特別な人

鏡由良

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初めての人

初めての人 第62話

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「でもいつか俺の本当の家族になって欲しい。って、気が早すぎるか?」
「っ、ううん。そんなことないっ」
 恋人だからまだ家族じゃないと言った虎君の言い回しはちょっぴり意地悪。でも結局僕を喜ばせるんだからずるいと思う。
 僕は虎君のことをやっぱり家族だと思うし、自慢のお兄ちゃんだと思ってる。それは僕たちの関係が恋人になっても変わらない。
(でも、そっか……。普通はお兄ちゃんとエッチしたいって思わないもんね……)
 虎君はお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんじゃない。家族だけど、家族じゃない。虎君はずっとずっと特別な人だから。
(虎君も、一緒だよね?)
 願いを込めて見つめれば、優しい笑顔と唇に触れるだけのキスが落ちてくる。
「愛してるよ」
「うん……。僕も……」
 胸が締め付けられるほどのときめきは息苦しさを覚えさせる。言葉を詰まらせながらも愛の言葉とキスを返せば、またぎゅーっと力いっぱい抱きしめられた。
「ねぇ。いい加減パパ呼びに行ってくれない? 気にしないようにするのもそろそろ限界よ」
「! ご、ごめん。呼びに行ってくるっ」
「謝る前に行く!」
「はい!」
 呆れる姉さんの声に、背筋が伸びる。僕は父さんを呼びに行こうと慌ててリビングから出ようとする。
 でも、そんな僕を止めるのは陽琥さんの声だった。
「行かなくていい」
「え? でも……」
「もうすぐこっちに向かってきてる」
 そう言ってドアを指さす陽琥さんの声に視線を巡らせば、すりガラス越しに人影が。
「ほら、ドアを開けるから親の顔に戻す」
「戻そうとする度キスして邪魔してきたのは兄さんでしょ!」
「はは。違いない」
 楽し気な笑い声は父さんと母さんのもの。でも、雰囲気は僕が良く知ってる父さんと母さんとはちょっと違う気がした。
(なんだか母さんがすごく可愛い)
 その容姿はとても可憐で可愛いと形容するのがぴったりの母さん。その幼い見た目とは裏腹に穏やかな口調と落ち着いた雰囲気に、今まで母さんを『幼い』と思ったことはない。
 でも、今ドアの向こうで父さんと話す母さんは女の人というよりも『少女』と言った方がしっくりくる感じだった。
 そして何よりもいつも『お父さん』と呼んでる父さんを『兄さん』と呼んでることが驚きだ。二人きりの時にしか呼んでないだろうから僕が知らないのはまぁ当然なんだろうけど……。
「葵どうした、ドアの前で固まって」
 僕が聞いちゃダメだろう父さんと母さんの二人きりの時間の会話にどうすればいいか分からず突っ立っていたら開いたドア。
 ドアを開けてすぐ目の前に誰かが立ちすくんでいたら誰だって驚くに決まってる。父さんも一瞬目を見開いていて、此処で何してるのかと尋ねられてしまった。
「あ、えっと、その……」
「律さんから茂さんに連絡を取りたいと連絡があって今呼びに行こうと思っていたところだったんです」
「律から? 虎に連絡がいったのか?」
「いえ、俺じゃなくて桔梗にですよ。部屋に戻りがてら声をかけるつもりだったんです。な?」
「う、うん。そうだよ!」
 咄嗟のことに反応できずにいたら僕の動揺を察してか虎君がフォローしてくれる。
 機転の利いた虎君の言葉に勢いよく何度も頷けば、父さんからは何を必死になっているのかと苦笑されてしまった。
「二人も降りてきたし、俺達は部屋に戻ろうか?」
「うん!」
「ちょっと待て、虎」
「何ですか?」
「お前、葵を泣かせたのか?」
 肩の荷が下りたと安堵していたら、父さんのトーンが下がった声に虎君の身体がびくっと震えた。それが驚きではなく恐怖からだと感じた僕は、慌てて父さんと虎君の間に割って入った。
「これは、嬉し泣き!」
 きっとさっきの泣きべそが目尻に残っていたせいだ。
 僕は自分の目元を指さし、悲しいとかそういう涙じゃないと父さんを睨んだ。
「『嬉し泣き』?」
「そう! 虎君のことが大好きで泣けてきただけ!!」
 だから虎君のこと怒ろうとしないでよね!
 そう凄めば、父さんは僕から虎君、虎君から姉さん達へと視線を向けた。
「本当か?」
「疑い様がねぇことぐらい分かるだろうが。所構わずいちゃつかれてこっちは散々だ」
「そうね。それに、兄弟の前でプロポーズするぐらい周りが見えてないのはどうかと思うわ」
 茂斗と姉さんのうんざりしてる声には傷つく。でも今は傷つくよりも虎君の信用回復の方が大事だから、父さんに「聞いたでしょ!?」と凄んだ。
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