弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜

自来也

文字の大きさ
39 / 69

第38話 弱者の庭の野球大会 前編

しおりを挟む
「とりあえずルールはこんな感じね」

 大体のルールは説明し、全員把握したようだが如何せん人数が少ない。
そこで”弱者の庭”特別ルールを設けてみた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

個人戦方式
 チームに分かれず、それぞれがバッターとして挑戦。点数を競う。

得点ルール
 ホームランなら 3ポイント。
 一塁まで走れたら 1ポイント。

投手ルール
 誰が投げてもOK。球種もスピードも……その場のノリ次第。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 初めてだからどんな感じになるか検討も付かないけどまぁどうにかなるでしょ。

「この棒で球を打ち返せばいいんだな?簡単すぎはしないか?」

「そりゃジークからしたら簡単だろうけど……どんな球が来るか分からないよ?」

「妾が最初に投げてやるのじゃ、とっておきを見せてやるのじゃ」

「ほう……それでは相手になろう」

「じゃあラビィは”いちるい”?で待ってるね!」

「じゃあ私とアリエルは守備?」

「え、えーと、そういう事になりますかね……?」

――え?僕キャッチャー?まあジークやミレーユの球ならともかくコヨミの球くらい受けられるか。

「じゃあ始めよう!勝ったら……そうだな。僕からご褒美を用意するよ!」

 盛り上げる為に言ったこの言葉で全員の目の色が変わる。

「ほう……それは楽しみじゃな、今晩は盛り上がりそうじゃ」

「また酒を頼むとするか」

「私は……アルキに何かして貰おうかな……」

「アルキのご褒美!?ラヴィ頑張る!」

「お酒……い、いや、他に欲しいもの考えておかないと……」

 全員自分が勝つ事前提で喋りだしたな……。

 それぞれ配置に付き、ジークがバットを構え――……。

「ちょっとジーク!?それは違うよ」

 ジークはコヨミの真正面に立ち、バットを正面で構えている。真っ二つにでもする気?

「なんだ、この方がよく見えるだろう」

「いや知らないよ、とりあえず横に立って。こんな感じね!」

 僕がバッターのフォームを見せると「ルールには従わんとな」とジークも同じように構える。
圧倒的強打者感が既に漂うのは流石だな。

「準備はいいかの?」

「良いよー、僕が死なない程度に投げてね」

「当り前じゃ、それでは行くぞ!”千色の幻尾”!」

 ――は?

 コヨミが投げた瞬間視界がぐにゃりと曲がる。ボールが……増えた……?

 次の瞬間僕の前に突風が吹き荒れ、気が付けばミットにボールが収まっていた。

「なるほどな……これは倒し甲斐のある……」

 ジークは空振りの体勢でニヤリと笑い呟く。何さっきの突風?どんなスイングしてんの……?

「コヨミ、何かしたでしょ君」

「何って幻術じゃよ、普通に投げようもんなら一瞬で球が地平線の彼方じゃろうて」

 いやそれはそうだけどさ……。

「ジークはいいの?なんか反則っぽいけど」

「いや、俺は構わない。さぁ、次は当てさせて貰う」

 本人が良いなら良いか……勝負続行!

「良い心構えじゃ!そら!”千色の幻尾”!」

 またしても視界がぐにゃりと揺らぎ、ボールが五つも六つも見える。今度はそれぞれが四方八方に動き回り、一体何が迫ってくるのか恐怖すら感じた。

 普通なら振るだけ無駄……しかしジークは迷わずスイングした。

「――”千戦練磨”」

 低く呟いた瞬間、ジークの目の色が鋭く変わる。
 その軌道を見抜いたかのように、一つの幻影を断ち切り鋭い音を立てて本物のボールを叩き飛ばした。

 ドォンッ!

 空気を裂くような衝撃音。ボールは一直線に天へ昇り――このままなら確実にホームランだ。

「っ……!」

 僕は思わず目で追ったが、その前にフィールドを駆け抜けた影があった。

 ミレーユだ。
 風が裂ける音だけが響き、彼女の姿は一瞬掻き消え――次に見えた時には、すでにグラブの中に白球が収まっていた。

「なっ……!?」

 ジークですら驚愕の声を漏らす。

「ふぅ……間に合った。結構ギリギリだったかな」

 ミレーユは額にかかった髪を払い、涼しい顔で微笑む。
相変わらずの速度……瞬間移動にしか見えなかった。

「ナイスじゃ勇者!これで傭兵は得点無しじゃな!鉄壁のスカートも良い感じじゃ!」

 確かに、スカートであんな動きしてるのになんで見えないんだ?

「あんまり人に見せるものじゃないからね」

「……ふ、面白いな。ただの遊戯と侮れん」

 ジークが満足そうに笑うと、フィールドの空気はさらに熱を帯びていった。

――さて、次の打席は……。

「ラヴィがやりたい!でもコヨミの球はむずかしいから……アルキが投げて!」

 僕が?ピッチャー返しとかで体吹き飛ばない?

「ラヴィよ、万が一があってはならんからの、アリエル辺りなら大丈夫じゃろ」

 そうだよね、万が一どころか十が一くらいの確立で良くない事が起こりそう。

「私ですか…?良いですよ、でも手加減はしません…!アルキにお願いをするんですから……」

「アルキだったら簡単そうなのに…分かった!じゃあ勝負!」

 僕のクソ雑魚感すごいな。でも命は大事にしていかないとね。

 アリエルが静かにマウンドへ歩み出る。フワフワと髪をなびかせマウンドに立つその光景はどこか神秘的ですらあった。

「じゃ…じゃあ行きます……」

「良いよ!絶対打っちゃうんだから!」

 アリエルはゆっくりと構え……

「――”精霊魔法・星流し”」

 投げた瞬間、ボールは尾を引く流星のように分裂し、まるで夜空に星座が広がるかのような乱舞……いや、これ全部ストライクゾーンに来てる!?

「ひゃっ!?ど、どれ打てばいいの!?」

 ラヴィは慌ててバットを振るが――

 ――ブンッ。

 空を切る。

「ストライク」

 僕が思わずコールする。

「えぇぇぇ!?今の当たったと思ったのに!」

「次いくよ――”精霊魔法・水鏡乱舞”」

 今度はボールが途中で水面に反射するように揺れ、二重三重にブレながら迫ってくる。
 ラヴィ、完全に目が泳いでる……!

「うにゃぁっ!」

 再び空振り。

「ストライク、ツー!」

「も、もう無理だよぉアルキぃ!」

 泣きそうな声を出すラヴィに、アリエルは薄く笑みを浮かべた。

「ふふ……勝負はいつも本気で…です」

「最後は――”精霊魔法・森羅回帰”」

 ボールがまるで森を駆け抜ける獣のように、複雑に跳ねながら迫ってくる。
 ラヴィは――観念したように目をぎゅっとつむった。

「えいっ!」

 カキンッ!

 乾いた金属音が響く。
 偶然のように、しかし奇跡のようにバットに当たり、ボールはゆっくりと内野へ転がった。

「っ!」

 ジークがすかさず走り込み、華麗なグラブ捌きで捕球する。
 しかし――

「ラヴィは絶対アルキのご褒美もらうのーっ!」

 その言葉で一瞬ジークは送球を躊躇った。

 必死に駆け抜けるラヴィ。小さな身体が全力で地面を蹴り、一塁ベースへ飛び込むように走り抜けた。

「セーフ!」

 僕は思わず両手を広げて叫んだ。

「やったぁぁ!ラヴィ、いっちてん!!」

 ラヴィは一塁の上でぴょんぴょん跳ねながら、満面の笑み。
 ジークも苦笑しつつ肩をすくめた。

「ふん……まさか目をつぶって打ち当てるとはな。強運も才能のうちか」

「打たれちゃいました……もっとすごいのでも…いやでも……それだとアルキが……」

 そうだねアリエル、僕の身も案じないといけないね。

「次は私が行く、ジークの球見てみたいかも」

「ほぅ、良いぞ。本気で投げよう」

 次はジークとミレーユか……、力と力って感じだし、怖いからキャッチャーは誰かにお願いしたいな……。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」 女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。 この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。 『勇者道化師ベルキッド、追放される』 『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。

処理中です...