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第38話 弱者の庭の野球大会 前編
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「とりあえずルールはこんな感じね」
大体のルールは説明し、全員把握したようだが如何せん人数が少ない。
そこで”弱者の庭”特別ルールを設けてみた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
個人戦方式
チームに分かれず、それぞれがバッターとして挑戦。点数を競う。
得点ルール
ホームランなら 3ポイント。
一塁まで走れたら 1ポイント。
投手ルール
誰が投げてもOK。球種もスピードも……その場のノリ次第。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
初めてだからどんな感じになるか検討も付かないけどまぁどうにかなるでしょ。
「この棒で球を打ち返せばいいんだな?簡単すぎはしないか?」
「そりゃジークからしたら簡単だろうけど……どんな球が来るか分からないよ?」
「妾が最初に投げてやるのじゃ、とっておきを見せてやるのじゃ」
「ほう……それでは相手になろう」
「じゃあラビィは”いちるい”?で待ってるね!」
「じゃあ私とアリエルは守備?」
「え、えーと、そういう事になりますかね……?」
――え?僕キャッチャー?まあジークやミレーユの球ならともかくコヨミの球くらい受けられるか。
「じゃあ始めよう!勝ったら……そうだな。僕からご褒美を用意するよ!」
盛り上げる為に言ったこの言葉で全員の目の色が変わる。
「ほう……それは楽しみじゃな、今晩は盛り上がりそうじゃ」
「また酒を頼むとするか」
「私は……アルキに何かして貰おうかな……」
「アルキのご褒美!?ラヴィ頑張る!」
「お酒……い、いや、他に欲しいもの考えておかないと……」
全員自分が勝つ事前提で喋りだしたな……。
それぞれ配置に付き、ジークがバットを構え――……。
「ちょっとジーク!?それは違うよ」
ジークはコヨミの真正面に立ち、バットを正面で構えている。真っ二つにでもする気?
「なんだ、この方がよく見えるだろう」
「いや知らないよ、とりあえず横に立って。こんな感じね!」
僕がバッターのフォームを見せると「ルールには従わんとな」とジークも同じように構える。
圧倒的強打者感が既に漂うのは流石だな。
「準備はいいかの?」
「良いよー、僕が死なない程度に投げてね」
「当り前じゃ、それでは行くぞ!”千色の幻尾”!」
――は?
コヨミが投げた瞬間視界がぐにゃりと曲がる。ボールが……増えた……?
次の瞬間僕の前に突風が吹き荒れ、気が付けばミットにボールが収まっていた。
「なるほどな……これは倒し甲斐のある……」
ジークは空振りの体勢でニヤリと笑い呟く。何さっきの突風?どんなスイングしてんの……?
「コヨミ、何かしたでしょ君」
「何って幻術じゃよ、普通に投げようもんなら一瞬で球が地平線の彼方じゃろうて」
いやそれはそうだけどさ……。
「ジークはいいの?なんか反則っぽいけど」
「いや、俺は構わない。さぁ、次は当てさせて貰う」
本人が良いなら良いか……勝負続行!
「良い心構えじゃ!そら!”千色の幻尾”!」
またしても視界がぐにゃりと揺らぎ、ボールが五つも六つも見える。今度はそれぞれが四方八方に動き回り、一体何が迫ってくるのか恐怖すら感じた。
普通なら振るだけ無駄……しかしジークは迷わずスイングした。
「――”千戦練磨”」
低く呟いた瞬間、ジークの目の色が鋭く変わる。
その軌道を見抜いたかのように、一つの幻影を断ち切り鋭い音を立てて本物のボールを叩き飛ばした。
ドォンッ!
空気を裂くような衝撃音。ボールは一直線に天へ昇り――このままなら確実にホームランだ。
「っ……!」
僕は思わず目で追ったが、その前にフィールドを駆け抜けた影があった。
ミレーユだ。
風が裂ける音だけが響き、彼女の姿は一瞬掻き消え――次に見えた時には、すでにグラブの中に白球が収まっていた。
「なっ……!?」
ジークですら驚愕の声を漏らす。
「ふぅ……間に合った。結構ギリギリだったかな」
ミレーユは額にかかった髪を払い、涼しい顔で微笑む。
相変わらずの速度……瞬間移動にしか見えなかった。
「ナイスじゃ勇者!これで傭兵は得点無しじゃな!鉄壁のスカートも良い感じじゃ!」
確かに、スカートであんな動きしてるのになんで見えないんだ?
「あんまり人に見せるものじゃないからね」
「……ふ、面白いな。ただの遊戯と侮れん」
ジークが満足そうに笑うと、フィールドの空気はさらに熱を帯びていった。
――さて、次の打席は……。
「ラヴィがやりたい!でもコヨミの球はむずかしいから……アルキが投げて!」
僕が?ピッチャー返しとかで体吹き飛ばない?
「ラヴィよ、万が一があってはならんからの、アリエル辺りなら大丈夫じゃろ」
そうだよね、万が一どころか十が一くらいの確立で良くない事が起こりそう。
「私ですか…?良いですよ、でも手加減はしません…!アルキにお願いをするんですから……」
「アルキだったら簡単そうなのに…分かった!じゃあ勝負!」
僕のクソ雑魚感すごいな。でも命は大事にしていかないとね。
アリエルが静かにマウンドへ歩み出る。フワフワと髪をなびかせマウンドに立つその光景はどこか神秘的ですらあった。
「じゃ…じゃあ行きます……」
「良いよ!絶対打っちゃうんだから!」
アリエルはゆっくりと構え……
「――”精霊魔法・星流し”」
投げた瞬間、ボールは尾を引く流星のように分裂し、まるで夜空に星座が広がるかのような乱舞……いや、これ全部ストライクゾーンに来てる!?
「ひゃっ!?ど、どれ打てばいいの!?」
ラヴィは慌ててバットを振るが――
――ブンッ。
空を切る。
「ストライク」
僕が思わずコールする。
「えぇぇぇ!?今の当たったと思ったのに!」
「次いくよ――”精霊魔法・水鏡乱舞”」
今度はボールが途中で水面に反射するように揺れ、二重三重にブレながら迫ってくる。
ラヴィ、完全に目が泳いでる……!
「うにゃぁっ!」
再び空振り。
「ストライク、ツー!」
「も、もう無理だよぉアルキぃ!」
泣きそうな声を出すラヴィに、アリエルは薄く笑みを浮かべた。
「ふふ……勝負はいつも本気で…です」
「最後は――”精霊魔法・森羅回帰”」
ボールがまるで森を駆け抜ける獣のように、複雑に跳ねながら迫ってくる。
ラヴィは――観念したように目をぎゅっとつむった。
「えいっ!」
カキンッ!
乾いた金属音が響く。
偶然のように、しかし奇跡のようにバットに当たり、ボールはゆっくりと内野へ転がった。
「っ!」
ジークがすかさず走り込み、華麗なグラブ捌きで捕球する。
しかし――
「ラヴィは絶対アルキのご褒美もらうのーっ!」
その言葉で一瞬ジークは送球を躊躇った。
必死に駆け抜けるラヴィ。小さな身体が全力で地面を蹴り、一塁ベースへ飛び込むように走り抜けた。
「セーフ!」
僕は思わず両手を広げて叫んだ。
「やったぁぁ!ラヴィ、いっちてん!!」
ラヴィは一塁の上でぴょんぴょん跳ねながら、満面の笑み。
ジークも苦笑しつつ肩をすくめた。
「ふん……まさか目をつぶって打ち当てるとはな。強運も才能のうちか」
「打たれちゃいました……もっとすごいのでも…いやでも……それだとアルキが……」
そうだねアリエル、僕の身も案じないといけないね。
「次は私が行く、ジークの球見てみたいかも」
「ほぅ、良いぞ。本気で投げよう」
次はジークとミレーユか……、力と力って感じだし、怖いからキャッチャーは誰かにお願いしたいな……。
大体のルールは説明し、全員把握したようだが如何せん人数が少ない。
そこで”弱者の庭”特別ルールを設けてみた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
個人戦方式
チームに分かれず、それぞれがバッターとして挑戦。点数を競う。
得点ルール
ホームランなら 3ポイント。
一塁まで走れたら 1ポイント。
投手ルール
誰が投げてもOK。球種もスピードも……その場のノリ次第。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
初めてだからどんな感じになるか検討も付かないけどまぁどうにかなるでしょ。
「この棒で球を打ち返せばいいんだな?簡単すぎはしないか?」
「そりゃジークからしたら簡単だろうけど……どんな球が来るか分からないよ?」
「妾が最初に投げてやるのじゃ、とっておきを見せてやるのじゃ」
「ほう……それでは相手になろう」
「じゃあラビィは”いちるい”?で待ってるね!」
「じゃあ私とアリエルは守備?」
「え、えーと、そういう事になりますかね……?」
――え?僕キャッチャー?まあジークやミレーユの球ならともかくコヨミの球くらい受けられるか。
「じゃあ始めよう!勝ったら……そうだな。僕からご褒美を用意するよ!」
盛り上げる為に言ったこの言葉で全員の目の色が変わる。
「ほう……それは楽しみじゃな、今晩は盛り上がりそうじゃ」
「また酒を頼むとするか」
「私は……アルキに何かして貰おうかな……」
「アルキのご褒美!?ラヴィ頑張る!」
「お酒……い、いや、他に欲しいもの考えておかないと……」
全員自分が勝つ事前提で喋りだしたな……。
それぞれ配置に付き、ジークがバットを構え――……。
「ちょっとジーク!?それは違うよ」
ジークはコヨミの真正面に立ち、バットを正面で構えている。真っ二つにでもする気?
「なんだ、この方がよく見えるだろう」
「いや知らないよ、とりあえず横に立って。こんな感じね!」
僕がバッターのフォームを見せると「ルールには従わんとな」とジークも同じように構える。
圧倒的強打者感が既に漂うのは流石だな。
「準備はいいかの?」
「良いよー、僕が死なない程度に投げてね」
「当り前じゃ、それでは行くぞ!”千色の幻尾”!」
――は?
コヨミが投げた瞬間視界がぐにゃりと曲がる。ボールが……増えた……?
次の瞬間僕の前に突風が吹き荒れ、気が付けばミットにボールが収まっていた。
「なるほどな……これは倒し甲斐のある……」
ジークは空振りの体勢でニヤリと笑い呟く。何さっきの突風?どんなスイングしてんの……?
「コヨミ、何かしたでしょ君」
「何って幻術じゃよ、普通に投げようもんなら一瞬で球が地平線の彼方じゃろうて」
いやそれはそうだけどさ……。
「ジークはいいの?なんか反則っぽいけど」
「いや、俺は構わない。さぁ、次は当てさせて貰う」
本人が良いなら良いか……勝負続行!
「良い心構えじゃ!そら!”千色の幻尾”!」
またしても視界がぐにゃりと揺らぎ、ボールが五つも六つも見える。今度はそれぞれが四方八方に動き回り、一体何が迫ってくるのか恐怖すら感じた。
普通なら振るだけ無駄……しかしジークは迷わずスイングした。
「――”千戦練磨”」
低く呟いた瞬間、ジークの目の色が鋭く変わる。
その軌道を見抜いたかのように、一つの幻影を断ち切り鋭い音を立てて本物のボールを叩き飛ばした。
ドォンッ!
空気を裂くような衝撃音。ボールは一直線に天へ昇り――このままなら確実にホームランだ。
「っ……!」
僕は思わず目で追ったが、その前にフィールドを駆け抜けた影があった。
ミレーユだ。
風が裂ける音だけが響き、彼女の姿は一瞬掻き消え――次に見えた時には、すでにグラブの中に白球が収まっていた。
「なっ……!?」
ジークですら驚愕の声を漏らす。
「ふぅ……間に合った。結構ギリギリだったかな」
ミレーユは額にかかった髪を払い、涼しい顔で微笑む。
相変わらずの速度……瞬間移動にしか見えなかった。
「ナイスじゃ勇者!これで傭兵は得点無しじゃな!鉄壁のスカートも良い感じじゃ!」
確かに、スカートであんな動きしてるのになんで見えないんだ?
「あんまり人に見せるものじゃないからね」
「……ふ、面白いな。ただの遊戯と侮れん」
ジークが満足そうに笑うと、フィールドの空気はさらに熱を帯びていった。
――さて、次の打席は……。
「ラヴィがやりたい!でもコヨミの球はむずかしいから……アルキが投げて!」
僕が?ピッチャー返しとかで体吹き飛ばない?
「ラヴィよ、万が一があってはならんからの、アリエル辺りなら大丈夫じゃろ」
そうだよね、万が一どころか十が一くらいの確立で良くない事が起こりそう。
「私ですか…?良いですよ、でも手加減はしません…!アルキにお願いをするんですから……」
「アルキだったら簡単そうなのに…分かった!じゃあ勝負!」
僕のクソ雑魚感すごいな。でも命は大事にしていかないとね。
アリエルが静かにマウンドへ歩み出る。フワフワと髪をなびかせマウンドに立つその光景はどこか神秘的ですらあった。
「じゃ…じゃあ行きます……」
「良いよ!絶対打っちゃうんだから!」
アリエルはゆっくりと構え……
「――”精霊魔法・星流し”」
投げた瞬間、ボールは尾を引く流星のように分裂し、まるで夜空に星座が広がるかのような乱舞……いや、これ全部ストライクゾーンに来てる!?
「ひゃっ!?ど、どれ打てばいいの!?」
ラヴィは慌ててバットを振るが――
――ブンッ。
空を切る。
「ストライク」
僕が思わずコールする。
「えぇぇぇ!?今の当たったと思ったのに!」
「次いくよ――”精霊魔法・水鏡乱舞”」
今度はボールが途中で水面に反射するように揺れ、二重三重にブレながら迫ってくる。
ラヴィ、完全に目が泳いでる……!
「うにゃぁっ!」
再び空振り。
「ストライク、ツー!」
「も、もう無理だよぉアルキぃ!」
泣きそうな声を出すラヴィに、アリエルは薄く笑みを浮かべた。
「ふふ……勝負はいつも本気で…です」
「最後は――”精霊魔法・森羅回帰”」
ボールがまるで森を駆け抜ける獣のように、複雑に跳ねながら迫ってくる。
ラヴィは――観念したように目をぎゅっとつむった。
「えいっ!」
カキンッ!
乾いた金属音が響く。
偶然のように、しかし奇跡のようにバットに当たり、ボールはゆっくりと内野へ転がった。
「っ!」
ジークがすかさず走り込み、華麗なグラブ捌きで捕球する。
しかし――
「ラヴィは絶対アルキのご褒美もらうのーっ!」
その言葉で一瞬ジークは送球を躊躇った。
必死に駆け抜けるラヴィ。小さな身体が全力で地面を蹴り、一塁ベースへ飛び込むように走り抜けた。
「セーフ!」
僕は思わず両手を広げて叫んだ。
「やったぁぁ!ラヴィ、いっちてん!!」
ラヴィは一塁の上でぴょんぴょん跳ねながら、満面の笑み。
ジークも苦笑しつつ肩をすくめた。
「ふん……まさか目をつぶって打ち当てるとはな。強運も才能のうちか」
「打たれちゃいました……もっとすごいのでも…いやでも……それだとアルキが……」
そうだねアリエル、僕の身も案じないといけないね。
「次は私が行く、ジークの球見てみたいかも」
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