷にある玄関ホールに設置した。
かつてこの国の貴族は、国王派が三、大公派が四、それ以外が三、という具合に別れていた。俺は王太子殿下の学友だったので国王派だ。もっとも何も力はなかったが。その最大派閥の大公派がなくなり、その代わりに新しい貴族が多く作られ、正直なところ国内が大慌てだったのがこの一年と九か月ほどだった。
国王派ですら大騒ぎだった。例えばヴァルター。彼は俺の部下として去年の春の出征で功績を立て、めでたくリンデンシュタールの準男爵になった。だが王都で暮らす屋敷を準備しようと思ったものの空いた屋敷がなく、ようやく先月になって入居できた。
同じように俺の部下だったロルフとハインツの二人は、それぞれ男爵家の実家が隣の領地を吸収したので、増えた分の領地の半分をもらって準男爵になった。ロルフはタント準男爵、ハインツはギュンスター準男爵になった。それがようやく決まったのが先月だったか。だから二人の屋敷はまだ王都にはない。来年になればここで会えるだろう。
一番上手くやったのがツェーデン子爵だ。彼は大公派が失脚したと知るとすぐにノイフィーア伯爵の屋敷を購入して引っ越しをした。その地下に秘密の通路があったのは災難だったが。
俺は俺で大公派の残党の嫌がらせで父から受け継ぐはずだった領地を失い、この国の一番北に転封のような扱いになった。今考えればこれが正解だった気がするが、あの時は生涯初めてというくらいに腹が立った。
まあそれでも国王派は陞爵、加増、恩賞など、それまで大公派に奪われていた分を回復することができた。それならその他はどうかといえば、日和見主義者たちは先日社交で使う活動資金の多くを美術品に吸い取られることになった。
この二〇年ほどの間に大公派が台頭すると、それ以外の貴族たちは大きな社交から遠ざかった。逆に言えば、そうすれば余計な金を使わなくてもいい。だから彼らは万が一に備えてせっせと蓄財していた。
一方で国としては大公経由で大金がゴール王国に流れ、その回収ができていない。いずれゴール王国から賠償金が支払われることになるが、その前に国庫が空になってはどうしようもない。麦ならいくらでも作ることはできるが、残念ながら金貨は地面からは生えてこない。だからその他の貴族たちに出してもらうことになった。それが先日の美術品の放出だ。
とりあえず俺の持っている博物館が一定の貢献をしたということで、金貨五〇枚の褒賞を頂いた。それは博物館の運営費用などに回すつもりだ。
それで何が言いたいかというと、大公派は大公派で忙しく、日和見主義の貴族たちは大金を使ってしまい余裕がない。新しく貴族になった者たちもそれほど余裕がない。そういう状況なのでこの年末年始も比較的大人しくなりそうだというのが大方の予想だ。
だがそうなるとそのために食材を用意する店などが困ることになる。特に年末年始から年明けにかけては貴族の屋敷から高級食材の注文が引っ切りなしに入る。それがないとなると購入した食材をどうすればいいのか。二年続けてそうなってしまうと、潰れる商会も増えるだろう。
「うちだけでは使い切れないが」
「安いうちに買い込んで、高くなったら売ればいいのです。それに新街区の方の飲食店に回せばいいでしょう。安くて質の高い食材が手に入るとなれば喜ぶでしょう」
新街区とはうちが土地を整理した区域のことだ。一番新しい街区なのでそのような呼び方がされている。今では集合住宅や飲食店を含め、様々な建物ができている。活気があるという点では王都でもかなり上の方だろうと思う。
商会長のアントンの言葉通り、とにかく王都は食材が余っているらしい。マジックバッグがあれば保存はできるが、そうでなければできるだけ早く売り切りたい。売れなければ破産するからだ。
どこの商会でも同じだが、去年の年末は無理かもしれないと思って仕入れを控えたところは多い。だがさすがに今年はどの貴族も社交を積極的に行うだろうと思っていたところ、それ以外に金を使いすぎて余裕がない。仕入れも長年の付き合いがあるので今年はいりませんとはなかなか言いづらい。結局そこそこの量を買うことになり、それが売れる見込みがなくなり、金に余裕がある商会が面倒を見ることになった。
「それはいいが、かなり俺が関わっているんだが、俺があちこちの商会を困窮させて買い叩いたと思われないか?」
「考えすぎでしょう。結局金銭的な余裕がなくなったのは計画的に使えなかったせいで、旦那様が切っ掛けとはいえ、それは個々の貴族の問題でしょう」
「理屈はそうだがな」
俺としては陛下から日和見主義の貴族たちから金を搾り取るように頼まれてそれを実行したわけだ。そのおかげで国庫が潤ったのは間違いないが、煽りを食って多くの商会が潰れそうになったのも事実だった。
◆ ◆ ◆
王都にいるべきかドラゴネットにいるべきか、それに悩んだがローサの一言で解決してしまった。
「渡した転移ドアを王都の屋敷に置いたら?」
そういえばそれがあった。まだブリギッタには渡していないから、二組ある。ドラゴネットと王都にそれぞれ置けば移動しやすい。
「これはどうすればいいんだ?」
「ただ置くだけよ。少人数ずつなら長く、まとまった人数ならすぐに閉じるから、二つあれば問題なく移動できると思うわ」
それなら……城と王都の屋敷に置くか。とりあえず二組の片方ずつを王都の屋敷にある玄関ホールに設置した。
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