弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

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第27話 ジークとラヴィと本気の遊び

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 ドスッ、バシッ!

 乾いた音が鍛錬場に響く。僕とジークは素手での体術訓練の真っ最中だった。
 木漏れ日が差す中、互いの腕を払っては捌き、すぐに間合いを詰める。

「動きが硬いぞ、アルキ」

「言うなよ……これでも結構限界なんだから……」

 そんなやり取りをしていると、ふと視線の端に何かが映った。

 ――あれ、木陰に誰か……?

「……ラヴィ?」

「あ……うん、こんにちは。ふたりとも……すごい動き、だったから……」

 白いワンピースに身を包んだ小柄な少女――ラヴィが、少しだけ木の影から顔を覗かせていた。

 いつも元気なラヴィだがジークに遠慮しているのか?しかし目がほんのり輝いている。
 たぶん、好奇心を押し殺してる感じ。……バレバレだけど。


「見学?それとも混ざりたい?」

「……えっと……見てるだけでも……いい、かな……?」

 控えめに言うラヴィに、ジークがちらっと視線をやって軽くうなずく。

「いいよ。暑苦しいだろうけど」

「うん!ありがとう!」

 ラヴィは太陽のような笑顔でちょこんとベンチに腰かけ、小さな足をぱたぱた揺らしながら僕たちを見つめていた。

◇◇◇

 数分後。

「……ねぇ。ラヴィも……ちょっとだけ、体、動かしてみたいなって」

 唐突に、ラヴィが口を開いた。

「え?マネしてみたくなった?」

「ううん、そうじゃなくて……あのね、なんだか、楽しそうで……」

「……なるほどな」

 ジークが一歩下がり、腕を組んで軽く頷く。

「ラヴィ、お前もやってみるか?」

ジークが冗談めかして言ったつもりだったが――

「……うん。やってみたい。ジークと」

 ラヴィはまっすぐジークを見て、そう言った。
 一瞬、場の空気が変わる。
 
「……望むところだ。手加減はしないぞ?」

「うん。ラヴィも!」

 大丈夫なの?この施設壊したりしない?

 僕が一歩引いた場所から見守っている中、静かに空気が張り詰める。

 ジークが構えた瞬間、ラヴィもほとんど同時に重心を落とす。対峙する姿はまるで呼吸までが同期しているようだった。

「行くぞ……」

 先に動いたのはジーク。
 低く踏み込むと同時に放たれた拳――だが、ラヴィは半歩引いて見切る。

 すぐさま返すようにラヴィの蹴りがジークの側頭部を狙う。
 風を裂く音。ギリギリの距離で腕を上げ、ジークが防ぐ。

「凄まじいな……」

 ジークは苦言を吐くが、同時に笑みも浮かぶ。
 相手の実力を肌で感じたときに出る、戦士の本能的な喜び。

 次の瞬間、距離を詰めてラヴィが掌底を突き上げる。
 それをジークが右腕で逸らし、逆に体重を乗せた肘打ち――!

「っ!」

 ラヴィは膝を使って飛び退き、紙一重でかわす。
 その着地と同時に、すでに体が反転している。再び接近。

「凄いな……」

 思わず呟くほどに、攻防のテンポは早く、美しかった。

 ラヴィの拳がジークの頬をかすめる。
 ジークの蹴りがラヴィの肩先を捉える。

 一発、一発が軽くない。
 素手でも真剣勝負。手加減など最初から存在しない。

 だが、そこにあるのは敵意ではなく、「もっとお前を知りたい」という純粋な意志だった。

 数分後、互いに肩で息をしながら距離を取る。

「強いな……本気でやるつもりは無かったが……もう途中から止まらなかった」

「うん!ジーク強いね!楽しかった!」

 もう最初のようにジークに遠慮している感じはない、戦いの中で絆が芽生える事って本当にあるんだな。

 ジークは、少しだけ目を見開いて、それからふっと息を吐いた。

「……もう一戦、やるか?」

「いいよ!いっぱい遊ぼう!次はアルキも!」

 ――え?

「いやいやいや、無理がある!僕はまだそんなレベルじゃないって!絶対に良くない事が起こる!」

「確かに…アルキがラヴィとやったら最悪命の危険があるな」

「ないよ!ラヴィ手加減できるもん!」

 僕は知ってる、ラヴィの思っている以上に僕は弱い。「このくらいなら大丈夫でしょ?」で死ぬ可能性があるんだ。分かるね?普通に怖いのよ。

「普通に遊ぼうよ、鬼ごっことか」

「「鬼ごっこ?」」

 おや?ご存じありませんか。

 二人に鬼ごっこの説明をするとどうやらやる気満々のご様子。ラヴィはともかくジークは予想外だ。


……。


「それじゃあ――最初の鬼は……ラヴィでいい?僕には手加減してね、危ないから」

「うん、任せて!絶対に捕まえるからね!じゃあ十数えたら追いかけるよー」

 ラヴィはぐっと拳を握ると、にこにこしながら背を向け、目を覆う。

「ジークは逃げ切れると思う?」

「まぁ無理だろうな、人間の姿とはいえ真竜だ。受けて立つ」

「いや受けて立っちゃダメだよ、逃げないと」

「冗談だ、ほら、もう来るぞ」

 ラヴィが十を数えた瞬間、地を蹴る音が響いた。

「見つけたーっ!!」

「早っ!?」

 まるで弾丸のように走り出すラヴィ。
 こちらの気配を完璧に捉えて一直線に突っ込んでくる。

「ジーク!囮になって!」

「無理だな」

 ジークが木陰に飛び込み、瞬時に姿を隠す。
 僕も慌てて低木の影に潜り込むが――

「アルキ、つかまえたー♪」

「無理だろ!?なんだそのスピード!!」

 勢いよくラヴィが突っ込んできて、僕はそのままタックルされて尻もちをついた。

「いたた……あのさぁ、手加減って知ってる?」

「えへへ、ごめんね!」

 ラヴィがぺこっと頭を下げる姿はかわいいが、膝の擦り傷が見えて思わず眉をひそめる。

「あれ、ラヴィ、ちょっと血が出てる」

「……あっ」

 ラヴィもようやく気づいたようで、膝を見て小さく顔をしかめた。

「おい、大丈夫か?」

 ジークがどこからか現れ、しゃがんで膝の傷を確認する。

「ちょっとこすっただけ。すぐ治るよ、ラヴィ強いもん」

 そう言って笑うラヴィに、ジークはしばらく無言で見つめた後、ふっとため息をつく。

「無理して強がるな。……少しくらい頼ってもいいんだぞ」

「……うん」

 ラヴィが恥ずかしそうにうつむいた瞬間、ジークは懐から小さな包帯と軟膏を取り出し、慣れた手つきで応急処置を始めた。

(さすが伝説の傭兵……何でも持ってるな……)

 ラヴィは何も言わずされるがままに膝の処置を受けていたが、どこか嬉しそうだった。

「ありがと……ジーク。もう大丈夫!じゃあ次はアルキが鬼ね!」


――え……。


 夕方近くまで二人を追いかけ続けたが一向に捕まえられる気がしない、ジークに関しては姿まで見えなくなる始末。ジークこそ手加減を覚えるべきだと思うな!

 結局日が落ちるまで続けて僕はヘトヘト、ラヴィはとても満足そうだった。

 終了を告げるとジークはどこからともなく現れ、こちらも満足そうなご様子。次は発見くらいしてやるんだから!

「じゃあみんなでご飯食べようか」

「そうだな、俺は肉が良い」

「ラヴィも!」

 
 笑い声と木漏れ日の下、今日という日の記憶はきっと誰にとっても少しだけ特別なものになった。






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