弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

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第30話 トーカとの街歩き、アルキの実力

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「あ、あの……アルキさん!明日一緒にお買い物いかない!?」

「へ?」

 バイトがひと段落し、一息ついたところでのトーカからの急なお誘い。僕は突然の事でお粗末な返事をしてしまった。

「だめ…かな?えっとね!ほら!アルキさん市場以外行ってるの見た事ないからさ!案内してあげようかなって!」

「確かに遠出した事ないかも。じゃあお願いしようかな」

「じゃあ決まり!明日は早起きしてね!」

 トーカは子供みたいに笑いながら僕の肩を叩き、足取り軽く部屋を出て行った。
 …なんだかこっちまでワクワクしてきた。

 パン屋から帰る際、父親のハルドさんから背中を叩かれ、「ある程度は許容するぞ」と親指を立てられた。ある程度ってどの程度?


………………。


「アルキ!今日はいつもより機嫌が良いね!何かあったの?」

 弱者の庭に帰ると外でラヴィとジークと出会った。どうやら一緒にアスレチックで遊んでいたようだ。

「いや?普通だよ、別に何もないよ」

「お前は嘘が下手だな……。」
 ジークが腕を組み、じっと僕の顔を見てくる。

「ほんとに何も――」

「パン屋で何かあったんでしょ!おいしいものは独り占めしちゃだめなんだから!」

「おいしい物ならいつものパンがあるよ。ちょっと明日出かける約束をしただけ」

「女か?アレに聞かれたら面倒な事になりそうだな」

 ジークがそう呟いた瞬間、背後から軽快な足音が近づいてくる。

「なになに!?妾の知らぬところで男女がうふふあははとな!?許さん!」

 振り向けば、ジークの言うアレが全力でこちらに突っ込んできて、ぴたりと僕の目の前で止まる。

「アルキ!妾を差し置いてデートじゃと!?」

「デートじゃないよ!町を案内してもらうの!それだけ!」

「でも女なんじゃろ?」

「まあそうだけど……」

「可愛いんじゃろ?」

「まぁ可愛いけど……」

「はぁ…まあいいじゃろ。夫の帰りを待つのも妻の役目じゃし」

「うん。違うね。妻じゃないけどおとなしくしててね」

 ジークは面倒ごとに関わる気はないらしく、気付けばラヴィとアスレチックに登っていた。師匠、結構薄情っすね。

 でも、心のどこかで少しだけ楽しい。
 この賑やかさが、弱者の庭らしいと思えたからだ。


◇◇◇◇◇


――――翌日。


 朝起きて朝食を作り、いつも通りみんなを迎える。コヨミに”散々いやらしい事はいかんからな!”と念を押されたがどの口が言うんだって話だ。

 他のメンバーも興味があるらしく、色々聞かれて時間が押してしまった。

 急いで準備をしてパン屋の前に行くと、いつものエプロン姿ではない私服のトーカが手を振っている。

  白いブラウスに薄いピンクのカーディガン、膝までのふわっと広がるスカート。足元は動きやすそうなブーツなのに、色合いが全体と合っていて妙に可愛い。
 
 髪も普段とは違い下ろしていて、風に揺れるたびに甘い香りがした。

「おまたせ」

「ううん!全然待ってないよ!!」

 そう言って、少しだけ頬を赤く染めるトーカ。……危ない、なんか普段の彼女より破壊力あるぞ。

 まずは街の大通りへ。

 色とりどりの屋台や商店が並び、パン屋とはまた違う匂いが漂ってくる。

「ほら、あの雑貨屋ね、可愛い小物いっぱいあるんだよ!」

 引っ張られるまま入った店には、木彫りの動物や色ガラスのペンダントが並び、トーカは目を輝かせてあれこれ手に取っては見せてくる。

 最近ミレーユはおしゃれに気を使ってるみたいだしこのペンダントとか好きそうだな。コヨミは和装だからこういうのはあまり似合わないかも。とりあえずミレーユのお土産はこれにしよう。

「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」

「あんまり外に出ない人たちだからさ、お土産買うって約束もしたしね」

「大変だよねぇ……でもきっと喜ぶと思うよ」

 トーカの中で”弱者の庭”は老人ホームだからな。きっと足腰が弱いとでも思っているのだろう。

「まだまだオススメのお店あるんだよ!行こ行こ!」

 会計を済ますとトーカに手を引かれ足早に店を後にする。トーカの手……というか女の子の手って柔らかいなぁ。
などという不純な考えを巡らせていると服屋の前に到着した。

「このお店お洒落な服多いんだよ!結構良い値段するけど」

 店内は落ち着いた雰囲気、値段を見ると大体が金貨1枚くらいか。僕の日給に剛毛が生えた程度かな。

「実は今日のお洋服もね、ここで買ったんだ!そろそろ感想が欲しいなぁ…なんて」

 上目遣いでこっちを見るトーカ。そうか、せっかくお洒落してきたのにロクに褒めてないじゃないか。ここは華麗に誉め言葉を決めるか!

「え、えっとね!すごく可愛いと思う!」

「えへへ、ありがと。アルキさんこういうの慣れてないでしょ?」

――ギクッ

「まあそうだね、もっと気の利いた事言えたら良いんだけど。でも可愛いと思ってるのは本心だよ」

「アルキさんは……そのままの方がいいかもね」

 少し顔を赤くしたトーカはそう呟いたのだった。


………………。



「ごめんね、まさか買ってくれるなんて思わなくて……」

「いや良いよ、今日のお礼みたいなもんだしさ」

 服屋でトーカが試着した服が驚くほど似合っており、散々遠慮されたがごり押しで会計したのだ。
少しくらい良いだろう、正直絵本とぬいぐるみの売り上げで食費が賄えてしまうのでバイト代は結構溜まっているんだよね。

「やっぱり悪いよ!お昼は私にご馳走させて!向こうの通りに美味しいご飯屋さんあるからさ!近道も教えるね!」

「ほんと?それは楽しみだな」

 そんな平和な空気を破るように、近道という裏通りへ差しかかった瞬間だった。

 前から三人組のチンピラが道を塞いできた。どこにでもいるんだなこういう輩って。
しかし不思議と恐怖は無い、訓練中のジークの方が何万倍も恐ろしいよ。

「えっと…すみません、急いでるので。アルキさん、行こ!」
 トーカが下がろうとした時、ひとりがトーカの腕を掴む。

「きゃっ!」

「おいやめろよ!痛がってるだろ!」

 僕はトーカを掴んでいる手を掴み……――あれ?なんだ?この隙だらけの感じ。

 そのまま手をひねり上げ、バランスが崩れたところを体重を乗せて地面に叩きつけた。

「ぐはっ!何しやがる……」

「何しやがるはこっちの台詞だよ。普通に通してよ、あとこの子に謝って!」

「おい!何見てやがる!やっちまえ!」

 叩きつけられた男はお決まりの台詞を吐き、二人の男が前に出る。
一人は拳を鳴らし、一人はナイフを抜いて突っ込んできた。

 物騒な場所もあったもんだ。しかしジークの訓練受けてて良かったな。まったく怖くない。

 拳の男が唸り声と共に突っ込んできた瞬間、僕は半歩だけ前に出る。

 拳が空を切る感触を横目に、相手の腕を掴み、体をひねってその勢いごと地面に叩きつけた。石畳に背中がぶつかる音が鈍く響いた。

 間髪入れずナイフ男が刃を横薙ぎに振るう。
その腕の内側に滑り込み、手首をがっちり掴むと、関節の向きを逆にしてひねり上げる。
「うぐっ……!」
 手の中からナイフが滑り落ち、カランと音を立てた瞬間、鳩尾に膝を叩き込む。意識が飛び膝から崩れ落ちた。

 残った一人はその一瞬の光景を見て硬直していた。

「す、すまねぇ!そっちの嬢ちゃんも申し訳なかった!だからもう勘弁してくれぇ!」

 ハッと我に返った男は僕とトーカに謝罪を入れる。謝るなら最初からやっちゃダメだよ!

「もう変に絡むなよな!」

「は、はい!」

 トーカの手を引き裏路地を抜けると賑やかな声に少し安心する。トーカも安心したのかようやく口を開いた。

「……あの、アルキさん」

「ん?」

「ちょっと、すごすぎない?」

 驚きと安堵が入り混じった声。僕は肩をすくめた。

「お世話してる人に元傭兵がいてね。その人の訓練の成果だよ」

 ――まぁ、あの鍛錬に比べれば、この程度は散歩みたいなもんだ。

「ちょっと……ううん!すんごい恰好よかったよ!また何かあったら守ってね!」

 少し興奮気味のトーカは少しだけ幼く、とても可愛らしかった。

 その後は食事をしてまた笑顔で店巡り。トーカは僕の服の裾をつまんで離れず歩く、さっきの結構怖かったのかな?

 ラヴィには可愛い髪留め、ジークには頑丈そうな手袋、ゼファルドには可愛らしいレターセット、アリエルには花の香りの香水、ミレーユには少し色が入ったリップクリーム。コヨミには……何が良いかな。

 ――ふと頭をよぎるコヨミの部屋、そしてあの謎の神棚?たしか狐っぽい木彫りの人形があったな。なんとなく気になったのでコヨミにはガラス細工の狐を買った。

「なんだか、お土産選んでるときのアルキさん、優しい顔してる」
 トーカがそう言って笑う。

「そうかな?でもそうかも、きっとみんな喜ぶと思うんだよね」

「いつか私も会ってみたいなぁ、今度遊びに行ってもいい?」

――多分入れないよな……。

「人見知りが多いからなぁ、でもいつか遊びに来れたらいいね」

「そうなんだ。まぁ期待しないで待ってようかな!それより次はどこ行こうか?」

 トーカとのお出かけはまだまだ続き、パン屋に戻る頃にはもう日は完全に落ちていた。

「なんだ思ったより早いな、朝帰りでもするもんだと思ってたぞ」
「そのつもりでご飯用意してないわよ?これからどこかで食べてきたら?夜までゆっくりと」

「な、なに言ってるの!朝帰りなんてそんな……もう!アルキさん!ご飯食べに行こ!とびっきり美味しいの!」

 ハルドさん、マリナさん。娘さんをからかうのは良いですけど普通に気まずいのでやめて下さい。いや、冗談ですよね?

 顔を赤くしたトーカとのディナーは少しだけ緊張したのだった。

 ちゃんとご飯終わったら家まで送り届けましたからね!
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